ロックフェラーなど米大手資本が化石燃料投資から撤退
米国ユタ州にある石炭採掘場 (C)slashvee「Alton Coal Mine」https://www.flickr.com/photos/slashvee/12823561733/
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米国の大手資本が、COP21パリ会議後に化石燃料関連の投資からの撤退(ダイベストメント)を加速させている。ロックフェラー家が管理する「ロックフェラー・ファミリー・ファンド」は、3月、化石燃料関連への投資を中止し、保有する石油大手エクソンモービルの株式も売却すると表明した。米金融大手JPモルガン・チェースも同月、石炭産業からの引き上げを発表。米バンク・オブ・アメリカ、シティなどもすでに撤退を示している。(箕輪弥生)
米国では、大手銀行や金融機関が相次いで、石炭や石油など化石燃料に関わる企業への投資を中止する「ダイベストメント」という動きを強めている。この動きの背景には、COP21パリ会議において、温室効果ガス排出削減の目標達成のため、世界各国の政府が環境規制強化を行うなど、政策の転換が強まったことがある。多くの銀行でも、COP21での合意(パリ協定)を実施に移そうと、化石燃料からの撤退を続々表明している。
中でもこれまで石油事業で財を成した米有力財閥ロックフェラー家が管理する基金「ロックフェラー・ファミリー・ファンド」が化石燃料関連への投資を中止すると発表したことは驚きをもって受け止められた。
同ファンドは石炭や、カナダのオイルサンドの保有資産を処分するほか、米石油メジャーのエクソンモービルの株式も売却すると発表している。同ファンドは声明で「国際社会が化石燃料の使用削減に取り組む中、こうした企業への投資を続けることは金銭面でも倫理面でも道理に合わない」と説明した。
米金融大手のJPモルガン・チェースも3月、世界中の未開発炭鉱への新規融資を行わず、新たな石炭火力発電所への融資もしないなど、広範囲な石炭産業からのダイベストメントを発表した。同行が石炭採掘からだけでなく、石炭火力発電所からの投資撤退についても言及したことは注目される。
石炭投資へのダイベストメントも大きな流れに
バンク・オブ・アメリカは2008年と米系銀行の中で最も早く、大規模な石炭関連へのダイベストメント方針を発表した銀行である。2015 年 5 月に発表した「Bank of America Coal Policy」の中では、改めて「石炭採掘に関わる企業への投融資残高を世界的に削減する」ことを表明した。
さらに、米国ニューヨークに本拠地のあるモルガン・スタンレーは、2010 年に石炭採掘からの融資停止を表明し、2015 年 12 月には石炭火力発電所への融資制限の取り組みを始めた。同様に米シティグループも2015年10月に石炭採掘企業への融資からの撤退を進めていく方針を公表した。
この動きは地方自治体が運営する基金にも広がっている。カリフォルニア州では 2015 年 9 月、「価格が減少している石炭への投資は経済的損失となるだけでなく、健康被害をもたらし、気候変動に立ち向かう州の努力と矛盾する」とし、同州が管理する 2つの年金基金に対し石炭からのダイベストメントを課す法案を可決した。
世界の投資トレンドに逆行する日本
これらの大手金融機関の動向から見えることは、石炭分野から世界的な銀行の資本が逃避しているということだ。石炭は燃焼の過程において、気候変動の主要因である二酸化炭素の排出が大きい。また、米国では石炭は発電所でのシェアをシェールガスなど安い天然ガスに取って代わられており、石炭価格の低迷から事業採算性が大きく悪化している。
世界最大の石炭採掘会社「ピーボディーエナジー」(米国)が4月に会社更生手続きの適用を申請したことからも分かるように、米国の大手銀行が環境政策やCSRという観点だけでなく、経済的な側面からも石炭産業への投資を控えているのが現状だ。
これに対して日本は、世界のトレンドとは全く逆の方向を歩んでいる。大型の石炭火力発電の新設計画が相次ぎ、ここ数年~数十年のうちに合計で少なくとも原発20基分の出力が増える予定だ。国内の金融機関はこれらの計画に融資を行う予定であり、アジアの石炭火力発電にも投資を行っている。