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ミレニアル世代から見た林業 100年先の未来を考える

ミレニアル世代はどう林業に出合うか――林業への3つの入り口

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SB-J コラムニスト・井上 有加

林業を志す人は、必ずしも家業が林業であったというわけでなく、様々なバックグラウンドを持っている。現代の若者がどのようにして林業にたどり着いているのかを知り、一次産業への入り口づくりについて考える。

私と林業との出合い

林業といえば都会の人間にとっては馴染みがなく、斜陽産業ともいわれて久しい。特に女性が林業に関わっているというと「なぜ?」と首を傾げられるのが常である。他の一次産業と同じく林業従事者が減少している中で、どのようにしたら林業に携わる人を増やすことができるのだろうか。

ここで、まず私自身がどのように林業の世界に引き込まれたかを振り返ってみたい。生まれ育ったのは、林業とは縁のない地方都市のサラリーマン家庭。ただ幼少期から田んぼ遊びや虫取りをよくしていて、自然に対しては愛着があったらしい。小学生になる頃、地球環境問題が大きくクローズアップされ、環境問題を解決しなければ自分たちの未来はないのではないかと思い始めた。その問題意識が根強く残っていて、大学進学では森林科学科を選ぶことになった。

当初関心があったのは、熱帯雨林の破壊や砂漠化など地球規模で起きている問題だったが、大学の講義を聴く中で、自国日本の森林の4割を人工林が占めていること、その育成や管理を担う林業が課題を多く抱えていることを知った。まず自分の足元である日本の山について考えなければと思った。

鴨川源流の風景

座学だけで物足りなくなった私は、「山仕事サークル」という珍しいサークルに加入した。京都は鴨川源流の雲ケ畑(くもがはた)という小さな集落に通い、そこで地元の林家さんたちに手ほどきを受けながら、植林から下刈り、枝打ち、間伐といった林業の仕事を体験した。自然の中で体を動かす心地よさ、そして自分がした仕事が森林を作りやがて風景になっていくという達成感の虜になった。自然というものに対してただ保護し観察するだけではなく、人間が手を加えて積極的に関わりあっていくことのできる林業という生業が魅力的に映った。

そして山村の暮らしにも触れる中で、山仕事の道具を器用に使いこなし、火を焚き、野遊びや農業にも勤しみ幅広いスキルを持って生きる人々の姿にあこがれを感じた。彼らは自分が生まれる前と死んだ後の時間、先祖や子孫にも思いを馳せながら木を育てている。目先の利益を追求しがちな現代において、100年スケールの視野を持つ林業という営みに触れ、目が覚める思いがした。きっかけは問題意識から入った林業だったが、次第にその魅力を強く感じるようになり、ライフワークとして関わっていきたいと思うようになった。

入り口その1:問題意識からはじまる“インテリ林業”

ここから、私がこれまで出会ってきた同世代の事例も交えながら、現代の若者がどのように林業と出合うのか、3つのタイプに分けて紹介してみたい。一つ目は、問題意識から入る入り口である。いわゆる意識高い系といえばよいのか、“インテリ林業”といってみたら覚えやすいかもしれない。私と同世代の林学学生は特に、環境問題への関心が出発点になっている人が多い。森林生態系を守りたいと考えている、あるいはサステナブルな資源・エネルギーとしての木材に注目している場合もある。林業に持続可能な未来への可能性を感じているともいえる。

問題意識が生まれるのには、一次情報としての原体験や、メディアからの二次情報がきっかけになる。原体験としては、自分の地元が大きな水害に見舞われたことから森林に関心を持つようになった、阪神大震災での木造住宅の被害を見て木材のルーツに興味を持った、という人もいる。最近ではまちづくりの視点から、地域の持続に欠かせない産業として林業に関心を持つ若者もいる。

入り口その2:仕事としての魅力“サラリー林業”

次に、サラリーを得る仕事・生業としての林業に魅力を感じて入ってくる人たちである。自然の中ではたらきたい、体を動かす仕事が向いている、チェーンソーや林業機械を操作したいなど、山仕事の環境やワークスタイルを気に入っている人が多い。

たまたま出合った仕事が林業だったというパターンもある。地元で就職先を探していたら条件が合っていたのが林業だった、深夜労働がないので子育てがしやすい、という人もいるし、会社によってはお給料がよいからという理由もあるだろう。

また、最近では地方移住を希望する人が、山間地域での仕事として林業を選ぶこともある。暮らす環境を優先して考えた結果、林業が選択肢に浮かんでくる。あえて季節労働を選んで、オフシーズンには海外旅行に出かけたり、別の仕事をするというライフスタイルを楽しんでいる人もいる。ワークスタイルやライフスタイルを重視する人たちにとっての“サラリー林業”がある。

入り口その3:家業や家族をきっかけに“ファミリー林業”

三つ目は、家業としての林業を継ぐパターンだ。伝統的な林業産地では、家業として代々の山林資産やビジネスを継承するのは自然な流れだ。私の同世代にも、伝統の重荷を感じながらも果敢に新しい林業にチャレンジしている後継者が多くいる。

また、たまたま好きになって結婚した相手の家が林業をしていたという場合もある。結婚を機に夫と一緒に仕事するうちに、今や経営者として活躍している林業女子もいれば、逆に妻の家が代々山林経営をしていて、夫が結婚を機に林業現場で従事するようになったという事例もある。結婚するまでは林業ビギナーだった人も、家族のサポートの中で成長していく、そんな“ファミリー林業”の物語には厳しくもあたたかいものがある。

多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍できる林業へ

このように、林業への入り口を覚えやすいようにインテリ、サラリー、ファミリー、の3つにまとめてみた。しかし実際には、複数のきっかけが絡み合っていつの間にか林業の世界にいた、ということも多い。私も問題意識を入り口にして、林業のワークスタイルにも魅力を感じつつ、現在の仕事である工務店業は夫の家業である。よく考えれば祖父は大工であったから、DNAにも木の記憶が刻み込まれているのかもしれない。林業へのリクルーティングには、このように様々なきっかけを提供しつづけること、タイプに合わせた情報提供やマッチングが必要だろう。

そして色々な林業事業体と出合い感じるのは、3タイプの人材がバランスよくいる方がチームとしてうまく行くのではないかということだ。問題意識を持つ人には、継続的に勉強できその解決にチャレンジできるような環境を。心地よいワークスタイルを実現できる労働条件や職場環境ももちろん大切だ。もし家族経営で息が詰まるなら、外の風を入れた方がいい。これからの林業は、多様な視点やバックグラウンドを持つ人材が活躍でき、夢を実現できる産業であってほしい。

イベントのお知らせ

井上有加さんが登壇されるイベント「ソマノベースキャンプ 〜都会のど真ん中から林業をアピールしよう!〜」が12月14日(土)、東京・渋谷100BANCHで開催されます。
詳細はこちらから:https://peatix.com/event/1372278?lang=ja

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井上 有加
井上有加(いのうえ・ゆか)

1987年生まれ。京都大学農学部、同大学院農学研究科で森林科学を専攻。在学中に立ち上げた「林業女子会」が国内外に広がるムーブメントとなった。若手林業ビジネスサミット発起人。林業・木材産業専門のコンサルティング会社に5年間勤務し国内各地で民間企業や自治体のブランディング支援に携わる。現在は高知県安芸市で嫁ぎ先の工務店を夫とともに経営しながら、林業女子会@高知の広報担当も務める。田舎暮らしを実践しながら林業の魅力を幅広く発信したいと考えている。

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