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脱炭素特集

EUが35年にガソリン・ディーゼル車の販売禁止を発表、世界に広がるEV化の流れ

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EU域内の充電スタンドは100万カ所以上に増やすことが計画されている (Ivan Radic)

2050年カーボンニュートラル目標に向けて、世界で運輸部門のゼロエミッション化の流れが加速している。欧州連合(EU)の欧州委員会はこのほど、温室効果ガスの大幅削減に向けた包括案の中でハイブリッド車を含むガソリン車など内燃機関車の新車販売について2035年に終了する方針を打ち出した。世界最大の自動車市場である中国も2035年までに新車販売のすべてをEVなどの新エネルギー車やハイブリッド車にする計画だ。米国は、カリフォルニア州が35年までにガソリン車の新車販売を禁止し、ニューヨークを含む米12州の州知事らと共に国全体での同様の規制を求めている。急速なEV化の流れに対し、欧米や日本の自動車メーカーも対応を迫られる。(環境ライター 箕輪弥生)

2050年EUカーボンニュートラルには運輸部門の脱炭素が不可欠

EUの欧州委員会は、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で最低でもマイナス55%にするという目標に向けたロードマップ「欧州グリーンディール」に向けたさまざまな具体策を7月14日に発表した。

2035年にハイブリッド車を含むガソリン・ディーゼル車の販売を事実上禁止するという案は、その中のひとつであり、これまでEU各国や都市が独自に規制を進めてきたものを、欧州委員会が指針を示して基準をまとめた形だ。

この背景には、欧州では船舶や航空を含む運輸部門の温室効果ガス排出量が全体の4分の1を占め、発電や産業部門の排出は減っているものの、運輸部門の排出は増加していることがある。つまり、運輸部門におけるエネルギーシフトが脱炭素へのカギを握っているとも言える。

フォンデアライエン欧州委員長は包括案について、「現在の化石燃料による経済活動は限界に達しており、新しいモデルに移行しなければならない。それはイノベーションを原動力とし、クリーンなエネルギーを利用した循環型経済だ」と表現している。

この計画に伴い、自動車だけでなく海運業も、新たに排出量取引制度の対象として加えられ、航空燃料を対象にエネルギー税を改正するなど、運輸部門への規制強化が重点的に盛り込まれた。

また、EU域内の充電スタンドを100万カ所以上に拡充し、主要な高速道路上では電気充電は60km毎に、水素燃料は150km毎に充電及び燃料補給地点を設置することも合わせて計画されている。

欧州車メーカーは明確なEVシフトへ、国内ではホンダが脱ガソリンへ

■欧州でのEV、ハイブリッド、代替燃料車の前年度比変化

欧州自動車工業会(ACEA) 欧州ではすでにEVへのシフトが明確化している

このような自動車産業への急速な脱炭素化への法規制は、メーカーのゼロエミッション化への動きを早めている。

独フォルクスワーゲン(VW)は6月、欧州で35年までに内燃機関車の販売を打ち切る方針を示した。30年までに欧州の販売全体の70%をEVにするとの目標も示している。

プジョーやシトロエン、フィアット、アルファロメオ、クライスラーなど14のブランドを傘下に持つステランティスは、今月、14ブランドのすべてにEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)を投入し、2030年までにこれらの割合を欧州で7割に高めると発表した。

この動きを進めるためにステランティスは、欧州と北米に5つのギガファクトリーを建設するなどして2030年までに260GWhのバッテリーを確保する。1分の充電で32kmの走行ができるよう、パワーアップした急速充電の実現も目指す。

さらに、同社はバッテリー価格も2024年には2020年と比べて4割削減する。あわせて、バッテリーのリサイクル、リユースの事業も進め循環型経済への配慮も行うなど、EVシフトを進めるための布石を全方位で進める意向だ。

国内では、ホンダが4月末に2040年までに販売する車をEVおよび燃料電池車(FCV)にするという目標を発表し、明確に“脱ガソリン”を示した。

一方、日産自動車は1月、2030年代早期に主力市場で販売する新型車をすべてEVやハイブリッド車(HV)などの電動車に切り替えると発表。トヨタ自動車も5月、2030年にEVとFCVが約200万台、HVとPHV約600万台の販売目標を想定するなど、完全な脱ガソリン目標は示していない。

■中国、米カリフォルニア州もゼロ排出モビリティへ

車のゼロエミッション化が進むのはEUばかりではない。

中国は昨年10月「省エネ・新エネルギー車(NEV)技術ロードマップ」で、「2035年をメドに新車で販売するすべてのクルマをEVなどの新エネルギー車(NEV)やHVにする」という方針を示した。

米国はカリフォルニア州が国に先駆けて35年までにガソリン車の新車販売を禁止し、カリフォルニアとニューヨークを含む米12州の知事は4月に、バイデン大統領に35年までにガソリン車の新車販売を禁止するための規制を設けるよう要請している。

さらに早い時期に、化石燃料ゼロの目標を打ち出した国に中米のコスタリカがある。同国はすでに電力の99%を再生可能エネルギーで発電しているが、二酸化炭素の4割が自動車から排出され、この部分での対策が必至だった。そのため、2018年には2021年までに輸送分野における化石燃料の使用を終わらせる計画に着手すると発表している。

欧州では昨今の洪水により、ベルギーやドイツで未曽有の被害が出ており、ドイツのメルケル首相は、「気候変動に断固として取り組む必要がある」と指摘するなど、直面する気候変動の加速が脱炭素への取り組みを急がせている。運輸セクターでの明確な脱炭素化への方向転換に対し、日本の自動車メーカーが今後どう対応していくか、その推移も注目される。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/