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ミレニアル世代から見た林業 100年先の未来を考える

人間は第三者、ゆるやかな距離感で山と向き合う林業:田丸光起・林業舎 雨と森 (2/2)

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SB-J コラムニスト・井上 有加

林業における再生(リジェネレーション:regeneration)の兆しとはどのようなものだろうか。個人、組織、地域や業界、そして社会の再生について、いま様々なスタイルで林業に関わるミレニアル世代の横顔から描き出してみたい。第1回は、広島県で林業を起業した田丸光起に話を聞く。

田舎ならではのワークスタイル

井上:田舎にいると、普段は同世代と話すことも少なくて、なおさら外とのつながりは大事だって思う。

田丸:大事だね。地域の外に出た経験の有無で、感覚が違う部分もあるよね。そういう意味では、僕は東京に出てよかった。実は一時期、林業と兼業しながらパートタイムで働いていたパタゴニアの企業理念や風土にすごく影響を受けている。環境に対する意識も、はたらき方も素敵だと思う。「いい波があったら仕事するよりサーフィンに行け」という考えがあって、それは自由奔放ということじゃなくて、誰かが抜けても仕事が進むような取り組み方をするということ。それは今回のコロナ禍のような状況でも強い働き方だと思う。

井上:それは産休のある女性にとってもありがたいね。

田丸:特に僕は田舎で起業してるわけだから、これからは仕事と同時に自分の生活スタイルというか、この町でやりたいこととか、どんな生き方をしたいとかを、従業員にも大事にしてもらえる会社になりたい。たとえば林業以外にガイドの仕事をしてるとか、冬は雪が降ったらスノーボードに行くから休みが多くなるとか、それが許せるような会社にしたい。

同居する祖父母と作ったお茶。これも田舎ならではの暮らしの一場面

これから田舎に移住して来る人は、社会的に通用するスキルを持ちながら、田舎的な人の付き合いや時間の流れの中で生活することを求めて来るはず。だから彼らの持っているスキルを生かして、望んでいるような楽しいと思えるライフスタイルも実現してもらって、「この会社だからできた」と思えるような人間関係を構築できる会社にしたい。

井上:田舎で都会と同じようなはたらき方をしても仕方ないって思う。

田丸:副業なんかも、田舎では昔から当たり前のようにやってきた。その方が地域の可能性も広がるだろうし、仕事じゃない形でも地域と関わる人が増えるほど、地域の魅力が高まっていくはず。

林業の顧客は誰か

田丸:井上さんに聞きたいんだけど、木を扱う工務店から見て、林業に対して求めることってあるのかな?

井上:実際、建築と林業の距離がすごく遠いのはひしひしと感じるけど、やっぱり木の品質は家の構造にも影響してくるし、いい木を提供してくれる製材所にはちゃんとした対価を支払って付き合いたいと思う。頼んでもいないのに安かろう悪かろうの木を売ってこられると、そこで木というものに対する信頼感が崩れてしまって、その先の林業にも波及するから、製材や加工が、林業と建築をつなぐ要だと思う。

田丸:そういう意味では、僕たち林業サイドとしても、どんな売り先と付き合うか大事になってきそうだね。伐った木をすべて原木市場に出すのではなくて、いい木だなと思ったら、その価値を適正に引き継いでくれるところに販売しないといけない。一方で、量で勝負しないといけない時もあるから、総合的なボリュームの中からクオリティを見極めて、どういう売り先とビジネスとしてつながっていくのかはすごく重要になる。そもそも、自分たちが“いい山づくり”と言っているのは、林業サイドから見たいい山なのか、納入先に商品を提供する意味でのいい山なのか?

井上:林業が難しいのは、お客さんが多すぎることだよね。環境や多面的機能という文脈もあるし、森林所有者も、木の売り先もお客さんだから。

田丸:だからこそ今は事業を素材生産一本に絞る勇気はまだなくて。現状で売上高の8割を占めている公共事業を引き続きやりつつ、バランスを見ながらやっていく。結果としていい森ができるかどうかは、それはたぶん会社のカラーになってくるかなと。社会に求められている林業って何だろう。

井上:田丸君のような林業者が近くにいたら、自分の山もお願いしたいと思うよ。

田丸:そういう期待に応えられるのは、ちょっと先かもしれない。個人でやるには限界も感じていて、機械を購入する体力もないし。近く法人化して人を増やして、大きすぎない機械の作業システムを構築して、やりたい林業ができるノウハウと体力をつけたい。

その時までには、企業理念をしっかり言葉にしないといけないと思う。僕たちが森とどう関わっていくかが企業理念であり、会社が存在する意味とか社会から必要とされる部分になってくる。素材生産も特殊伐採にしても、理念のための手段でしかない。今はまだそれを明文化していないから、少しふらふらしていて、名前がついていない子どもみたいな感覚がある。

井上:法人になっても、顧客は誰かという定義は大事だね。

田丸:今は「雨と森」のfacebookをやっているけど、備忘録的なもので、まだ顧客向けにはなっていなくて。

「いいね!」をもらえなくても林業をやれるか

井上:SNSについてだけど、最近は人に共感してもらえないと何もできないというか、「いいね!」って言われたいからビジネスや活動やってますって人が増えている気がして。私たち世代がそういう弊害の始まりで、デジタルネイティブの世代ほど重症になるかもしれない。

田丸:今の20代は環境問題や地域づくりについてもすごく危機意識や関心を持っているよね。その半面、たとえば“地域おこししたい”という思いから地域に入っていくことが、地域で仕事をする上で本当に有利かどうかわからない。僕は幸いにして林業という自活する術を持っているけど、地域おこしをしたくてそこに居続けるために仕事を探さなきゃいけないというのは逆じゃないかな。いわゆる「いいね!」をどれだけ獲得するかに目的の矛先が行っているとしたら、大変なんじゃないかな。

井上:地域の役に立たなければならない、何かいいことしなきゃいけない、というモチベーションで仕事すると、後からしんどくなるんじゃないかな。本来は、林業でも木材業でも、「自分はこの技術がすごい」とか「日本一の木材営業マンになる!」とか、その道を究めるというスタンスが許されるはずなのに。それが結果的には地域の役にも立つことだから。

田丸:たしかに、昔は地域に色んな技能を持つ人がいて、結果的にそんな人たちが集まれば地域が盛り上がっていた。僕は今、20代の人たちと一緒に働きたい気持ちがすごく強いよ。若い感性豊かな人たちの方が、思ったより僕らよりも未来のことを真剣に考えているし、未来に貢献できる職業があれば興味を示してくれるんじゃないかな。だからこそ、林業界がそういったことも大事にする理念を持っていないといけない。僕もやっぱり、他人から「いいね!」と思われるかどうかは常に気にしているよ(笑)。

100年先を見据えて自分たちはどこにいるか

井上:最後に改めてシンプルな質問をするんだけど、林業のやりがいって何だろう?

田丸:一般的な答えしか思い浮かばないけど・・・技術的なことで言うと、思い通りに木が倒せるとか。いや、違うなぁ。山を通じて、100年先の未来が思い描けるから。それがたぶん、やりがい。

井上:人と違う時間軸で未来が見られること。

田丸:今携わっている人工林でさえ、60年前に誰かが植えたという想像力を働かせれば、その頃の想いや風景を垣間見れる気がするし、将来、今の子どもたちの世代が僕らの植えた木を伐って商売してるかもなと想像できるし。前後100年、足して200年くらいの時間感覚で仕事をできるのは素敵なことだと思う。それが逆に、今の時代のスピード感でビジネスをやりにくい理由だと思うけど。色んな林業地に行ってもその歴史的背景を知れば知るほど愛着が湧くし、だからこそ自分がちゃんとした技術者じゃないといけないという思いにもさせられる。

革命は一日にしてならずという言葉があるけど、たとえば僕が好きな明治維新では、思想を唱える人、それを受けて世の中に混乱を起こす人、収束させ新しい時代を築く人の3人がいて(林業では植えるバカ、育てるバカ、伐るバカの3代と言うけれど)。僕はその中でも真ん中の役割になりたくて、地域にいても怖いもの知らずでいたい。「林業ってこういうものでしょ」という常識を一度ごちゃまぜにしたい。もうちょっとインパクトのあること、林業の新しい時代的なのを作りたいなと、すごく思う。できると思う。

井上:それにはやっぱり、仲間が必要じゃない?

田丸:すごく必要だと思う。ミレニアル世代というか、僕が林業を始めた10年くらい前の林業を肌で感じている人たちと分かり合えることは結構大事だと思う。ちゃんとビジネスとして日本の林業をよくしたいというベースにある思いが一緒だと思うし、そこを共有できているのは大きい。

井上:2011年から続けてきた「若手林業ビジネスサミット」では、同世代のつながりがすごく広がったけど、すぐに何か結果が出るとは思ってなくて。将来みんなが力をつけていった時に何か変わるんじゃないかという思惑でやってきた。

田丸:そこで出会ったみんなは、今は何となく静かにしている感じだよね。自分たちの理想と実力との整合性を取る試みをしながら様子を見ている感じはある。それに、自分たちの世代が活躍していくうえで、実績を残している先輩たちを謙虚に頼って、そのテクニックや知恵も取りこぼさずに受け継いでいかないといけない。

そうやって林業と地道に向き合っていって、僕らが40代くらいになった時、ミレニアル世代と呼ばれる世代が発信力や実力を持っていれば、また必然的に注目されてくると思う。同世代でつながっていってもう少し時間が経ったときに、林業界が変わるようなアクションが起こせたらいいな。

井上:つながりという意味では、昔だったら政府や業界団体の大号令で、一斉に横並びでやるのが連携のスタイルだったかもしれないけど、今はSNSも使って気になる人の動きを横目で見ながら、それぞれのやり方で頑張って、同じ時代に何か面白いものがいっぱい生まれて、結果的に同じところを目指してたっていうのが気持ちいいんじゃないかな。

田丸:ただ、これから年を取るほど地域や業界での利害関係も出てくるからね(苦笑)。ゆるやかな連帯感を持てる同世代のプラットフォームがあれば、全体的なムーブメントになっていくと思う。直接林業に関わっている人じゃなくてもいいから、バランス感覚の優れた人がハブになって船頭を取らないといけないだろうね。

井上:そういう意味では、林業とは全然違うチャネルの人にもアプローチしていきたいね。今回は田丸君の話を記事にできてよかったよ。

田丸:僕の言ってることは、全然、林業界のスタンダードじゃないですけどね、たぶん(笑)。

井上:それでいいんですよ。スタンダードって誰が決めるの?って話。

田丸:ま、それが正しかったかどうか分かるのは、50年後くらいってことで。

そして今日も、山に行く
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井上 有加
井上有加(いのうえ・ゆか)

1987年生まれ。京都大学農学部、同大学院農学研究科で森林科学を専攻。在学中に立ち上げた「林業女子会」が国内外に広がるムーブメントとなった。若手林業ビジネスサミット発起人。林業・木材産業専門のコンサルティング会社に5年間勤務し国内各地で民間企業や自治体のブランディング支援に携わる。現在は高知県安芸市で嫁ぎ先の工務店を夫とともに経営しながら、林業女子会@高知の広報担当も務める。田舎暮らしを実践しながら林業の魅力を幅広く発信したいと考えている。

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