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細田悦弘のサステナブル・ブランディング スクール

第46回 EXは、SXのキードライバー

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

DX、GX、SX…。何やら、「アルファベット+X」が俄然目につくようになりました。ところが、それを担う従業員にまつわるEXの「X」は毛色が違うようです。人的資本に注目が集まる今、EXのアプローチは不可欠です。EXは、Employee Experience(エンプロイー・エクスペリエンス:従業員体験)です。従業員が会社生活においてウェルビーイングを『体験』できてこそ、エンゲージメントが高まり、SXの実現に勢いがつきます。

SXは『移行』ではなく『変革』

毎日のようにメディアに登場する『サステナビリティ』。新聞・テレビ等の企業広告でもよく発信されています。多くの企業は経営の中核にサステナビリティを据え、「サステナビリティ経営」を唱えています。企業の本分は人々の生活を豊かにすることといえます。サステナビリティ経営の本質は、現代において豊さを追求するために、社会(環境含む)の持続可能性を担保しながら、企業の持続的成長・中長期的な企業価値向上を図ることにあります。もはや従来の経営戦略のあり方を抜本的に見直すことが迫られ、そこで『SX』という大変革に直面しています。

SXとは、Sustainability Transformation(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の略語です。「Transformation」が『X』に略されるのは、「Trans」という言葉の由来にあります。「trans」は、「cross」という言葉と同義であり、「交差する」という意味の「cross」は省略して『X』と書かれるため、同じ意味の「trans」も『X』で代用されるようになったとされます。したがって、GX(Green Transformation)もDX(Digital Transformation)も、『X』には同じ意味合いが込められています。企業がSXを目指すにあたって、その大きな目標の一つがGXであり、そのための卓越した手立てがDXとなります。

経済産業省「伊藤レポート3.0」によれば、「SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを『同期化』させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォー メーション)を指す」と定義されています。
SXは、単に企業が地球や社会に配慮する経営に『移行』するだけでなく、「社会全体の持続可能性」と、「企業の持続可能性」を同時に実現する経営へと『変革』することを意味します。そして、この 『大変革』を担うのは従業員であり、そのために重要な取り組みテーマとなるのが『EX』です。ちなみに、この『X』は上記とは毛色が違います。

SXを実現するには、まずはEX

昨今、人的資本開示の必修科目ともいえる「従業員エンゲージメント」に取り組む企業が増えています。
従業員エンゲージメントとは、『会社や仕事に対して自発的な貢献意欲のもと、主体的に取り組む状態』をいいます。これが、SXに立ち向かう従業員の必携のメンタリティといえます。そのためには『EX』が必要不可欠であり、SX実現のための原動力となります。さらに言えば、EXの充実なしでは、SXによる競争優位を獲得することは難しい時代となったといえます。

EXは、Employee Experience(エンプロイー・エクスペリエンス)を指し、日本語では「従業員体験」と訳されることもあります。従業員が会社で働くことを通じて得られる経験価値です。従業員(エンプロイー)一人ひとりが心身ともに健全で、かつ社会的にも良好な状態である『ウェルビーイング』を体験(エクスペリエンス)できることで、自発的・主体的に継続して生産性向上につなげていく考え方です。
マーケティングの世界では、顧客体験のことを『CX(Customer Experience)』と称されますが、この概念を人的資本領域に適用したのがEX(エンプロイー・エクスペリエンス)といえます。EXは、従業員を顧客に見立て、従業員のエンゲージメントを高め、持続的にパフォーマンスを向上させていく取り組みです。

エンプロイー・エクスペリエンスに必要な要素としては、個人の側面では「健康」「家族」「通勤」「財政面の健全さ」などがあり、企業人として重要なのが「仕事上の価値観」「職責(仕事内容)」「キャリアに対する姿勢」「心理的安全性」などがあります。とりわけ近年ではZ世代・ミレニアル世代を中心に、『社会のためになりたい』『自分を高めたい』というニーズが高揚してきており、サステナビリティに対する企業姿勢をパーパスとしてしっかりと標榜することが求められています。従業員からパーパスへの共感(自己実現と会社のめざす姿とがシンクロした状態)を得ることはエンゲージメントを強化し、モチベーションの基盤となります。EXへの取り組みは、SX実現のためのキードライバーといえましょう。キードライバーとは、目標達成度に大きな影響を与える要素のことです。人的資本経営の観点からも、EXのアプローチは必須です。

EXによるロイヤルティーで、『自社らしさ』を体現する

EXの高度化によって、従業員エンゲージメントが強化されロイヤルティーが醸成されます。自社に誇りをもった従業員一人ひとりが、顧客や社会のあらゆる接点において『自社らしさ(ブランドアイデンティティー)』を自発的・主体的に体現することでブランドは高まります。従業員の一挙手一投足がパーパスに根差していれば、サステナブルブランディングにつながります。

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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