サステナブル経営における「ゴール」「ターゲット」の違い
SB-J コラムニスト・森 摂
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最近、日本でもSDGsの考え方を自社の経営に取り込む事例が増えてきた。17のゴールを自社の事業領域やCSRの取り組みに当てはめ、CSRレポーティングなどで開示する方法が主流だが、米国や欧州のサステナビリティ経営のトップランナーたちは、中長期の視点に根差した、具体的な「ターゲット」を競うように設定している。(オルタナ編集長・森 摂)
いくつか例をご紹介しよう。
H&M(スウェーデン):2030年までに100%リサイクル製品またはその他の持続可能な原料を使用する。2040年までにバリューチェーン全体を通じてクライメット・ポジティブにする。
イケア(スウェーデン):2020年には、事業で消費するエネルギーの100%に相当する再生エネルギーを生産し、イケアで使用する木材のすべてをよりサステナブルな調達先から仕入れる。
レゴ(デンマーク):2030年までにレゴブロックの素材にABS(石油由来のプラスチック)を使うのを中止し、「持続可能な新素材」に変える。そのために、今後15年間で10億デンマーク・クローネ(約186億円)を新素材開発のためのプログラムに投資。
ボルボ(スウェーデン):2019年以降の新規販売車種すべてにモーターを搭載する(ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカーも含む)。
スターバックス コーヒー ジャパン:2020年までにペーパーカップをはじめ使用する主な紙をFSC認証紙や再生紙を使用したものにする。
マークス&スペンサー(英国):2025年までに食料廃棄を半減。2025年までに衣料の原料の25%をリサイクル可能なものにし、リサイクル衣料が売上高全体に占める割合を25%にする。
参照記事(英文)は こちら
ゴールとターゲットは意味と役割が違う
これらの「ターゲット」トの共通点は、具体的な達成目標年と、数字が入った目標を盛り込んでいることだ。日本ではまだ理解が進んでいないが、ゴールとターゲットは意味と役割が違う。ゴールは、いわば「あるべき姿」であり、「めざすべき到達点」。ターゲットは、到達点に至るまでのマイルストーンだ。
先にゴールを設定した上で、ターゲットを細かく刻んでいく手法は、「バックキャスティング」と呼ばれる。未来の到達点から、「後ろに竿を振る」という意味だ。バックキャスティングの思考法はスウェーデンの軍隊が開発とされる。上記の事例でも北欧の企業が多いのも興味深い。
残念ながら、バックキャスティングの手法はこれまで多くの日本企業にとって得意な作業ではなかった。日本人は元来、「不言実行型」で、現状からコツコツと積み上げる手法がに慣れてきた。一方、米国や欧州は遠い未来に野心的なゴールを置き(「有言実行型」)、もしできなかった場合には計画を修正し、さらに挑む。
ただ、その日本でも、トヨタ自動車が2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表し、社内外を驚かせた。2050年までに新車の平均走行時CO2排出量を90%削減(2010年比)するターゲット設定は、まさにバックキャスティング的な思考から生まれた。
今後、日本でもSDGsがさらに浸透していけば、こうした野心的なターゲット設定が増えるはずだ。それは社会や顧客との約束であり、それを軸にブランディングやマーケティングを展開していくことこそが、次世代のソーシャル・ブランディングといえる。日本企業の奮闘を願ってやまない。