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高知と宮崎の伝統漁法「近海かつお一本釣り」がMSC認証取得 消費者の認知向上が焦点に

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一本釣りカツオのたたき (提供:土佐料理司)

日本近海でカツオの一本釣りを行う高知県と宮崎県の漁業者ら有志18隻による「近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会」が22日、持続可能な漁業の国際的な基準とされるMSC 漁業認証を取得した。同認証は、国際非営利団体、MSC(海洋管理協議会:本部ロンドン)による科学的根拠に則った規格に基づき、第三者機関が厳格な審査を行った結果、持続可能な漁業を行っていると認められた漁業にのみ与えられるものだ。国内のカツオ一本釣りでは、これまでに宮城と静岡の遠洋一本釣り漁船が取得しているが、カツオが北上し、次いで南下するのに合わせて日本近海で操業するカツオ一本釣り漁船が一度にこれだけの規模で取得するのは初めてのこと。日本の漁師が大きな竿でカツオを一本ずつ豪快に釣り上げる、こうした昔ながらの伝統漁法について環境に対する負荷が小さいということが証明された意義は大きく、カツオの魚価を高め、伝統漁法をさらに後世へとつないでいく上でも大きな一歩といえる。同協議会代表の中田勝淑氏に話を聞いた。(廣末智子)

「近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会」は、「高知かつお漁業協同組合」(高知県高知市、中田勝淑組合長)と「南郷漁業協同組合」(宮崎県日南市、江藤久義組合長)に所属する18隻の近海一本釣り漁船で構成。今回、認証の対象となったのは、これら18隻の漁船が漁獲する一本釣りのカツオとビンナガマグロで、2019年の漁獲量は約1万4500トンだった。MSCの日本事務所であるMSCジャパンによると、日本でMSC認証を取得している漁業は、これで12件となった。

同協議会はMSC認証の取得に向け、2019年11月に発足。2020年春から、「水産資源が持続可能なレベルにある」「海洋生態系への影響が抑えられている」「長期的な持続可能性を確実なものにする適切な管理システムが機能している」の3原則を満たしているかどうかの審査が、第三者機関である英コントロール・ユニオンによって行われ、ステークホルダーからのコメントや報告書の外部審査結果なども踏まえて認証の決定がなされた。MSCによると、世界ではマグロ・カツオ類を対象とする漁業のMSC認証取得が加速している。認証を取得している、あるいは審査中の漁業による漁獲量が世界全体のマグロ・カツオ類漁獲量に占める割合は、2019年度の26%から2020年度は49%へとほぼ倍増しているという。

漁獲量低迷、船員不足‥‥「江戸時代から続く伝統漁法を残したい」

近海一本釣り船「順洋丸」(高知県中土佐町)の操業風景 (提供:中土佐町)

同協議会の代表を務める中田勝淑・高知かつお漁業協働組合組合長によると、日本近海における高知県のカツオ一本釣り船による水揚げ高は昭和59(1984)年ごろの約5万4000トンをピークに、年によってばらつきはあるものの、総じて減少の一途を辿っている。遠因には気候変動の影響なども関係していると思われるが、直接の引き金になっているのは世界的なカツオの消費量拡大に伴い、1990年代から、カツオの産卵、生育域とされる中西部太平洋の熱帯域で大型巻き網船による乱獲が目立って増え、日本近海への回遊が減ったことが考えられるという。同準備会がMSC認証の取得を目指したのは、こうした漁獲量の低迷に加え、船員不足や船主の高齢化、後継者問題といった業界の厳しさを背景に、「江戸時代から続く日本を代表する伝統的な漁法であり、カツオを竿で1尾ずつ漁獲する、環境に非常に優しい漁業であるカツオ一本釣りを将来に残したい」という強い思いがあってのことだ。

課題は日本の消費者にどのくらい届くか MSC認証も試されている

日本近くのカツオの群れは黒潮に沿って春には南から北へ、秋には北から南へと移動する。近海カツオ一本釣りとは、2月ー11月下旬ごろにかけてこの群れを追い、九州沖から三陸沖の日本近海へと約10トンから400トンまでの船が繰り出し、群れを見つけたら、餌となるカタクチイワシを投げてカツオを呼び寄せ、群れのなかで食い気のある(餌をよく食べる)カツオだけを竿で一本一本釣り上げる漁法だ。針にかかり、しなる竿の先に姿を現したカツオを豪快に釣り上げる漁師とカツオとの格闘は、「カツオと人間の勇壮な真剣勝負」と表現されることもある。4月ー6月にかけて獲れるものは「初鰹」、9月ごろ黒潮を南下し始めたカツオは脂の乗った「戻り鰹」として古来より日本人の目と口を楽しませてきた。

今回、認証を取得したことでこの近海カツオ一本釣りがいかに自然の掟に則った、持続可能な漁法であるかが国際的に実証された。釣った魚は遠洋1本釣りとは違い冷凍ではなく、すべて水氷輸送され、主に千葉の勝浦港や宮城の気仙沼港に水揚げされる。したがって“生”のカツオを刺身やたたきとして食べることができる漁法としてMSC認証を受けたのも今回が初となる。この朗報に、中田組合長は「私たちの漁法が世界的基準を満たしていると認められたことは非常に喜ばしく思う」と素直に喜びを表した上で、「課題は、MSC認証を受けたカツオとビンナガマグロが日本の消費者にどのくらい届くかということだ」と厳しい表情も見せる。

それというのも、MSC認証を取得した漁業で獲られた水産物を、MSC「海のエコラベル」を付けて量販店や飲食店などに流通させるには、加工業者や仲買い業者、スーパーや飲食店など水産物を取り扱うサプライチェーン上において、認証水産物と非認証水産物が混ざることを防ぐとともに、認証水産物のトレーサビリティの確保を確実にするための「MSC CoC認証」を各事業者が取得する必要がある。MSCによると、このCoC認証についてもここ数年、世界で急増しており、日本においても2006年に当時の築地市場で仲卸業務を行う亀和商店が取得したのを皮切りに徐々に増え、2018年1月―2020年12月末までの3年間で160社が取得したことで300社を超えた。これにより、MSC認証、「海のエコラベル」の付いた水産品は世界約100カ国で4万9000品目以上、また日本では900品目以上が承認・登録されており、イオングループや生協・コープ、セブン&アイグループ、西友、ライフ、マクドナルドなどで販売されているという。

もっともMSC漁業認証にしても、CoC認証にしても、認証を取得するには漁業者や事業者に高額なコストがかかることもあって、CoCについては大資本のスーパーなどに限られ、地方のスーパーなどではまだまだ取得の動きが進んでいないのが実情だ。中田組合長の懸念もそこからきているようで、「消費者の地産地消に対する意識は高いが、それと同じように、環境に対する配慮をしている漁業を応援しようという気持ちを持ってもらえるよう、流通面での取り組みがさらに進むことを期待したい」と強く願う。

そう願うのには、この認証申請中の約1年半の間にもコロナ禍で飲食店向けの需要が激減し、経営的にも厳しい上に船員不足が原因で認証を申請していた組合員の1船が廃業するなど、業界を巡る危機感が一層募っているからにほかならず、「この認証取得を機になんとしても土佐の一本釣り漁船に勢いを取り戻し、さらに知名度を上げたい」という決意がにじむ。同組合では以前、日本初の水産エコラベルとされる「マリンエコラベル」を取得したが、思うように店頭への普及が進まず、申請の更新を見送った経緯からも、その二の舞は避けたいという思いもあるようだ。「理念は正しくとも物が動かないと意味がない。『海のエコラベル』を付けて売ることで消費者の購買行動に変化を起こせるのか。MSCも試されていると思う」。

県を挙げてカツオ文化の継承へ 飲食店もCoC認証取得

カツオの消費量日本一を誇り、カツオを「県魚」とする高知県では、カツオ資源の保全を目指した「カツオ県民会議」を2017年に立ち上げるなど、県を挙げて日本のダシ文化と高知のソウルフードとしてのカツオを守り抜く姿勢を示している。今回の同組合のMSC認証取得に合わせた動きとしては、カツオのたたきをはじめとする土佐料理店を高知・大阪・東京で計11店展開する外食チェーンの「土佐料理司」が、カツオのたたきや刺身を扱う外食店として初めてCoC認証の申請を行い、同組合より一足早く今月認証を取得した。これを同組合が「“海のエコラベル”の付いた、正真正銘、地球環境に優しい、土佐の漁師が一本釣りしたカツオを多くの人に味わってほしい」と喜んでいる様子だ。

また高知県水産振興部水産政策課の漁﨑盛也チーフは、今回のカツオ一本釣りのMSC認証取得について、「土佐の伝統漁法が国際的に認められた非常に喜ばしいニュースだ。県としても、MSCのラベル付き商品が、持続可能な漁業によって獲られた魚の証であることを消費者に何らかの形でアピールするなど、魚価の低迷や後継者難に苦しむ業界が少しでも潤うきっかけとなるよう、カツオ県民会議とも協働し、MSC認証の活用の幅を広げる手助けをしていきたい」と話している。

MSCジャパンによると、日本でMSC認証を取得している漁業は、今回の「近海かつお一本釣り漁業国際認証取得準備協議会」のカツオとビンナガマグロ一本釣り漁業のほかに、北海道のホタテガイ漁業、マルト水産(兵庫・相生)のカキ漁業、明豊漁業(宮城・塩釜)と石原水産(静岡・焼津)のそれぞれカツオ、ビンナガマグロ一本釣り漁業、臼福本店(宮城・気仙沼)の大西洋クロマグロはえ縄漁業と、尾鷲物産(三重・尾鷲)のビンナガマグロ、キハダマグロ、メバチマグロはえ縄漁業の計12漁業。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。