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危機を機会に変える、「未来をつくる経済」を思索する

新型コロナの教え:健全な経済は、健全な環境と社会から生まれる

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SB-J コラムニスト・古野 真

ウイルスがこれほどまでに社会と経済に打撃を与えると経済学者や政府は予測していたでしょうか。生産・効率・収益などの目先の「経済成長」に集中するあまり、それを下支えする自然環境や人的資本の重要性が見落とされていたのではないでしょうか。

コロナショックは、世界銀行や世界保健機関(WHO)に「パンデミック・リスク」として予測されていた脅威でありながら、事前の備えが明らかに不十分だったために、現代社会・経済の脆弱性を浮き彫りにしています。

ウイルス発生の背景には、われわれの大量生産・大量消費、グローバル化した経済活動によって生態系が破壊されてきたことがあると言われています。遠隔地での道路建設や森林破壊、土地開拓、農業開発は、野生生物の生態系を破壊し、ウイルスを自然の宿主から解放しています。さらに野生動物貿易などで動物が都心部の市場に売り出され、SARSやMERS、COVID-19(新型コロナウイルス)の場合も、動物を介して人間がコロナウイルスに感染しやすい不自然な環境を作っているのです。

新型コロナウイルスの脅威は、われわれの健康が自然環境と密接に関係していることを示しています。自然環境を大切にしなければ、自らの健康を守ることができないのです。

人類全体が受け継いできた古くからの教えにもあるように、調和のとれていた生態系を破壊することは、社会にも悪影響を与えます。そして今回は、一部の地域社会だけの被害に留まらず、グローバル化された社会によって一気に感染は広まり、世界各地に感染の爆発的な連鎖を起こしています。

今、医療崩壊さえ起こしうる新型コロナウイルスの感染拡大により、人と人との繋がりは分断され、物の移動も減少し、多くの経済活動が停滞しています。

そこでもう一つの気づきがあるでしょう。経済は健全な社会の中にこそあるということです。

現在、最も打撃を受けているのは飲食・観光・芸能・製造業などの、多くの失職者を出し、経営危機にも陥っている中小企業であり、また次に負担を抱えているのは、われわれのライフラインを保つために、医療現場に立っている医師や看護師をはじめ、教育機関、保育園、交通機関、スーパー、薬局などで常に感染リスクを冒しながら働く「キーワーカー」たちでしょう。また考えるべき点は、そういった職種の多くは賃金が低い層であるにも関わらず欠かせない存在であるということです。

英語にこのようなことわざがあります。「A chain is only as strong as its weakest link.」つまり「鎖の強さはその最も弱い部分の環の強さで決まる」。健全な社会と経済を作るなら、社会的弱者をいかにサポートできるかが重要となります。

危機を乗り越え、復活に向かうための長期戦は始まったばかりです。一人ひとりの行動自粛をはじめとした社会全体の行動変容、そして国境を越えた国同士の連携が不可欠となっています。公益を守るべく政府や公的機関の役割はさらに重要となります。限られた財政をどのように分配し、社会の健康・福祉を優先させ、いかに脆弱な人々の命を守れるかが政府の使命です。深刻な状況の中、誰をまず助けるべきなのか、さらなる被害を防ぐにはどのような措置を取るべきなのかなどの適切な判断が問われます。

この大混乱の中、危機的状況をチャンスに変えて、レジリエンス(回復力・弾力性)のある社会を作るのが急務です。COVID-19から学び、健全な環境と社会を支える活動を重視し、サステナブルな経済を新たに想像する今こそ、経済の仕組みそのものを見直す良い機会になるかも知りません。このようなビジョンを持つ企業は従業員・顧客・投資家やそれぞれのステークホルダーに支持され、社会の回復に大きく貢献するでしょう。そのような動きがすでに現れているのが希望です。電気製品メーカーのダイソンが数日以内に人工呼吸器をデザインしたり、中小企業が洋服から布マスクの生産にビジネスを切り替えたり、医療現場を助けるため生まれているさまざまなイノベーションが新たな経済の姿として見え始めてきています。通信、医療、教育、持続可能な農林水産業、ビッグデータやAI、科学的研究などの分野を超えた協力・協働・コラボレーションを通じて社会課題解決をミッションとする新たな循環が生まれる転換点になれば、本当の成長を目指すことが可能になるでしょう。

新型コロナウイルスの危機が訪れたことで、環境・社会・経済の相互依存関係をもう一度見直し、より健全な生き方、働き方が生まれることを願います。なぜならば、人類はさらなる長期戦である気候危機に対して向き合い、今までの行動を大きく変容させないといけないからです。それには、危機の時に問われる価値観、想像力、共感と行動力が極めて重要です。

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古野 真
古野 真 (ふるの・しん)

気候変動に関するアジア投資家グループ(Asia Investor Group on Climate Change)のプロジェクトマネージャーとして2020年1月に活動を開始し、投資家の立場から投資先企業及び政府機関とのエンゲージメントを担当。ESG 投資家・気候変動専門家として活動しながら、ESGに関するブログ・情報サイト「ThinkESG.jp」の編集長も務める。現職に就任前は国際環境NGO350.orgの東アジアファイナンス担当を努め、350.orgの日本支部350Japanを2015年に立ち上げた。NGOセクターに携わる前にはオーストラリア政府の環境省で課長補佐として気候変動適応策を推進する国際協力事業を担当。気候変動影響評価・リスクマネジメントを専門とする独立コンサルタントとして国連開発計画(UNDP)、ドイツ国際協力公社(GIZ)や一般社団法人リモート・センシング技術センターのプロジェクトに参加。クイーンズランド大学社会科学・政治学部卒業(2006),オーストラリア国立大学気候変動修士課程卒業(2011)

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