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廃棄された綿から上質な紙をつくる、繊維の資源循環の新たなカタチができるまで

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繊維ゴミのアップサイクルを追求するCCFの渡邊智惠子代表。コットンペーパーで作られた造花と

年間約137万トン発生するという日本の繊維ゴミ。8割以上が廃棄されるという膨大な繊維廃棄物を繊維ではなく紙として生まれ変わらせるサーキュラーな取り組みが軌道に乗り始めた。廃棄された綿のハンカチやワイシャツなどから、ふくよかで上質な紙が生まれ、さまざまな紙製品に使われる。スタートしてまだ1年のプロジェクトだが、賛同するパートナー企業が拡大し、日本の祭りを彩るねぷたなどの素材としても活用が始まった。紙を作る原料や製造過程を確定できるため紙のトレーサビリティにも挑戦する。この事業を運営するCCF(サーキュラー コットン ファクトリー)の渡邊智惠子代表に、事業を始めた動機やサーキュラーエコノミーを成功させる秘訣などを聞いた。 (環境ライター箕輪弥生)

原料を明確化して紙のトレーサビリティを実現

―― 繊維の廃棄物から紙を作るプロジェクト「CCF」について、まずこの事業を始めた 動機、きっかけを教えてください。

オーガニックコットンの製品を製造販売するアバンティ(東京・新宿)を経営していたので、綿製品を作る過程で端材が出るのは十分わかっていました。その端材はほとんどが燃やされてしまいます。「なんでこんなきれいな綿がゴミになるのか、もったいない」とずっと思っていました。

綿から紙ができるというのは昔からあった技術なので、そういうことを利用して「行き場所をつくればこういう綿も資源になるのではないか」と考え始めたのです。

―― 早い時期から「繊維から紙へ」の構想はあったのですね。

そうですね。1995年からアバンティでは、封筒、カタログ、便せんなどには廃棄される綿を使った「再生木綿紙」を使っていました。商標登録もしましたよ。

でも、その頃はオーガニックコットンの事業に注力していたので、綿紙の使用は自社で使う紙製品に留まっていました。紙を作る原料も8割は木材パルプで、コットンを2割混ぜるのがせいぜいでした。

―― 本格的にコットンペーパーを作るようになったのは。

協力してくれる製紙メーカーの役割が大きいです。製造過程に異物となる綿を入れるため、1日10トンくらいの中小の洋紙会社でないと現実的に作ってもらえないことがわかりました。その中で、富士共和製紙(静岡・富士市)が綿50%を使った洋紙を作ることに挑戦して完成させ、モリシカ(高知・吾川郡)は試行錯誤の末、綿100%の和紙を作ることに成功しました。大手の紙の総合商社である新生紙パルプ商事(東京・千代田)のアドバイスやバックアップも大きかったです。SDGsの観点からも廃棄物から紙を作るということは製紙企業にとっても重要になってきています。

―― 渡邊さんもオーガニックコットンの会社を立ち上げて成功させ、そろそろゆっくりしてもいい時期だったのではないですか。

私自身も長年経営してきたアバンティを次の社長に引き継いだ時期でした。やはり私はチャレンジャーなんだと思います。大きな課題に気づいてしまうとそのまま無視して通り過ぎることができない。たとえその道が険しくても、自ら“けもの道”を作っていくタイプなんです。

――サーキュラー コットンペーパー(以下、CCP)にはどんな特徴がありますか。

まず、質感があってふくよかだと思います。印刷はインクの浸みこみが早いのでマット感があり、落ち着いた色になります。

CCPを使った色付けされる前の立佞武多

紙は漂白をしていないので素材の色が紙に現れます。白い紙はワイシャツの裁断くず、生成りの紙は帆布屋さんからの原料を使っています。そして少し色が混じっているのは、パートナー企業のブルーミング中西(東京・中央)が横浜高島屋と一緒に集めた1万枚のハンカチから作られ、「ハンカチペーパー」と名付けて販売しています。

――つまり、紙の原料がそのまま紙の表情をつくり、原料先をたどれるわけですね。

そうです。これからは紙もトレーサビリティが重要になってくるのではと思います。長年やってきたオーガニックコットンの仕事でも、誰が作った綿で、誰が紡いで糸にして、紡績はどこでといったトレーサビリティを大事にしてきました。紙の世界もそれに近づけたい、それができるのが自分なのではと思っています。

リスクも利益も分かち合うことがサーキュラーエコノミー

―― 現在CCPはさまざまな分野で使われていますが、紙を活用する側のどんなニーズにCCPはマッチングしていますか。

プロジェクトを昨年の3月に立ち上げて、すでに110社がパートナー企業として加わってくれています。ニーズは、「ゴミにしない」ということに共感しているということだと思います。紙の回収率は85%で利用率は67%と高いですが、繊維のリサイクル率は、わずか17.5%たらずです。世界のゴミの14%が繊維だという事実をわかったら、もっと繊維業界も積極的に動いてもいいのではと感じています。

――最近ではCCPがユニークな使われ方をしていますが、その事例をいくつか教えてください。

CCPはパッケージやカタログ、カレンダー、画用紙、はがきなどさまざまな紙製品に使われていますが、「アイコンになるようなものがない」とある企業から言われたことがあります。それで考えたのが日本の祭りに使うというアイデアです。

今年の夏、実際に青森の五所川原立佞武多(たちねぷた)にCCPが使われました。4時間の雨の中でも耐久性は問題なく、ねぷた師も色ののりや、筆運びもスムーズだったと太鼓判。「SDGs立佞武多」として話題になりました。

今年使ったねぷたの廃棄する和紙を用いてCCPの原料として、今度はクリスマスツリーとしてアップサイクルされる予定です。仙台の七夕の子どもたちが作った七夕飾りもリサイクルしてCCPとして循環させることも考えています。イベント終了後の紙も燃やされて廃棄されることが多いのです。

ねぷたの廃棄する和紙を用いてアップサイクルされたクリスマスツリー「NEP* ART TREE」

――お祭りで使われた紙も循環していくのですね。このような サーキュラーエコノミーの実現を考えた時に、何が重要だとかお考えですか。

サーキュラーな取り組みはだれか1人や1社で完結するものではありません。みんなでいっしょになってやらなければ、実現しないし、子どもたちにきれいな地球を残せない。

だから1社が儲かるとかリスクを負うのではなく、事業のリスクも利益もみんなが分担することが重要です。ですからCCFの事業もまずはパートナー企業になってもらうことから始まります。循環をつくるために協力しあい、それがトレーサビリティを明確にすることにもつながります。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/