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気候変動は事業リスク、日本企業も対応を―国際NGO

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主催イベントで来場者に自ら説明する350.org Japan古野真代表(5月14日、東京・渋谷にて。写真提供:350.org Japan)

パリ協定は、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えることを目標にした。実現には、エネルギー政策の転換や経済システムの見直しが必要になってくる。「350.org」(米国・ニューヨーク)は、化石燃料からのダイベストメント(投資撤退)を呼び掛けている国際環境NGOだ。2016年12月には5兆米ドル(約580兆円)の運用資産が撤退した。世界的な気候変動対策の潮流や、企業として、個人として何が出来るか、350.org Japanの古野真代表に話を聞いた。(松島 香織)

―オーストラリア政府の気候変動省(当時)に勤務されていたのですね。

古野真代表(以下、古野):海外では、気候変動は、経済全体に影響を及ぼす財務・事業リスクとして認識しています。事業への投融資では企業に責任があり、市民は、将来世代の健康や生活手段を危機にさらしていないか厳しく見ています。

日本政府はパリ協定に署名し目標を「2050年までに80%削減」としましたが、実際の政策は進んでいません。そんな中で、企業も積極的な対策を示していませんが、グローバル市場ではエネルギーセクターに対してどう取り組むかは、大きなポイントです。

預貯金者としての責任、投融資先事業への責任

―「350.org」の活動について、教えて下さい。

古野:「経済のあり方を変えなければならない」と考え、化石燃料からの「ダイベストメント(投資撤退)」推進活動をしています。市民は預金者としての立場で、「モノを言う」ことが出来ます。私たちの預貯金は、金融機関にとって資金です。市民が動くことによって、金融機関への刺激にもなります。

―ダイベストメント(投資撤退)について、詳しく教えて下さい。

古野:「化石燃料関連企業への投融資を引きあげ、持続可能な社会の実現に貢献する事業に再投資する」ことを呼びかける運動です。2012年から世界的に広がり、4年間で76か国、732団体が参加しています。米国やヨーロッパが中心ですが、今後は東アジア、南アフリカに広がっていくでしょう。

再生エネルギー活用に向かって世界がシフトしている中で、投融資もシフトしなければなりません。インドネシアのチレボン石炭火力発電事業に日本の銀行が投資していますが、農業や漁業への悪影響や健康被害などから、建設計画に対し、地域住民と環境団体が訴訟を起こしました。住民側が勝訴しています。

融資を検討していたクレディ・アグリコル銀行(フランス)は、石炭への融資削減を公約し、チレボン石炭火力発電事業から撤退を発表しました。ですが、日本の銀行は、訴訟中に融資決定を積極的に進めようとしています。

リスクが高い事業に投資すると、地域からの反対を受け、国際的に注目されるようになります。常に海外の動向に目を向け判断しないと、自社ブランドに傷がつくことになりかねません。国連の責任投資原則に署名していても、融資先のプロジェクトが環境や人権に配慮していなければ、国際的に責任を追及されます。

40年後を見すえたエネルギー選択を

―日本の金融機関に期待する行動とは何ですか。

古野:パリ協定で定められている、気温上昇を1.5~2度未満に抑えるという目標に基づいた投融資方針を明確にし、ポートフォリオの脱炭素化に取り組んでほしいと思います。そして2020年までに新規の火力発電所や化石燃料への投融資を凍結、環境に配慮している企業に積極的に投資し、情報を開示してほしいと思います。

―日本で再生エネルギー活用が進まないのは「コストが高い」からだと言われています。

古野:今までの経済システムは、大規模な化石燃料や原発に依存してきましたが、「将来に影響する」というコストが含まれていません。システム変革のためのコストはかかりますが、30〜40年後を考えなくてはいけない。国際的な規制が強まれば、さらにコストがかかる可能性があります。

株主の約3割は、「海外投資家」

―海外では、気候変動に対して強い危機感がありますね。

古野:CO2が増えれば自然災害が起きやすくなり、難民が増え、安全保障に関わってきます。世界経済フォーラムの「グローバル・リスク・レポート」では、世界経済の脅威として常に「気候変動」が上位に挙がります。金融機関だけでなく企業の役割は重要ですし、環境に配慮し社会に貢献してくれる企業を応援・判断できる消費者が増えれば、状況を変えられるのではないかと思います。

― 金融機関以外の企業に期待する取り組みや活動はありますか。

古野:排出している温室効果ガスを公表し、世界のCO2削減目標を上回る目標を設定してください。また資金が環境問題に関係していないか、バリューチェーンまでみてください。預け先金融機関の行動を把握して、プレッシャーをかけてほしいと思います。

「法律がないから」という理由は世界で通じません。日本の上場企業の株主は約3割が海外投資家だということを意識してください。日本は求める社会、企業モデルを変えないとグローバルに戦えない状況になってきました。海外のグローバル企業は政策作りをリードしています。企業への期待は大きいです。


古野 真(ふるの・しん)
国際NGO 350.org 日本事務所代表。2006年クイーンズランド大学社会科学・政治学部卒業。2011年オーストラリア国立大学気候変動修士課程卒業後に、オーストラリア政府の気候変動省(当時)に入省。温暖化対策の国際連携を担当するなど環境問題に従事。その後、パナマ、サモア、東チモール、カンボジアなどの国際開発、地球環境問題、気候変動対策に取り組む。2015年4月に「350.org」の日本事務所を立ち上げた。著書に「東チモール民主共和国における地域密着型の気候変動適応策(Community-Based Adaptation to Climate Change in Timor-Leste)」(2014年、LAP Lambert Academic Publishing)がある。

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松島 香織 (まつしま・かおり)

企業のCSRや広報・IR部署を経て、SDGs、働き方改革(ダイバーシティ)、地方創生などをテーマに取材中。