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脱炭素特集

温泉熱や未利用熱で発電と熱利用を行う「バイナリー発電」が拡大

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長崎県小浜温泉では日本有数の熱量を生かして、早くからバイナリー発電に取り組む

再生可能エネルギー導入の拡大が望まれる中、世界第3位の地熱資源を持つ日本は、地熱発電に関する技術はありながらも、資源の約2.2%しか発電に利用していない。しかし、地熱発電は安定した出力が望めることから、昨今はベースロード電源としても注目を集めている。中でも、150℃未満の地下温水や温泉などの熱を利用する「バイナリー発電」は全国で開発が相次ぎ、発電と熱利用により地場産業に貢献する成功事例も出てきた。一方で、地域の合意形成や温泉特性による発電効率の低下など解決すべき課題に苦労するケースもある。(環境ライター 箕輪弥生)

小規模のバイナリー発電は“地域活用要件”が必須に

バイナリー方式では国内最大級の大分県「滝上バイナリー発電所」(出光大分地熱)

現行の「第5次エネルギー基本計画」では、地熱発電は2030年度までに、設備容量を現状の約3倍の約150万kWまで増加させ、ベースロード電源の一角を担うことが目標とされている。環境省は全国の地熱資源量を5000万kWと推定しており、今後のエネルギー基本計画では目標のさらなる上乗せも想定される。

世界の地熱発電設備の7割は日本の技術によるものだ。地熱先進国と言われるアイスランドやインドネシアでも日本企業の技術が数多く使われている。

しかし、大規模な地熱発電の開発には、時間とコストがかかり、地熱資源が豊富な地域が偏在していることによる系統制約や地元との調整、環境アセスメントなど多くの課題があることも事実である。

そのため、2015年にはこれまで開発が認められていなかった国立・国定公園地域での開発が条件付きで承認され、FIT価格も2019年度から据え置かれ、大規模地熱(1万5000kW以上)で26円/kWh、小規模地熱(1万5000kW未満)で40円/kWhと他の再生可能エネルギーに比べても比較的高く設定されている。このためFIT導入後は、小規模なバイナリー方式の導入が60カ所を超え、各地で拡大している。

バイナリー発電とは、150℃以下の熱水や蒸気を水より沸点が低い媒体(水とアンモニアの混合物など)と熱交換し、この媒体の蒸気でタービンを回す発電方法で、温泉や未利用の温水などを利用して発電する。

たとえば、大分県の「滝上バイナリー発電所」(2万7500kW・出光大分地熱)は1996年から稼働する既存の地熱発電所「滝上発電所」で、これまで使われずに地下に戻していた還元熱水を使って発電(5050kW)し、エネルギー効率を高めている。

福島県の土湯温泉では、源泉の蒸気と熱水を活用して約300万kWhの電気を売電し、年間1億円以上を売り上げる。発電に利用した後の温泉水を旅館に配給する一方、発電の過程で生まれる2種類の温水を組み合わせてエビの養殖事業にも取り組んでいる。

東日本大震災で客数の落ち込んだ土湯温泉だが、導入後はバイナリー発電やその仕組みを視察するために多くの見学者が訪れ、観光にも大きく寄与している。売電収入は、施設のメンテナンスだけでなく、地域の温泉組合と観光協会に配当という形で資金を還元するほか、車の免許証を持たない人や高齢者にバス定期券代を無料にするサービスなど地域貢献のためにも使われる。

このように、大規模地熱発電と異なり、開発期間やコストが抑えられる小規模のバイナリー発電は、エネルギーの「地産地消」を行う分散型エネルギーの役割を担い、エネルギーコストが外部に流出せず、地域で経済が循環する。特に発電と合わせた熱利用により、地場産業の発展に貢献することも可能だ。

こうした背景をとらえ、2000kW未満の小規模地熱のFIT要件には、2022年度から“地域活用要件”が加えられることになった。これは地熱で発電した電気や熱を地域の防災計画に役立てたり、自治体が発電事業に主体的に参加することが求められる。

小浜温泉の事例から考えるバイナリー発電の課題

冷却に海水を使用する長崎県「小浜温泉バイナリー発電所」

注目されるバイナリー発電だが、実際に運用していくにはいくつかの課題もある。

長崎県の雲仙岳のふもとにある小浜温泉は、日本一とも言われる温泉の熱量を生かそうと早い時期から地熱バイナリー発電の導入を試みてきた。2011年~2013年の実証事業終了後、2015年に洸陽電気(現シン・エナジー、兵庫県・神戸市)によって事業化され、年間平均出力75kW程度で発電し、全量を売電して年間約2500万円の収入があがる。

しかし、小浜温泉には2004年に一度バイナリー発電事業を断念した経緯がある。当時の役場と事業者が主導して発電計画が進められていたが、既存温泉への影響を懸念した温泉事業者らが反対運動を展開し、県も温泉掘削を許可しなかったため中止となったのだ。

その後、2009年ごろから長崎大学が中心になって提案し、再度地元との協議を重ねた結果、関係者らで組織する「協議会」を設立して事業を進めることになった。現在はかつての反対運動の中心人物らも推進協議会の中心メンバーとして参加するほどだ。

また温泉成分が固着するスケール(湯の花)の影響も大きく、配管や熱交換器に詰まって発電効率が低下し、メンテナンス費用の増加と合わせて事業性を悪化させる原因にもなった。そのため事業性が十分に見込めず、地元事業者による事業展開にはつながっていない。

小浜温泉のバイナリー発電に長年関わってきた雲仙市役所環境政策課の佐々木裕さんは、「さまざまな課題はあったものの、温泉発電の関連技術の実証事業を誘致することにつながり、技術交流の機会が増え知見が集積したことが収穫となった」と話す。

今後は「市内で大規模な地熱開発計画も複数あることから、温泉バイナリー発電事業のこれまでの経験やネットワークを活用して、適切な協議が実施されるよう市では条例に基づく協議体制を構築する」(佐々木さん)予定だ。

目標設定をにらみ、勇み足となりがちな開発計画だが、地熱ポテンシャルを地域のエネルギーとして活用するには、十分な地域のコンセンサスと協力体制、熱源の特性に応じたシステムの検討が不可欠だ。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/