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社会が目指すべき真のサーキュラーエコノミーとは――中石和良・CIRCULAR ECONOMY JAPAN代表

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循環型経済(サーキュラーエコノミー)への国内企業の理解は、まだまだ足りない――。こう指摘するのはCIRCULAR ECONOMY JAPAN(東京・渋谷)の中石和良氏。自身もたびたび欧州に足を運び、最先端の取り組みを日本で普及させてきたサステナビリティのスペシャリストだ。中石氏はかねて循環型で指摘される「3R(リユース・リデュース・リサイクル)」だけでなく、「そもそも廃棄物が出ない仕組みづくりを目指すべきで、そのためにはシェアやサブスクリプションの考え方が重要」と強調する。真の循環型経済とはどのような仕組みで、どう実現していくべきか。中石氏に詳細を聞いた。(サステナブル・ブランド ジャパン=沖本 啓一)

――中石さんはこれまでに、BIO HOTEL ®認証を日本で普及するBIO HOTELS JAPANの活動や、ブランド「GO FOR SUSTAINABILITY」を通したCradle to Cradle基準製品の発信など、欧州の先進的なサステナビリティの潮流を日本に広める活動に尽力しています。

中石:BIO HOTEL JAPANの活動を通して、日本にオーガニック認証取得製品や食材の流通が圧倒的に少ないと感じています。特に食品は、国内で流通している食材を使用しては、厳密にはBIO HOTELの基準を満たすことはほぼ不可能です。BIO HOTEL認証を取得した国内の3軒のホテル・旅館では、オーガニック相当と認められる食材を利用しています。それでもコスト面などのハードルは高くなっています。

こういった製品流通の不足は、日本でサステナビリティに対する消費者の興味が浸透していないことが原因と言われます。しかし「製品が先か、需要が先か」という議論があるなら、私は「製品が先」だと考えています。

アディダスやナイキといったスポーツ用品のメーカーがサステナビリティに積極な理由は、安全にスポーツができる地球環境を守るためです。自分たちのビジネスを守るために、企業から働きかけることが必要です。

海外では行政がリーダーシップを取り、NGOと消費者がプレッシャーをかけ、結果的に企業が動かざるを得ないという側面があります。一方、日本では行政のリーダーシップは不足し、NGOのプレッシャーもほとんどありません。日本では特に、企業が自力で動くことが重要な構造になっています。

「オールジャパン」は通用しない

――昨年、事業の一環としてCIRCULAR ECONOMY JAPANを立ち上げられました。

中石:特に欧米で、消費者のライフスタイルがサステナビリティをベースにしたものに置き換わり、マーケットが一気に移り変わる中で、日本は取り残されています。認証やISOなどの規格・基準の策定は、欧米が主導しています。そのため、例えばオーガニック認証は欧米の乾燥地域を前提とした基準になり、国内製品では認証を取得するハードルが高くなっています。

今、世界の市場は確実に大きく、サーキュラーエコノミーへと舵をとっています。EUを中心にアメリカ、オーストラリア、インド、インドネシア、中国。循環型を主軸とする経済政策、国家戦略が広がっていることは明白です。今後、循環型のコンセプトに合わない製品の流通規制も始まるでしょう。規格や基準の策定をほかの国に任せていれば、その時に日本の輸出は鈍化します。

そこまで踏まえ、日本の行政や企業はオールジャパンで独自の基準を策定するのではなく、国際的な協調の中で日本の文化、環境を踏まえた基準を入れ込むことが必要です。

目指すべき真のサーキュラーエコノミーとは

左からリニアのモデル、3R発想のモデル、完全な循環型のモデル。オランダ政府発行「A Circular Economy in the Netherlands by 2050」より。同国は2050年までに完全なサーキュラーエコノミーの実現を目指す。首都アムステルダムは「世界でも循環型経済の最先端の街」(中石氏)

――サーキュラーエコノミーに関してグローバルの中で日本が主導権を取るために、何が求められるのでしょうか。

中石:「循環型経済」という言葉こそ広がりつつありますが、企業の理解はまだまだ足りないと感じます。企業の講演や発表などを聞くと、多くは「3R」で足踏みをしています。「廃棄物をどう有効活用するか」という議論はとても重要ですが、本当の循環型経済とは「そもそも廃棄物が出ない仕組みをいかに作るか」です。

廃棄物を「有効利用する」のか「出さない」のか。もちろん全ての製品が完全な循環型になることはありません。既存の製品はどんどん廃棄物になります。だからこそ3Rと循環型経済の発想は両輪で進行するべきです。一方で廃棄物を1/100にし、一方では廃棄という概念のない製品・サービスのシステムを作るというイメージです。

そこで企業が製品やサービスを回収するスキームが必須になります。循環型のビジネスモデルでは、「シェアする」という考え方がとても有効です。製品の耐久力を高め、リサイクルできる構造にしながらも、製品の所有権を売り切るのではなくシェアやサブスクリプションへ移行する。それが循環型経済にマッチするビジネスモデルです。

日本企業のサステナビリティをコンセプトにした製品は海外で高く評価されています。例えばYKKは海外のアパレル企業から引く手数多ですし、旭硝子はCradle to Cradle認証に合致する窓ガラスを製造しています。そういった企業が、サステナブルな製品の主要マーケットを海外におき、国内ではユーザーが求めても流通していない、流通していないからユーザーが求めなくなる、という悪循環が起こっています。

日本のマーケットでは、エシカルな側面から消費を促すと、浸透はとても遅くなります。しかし本来、サーキュラーエコノミーやその原点のCradle to Cradleの原理では、倫理に訴えるという側面はありません。サーキュラーエコノミーとはビジネスや社会を守るために持続可能な世界を目指す、その方法論です。SDGsの17ゴールや、パリ協定で示された1.5度、2度という目標に向かって進むための乗り物です。

アクセンチュアが提唱する「サーキュラーアドバンテージ」という言葉があります。真のサーキュラーエコノミーに、少しでも早く着手することで、ビジネス上の先行優位を取れます。日本企業も国内での製品の流通を促し、購買意欲を高め、その上で「早いもの勝ち」でグローバルの主導権を得るべきです。

「再生と循環」有機的な発想が要に

――グローバルでの最先端の取り組みはどのようなものでしょうか。

中石:最先端の企業やブランドはサーキュラーエコノミーを理解した上で、中長期の戦略を立てています。一方で、国連環境計画やエレン・マッカーサー財団は、「都市全体をどう循環型に変革するか」という大きな視点での取り組みを始めています。

例えば、食品をオーガニックにすればいい、ということではありません。それでは都市全体の需要を満たせるほどの量が確保できません。農法だけでなく、運搬や加工も含め、大量生産、大量消費を、サーキュラーエコノミーの価値観に則ってどう実現できるのか、という議論です。

リジェネレイティブとサーキュラー(再生と循環)という有機的な発想がグローバルの最先端です。ひとつひとつの製品は企業が理解し、取り組んでいます。そこを既に通過し、大きな視点に向かっているのがグローバルの潮流です。

――なぜ企業がサーキュラーエコノミーを目指すべきなのか、改めてお聞かせください。

国連環境計画とエレン・マッカーサー財団が出しているコミットメント「ニュー・プラスチックス・エコノミー・グローバル・コミットメント」は世界中の企業、都市、学閥やNGOなどが署名するイニシアチブです。

打ち出される方向性は3点あります。エリミネート:使い捨て、環境や人間に害のあるプラスチックを撲滅する。イノベート:必要なプラスチックに関しては、高度に、簡単にリサイクルできる素材か、堆肥分解できる素材にする。サーキュレート:経済界で循環させて環境に排出しない。これらに関して、コミットメントに署名した団体はすべての取り組みを公開することになっています。

このコミットメントに、4月時点で350の機関が署名しています。プラスチック問題では最も先駆的で、大きなイニシアチブですが、日本からはフタムラ化学とCIRCULAR ECONOMY JAPANしか署名していません。日本の企業は、自分たちのために、自分たちで動くことが求められます。やらないことはリスクであり、取り組むのは自らのビジネスを継続させるためだということを忘れてはいけません。

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沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。