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CSR/CSV 経営ポイント

ボルヴィック「1L for 10L」をどう評価するか

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SB-J コラムニスト・森 摂
プログラム終了を告げる広告

日本で「コーズ・リレイテッド・マーケティング」(CRM)の代表格として名高いボルヴィックの「1L for 10L」が今月(2016年8月)末で終了することになった。日本のCSR/CSV活動としては息の長い長期活動だった。森永製菓の「1チョコ for 1スマイル」など他社のCRMにも影響を与えたという意味でも、その意義は大きいと言ってよいだろう。

「1L for 10L」はボルヴィックの海外販社から生まれたCRMだ。ボルヴィック・ブランドのミネラルウォーター1リットルを出荷するごとにアフリカで井戸を掘り、10リットルの水を新たに供給することを目標にした、ユニセフとの協働プロジェクトだ。

2005年のドイツから始まり、2006年にはフランスが、2007年からは日本の合弁会社が参加。その後にキリンビバレッジがマリ共和国への支援を引き継いだ。これまでにアメリカやカナダ、イギリス、オーストリア、スイス、ルクセンブルクなど計9か国で実施してきた。

一方で、いくつかの点で課題も残った。第一の課題は、その目的だ。発売元であるキリンビバレッジは、「1L for 10L は販促やマーケティング活動ではない」と公言してきた。

だが、第三者から見ると、これは紛れもないCRMであり、その意味で「1L for 10L」の経済的目的と社会的目的の関係は終始、曖昧だった。

CRM(あるいはCSV)である限りは、売上高が伸び続けて企業収益に貢献しないと、その存在意義を問われかねない。特に、売上高の先行き予測が難しいビジネスはCRMとうたいにくい。

事実、プログラム初年度2007年の売り上げ箱数は約1523万ケースだったのに対し、2015年は約720万ケースと、ボルヴィックの出荷量は9年で半減してしまった。

ただ、これを販売者の責任というには酷すぎる面もある。実はミネラルウォーターの輸入量は2007年の約58万キロリットルをピークに、2015年は35万キロリットルと9年で40%も減ったのだ(日本貿易統計)。

一方で、国内生産のミネラルウォーターは2007年の192万リットルから2015年には303万リットルと、同じ時期に58%も伸びた。ことミネラルウォーターについては「輸入から国産へ」の流れは顕著だ。

キリンの見解は「1L for 10Lは、当社のCSVとは違った意味合いとしてとらえていた」(同社CSV本部コーポレートコミュニケーション部の大関秀則氏)。

だが、キリンは日本で初めてCSV経営を全面的に掲げた企業であり、「1L for 10L」についても、もう少し整合性が取れた説明を社内外にすべきだった。今後は、CSVの文脈に沿った、より戦略性が高い社会的事業を模索することになろう。

二つ目の課題は、支援される側に立った視点だ。キリンビバレッジの資料によると、2007年から2015年までの9年間で、支援総額は2億8400万円に上った。これにより支援対象のマリ共和国の住民数は28万人に達した。

もちろん、これもそれなりの数字で、評価すべきだろう。「今後も10年以上にわたって井戸のメンテナンスを続ける方針」(大関氏)だという。

一企業に途上国の問題をすべて負わせるわけにもいかないが、細々とでも、あるいは形を変えてでも、さらに長い期間において支援を続けることの重要性がもっと議論されてよいだろう。CSR/CSV活動は長ければ長いほど、社会満足度(SS)が高まり、本業へのより大きなリターンが期待できよう。

三つ目の課題は、私たち消費者の行動だ。企業にとっても、自社事業の発展につながるのであれば、より長期的にCSR/CSV活動に取り組む理由ができる。それを支えるのは、私たち消費者だ。

極言すれば、「消費者の行動」が「企業の行動」を変え、社会を変えることにつながる。その意味で、日本の消費者のサポートが十分だったかについて疑問が残る。

これはオーガニック製品やフェアトレード製品についても同様である。オーガニックもフェアトレードも、日本の市場占有率は、海外の先進国と比べて一ケタ以上低い。

社会に貢献する企業を育てるためにも、私たち消費者は、社会課題に真剣に取り組む企業の製品・サービスを選択的に購入し、応援することが望ましい。

繰り返すが、企業行動を決めるのは消費者や社会の責任である。ネスレやユニリーバは世界的なCSR/CSV先進企業であるが、その背景には消費者やNGO/NPOの絶え間ないプレッシャーや支援があった。

一方で、日本では、消費者やNGO/NPOからのプレッシャーも支援も少ないと言わざるを得ない。私たち消費者はもっと企業にモノを言っても良いし、購買行動で応援しても良い。

「欧米式」が何でも良いとは限らないが、少なくとも、これは消費者の権利であると同時に、消費者の義務の問題であることは間違いない。

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森 摂
森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。

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