• 公開日:2018.06.01
第17回:ネスプレッソの選択とその意味とは (下)
  • 足立 直樹

プロジェクトと映像の意味

前半では、ネスプレッソがわざわざサプライチェーン最上流の農家まで支援しているという、ちょっとびっくりする活動の映像を紹介しました。

ネスプレッソがそこまでするのには、もちろん意味があります。ネスプレッソはエスプレッソマシンを売っていますが、そこで重要なのはコーヒーそのものです。その質が悪ければ、誰もネスプレッソのエスプレッソマシンを使おうとは思わないでしょう。

ですから、質の高い良い豆を安定的に確保することが、ビジネスを成長させるための絶対条件なのです。そしてその豆の質と量を決めるのは、農家です。農家が安心して仕事に励み、きちんとした技術を使って高品質の豆を安定的に生産できれば、それはネスプレッソにとっても大きな意味があるというわけです。

こうした背景を知っていれば、ネスプレッソは単に良いことをしているわけではなく、農家を支援することで自分たちのビジネスも持続可能にしているのだ、win-winを実践しているのだということが分かりますね。ネスプレッソはこうした一連の活動に巨額の予算を割いていますが、それもそれだけの価値があるということです。

そしてこのプロジェクトの意味がわかった上でもう一度映像を見ていただくと、この映像の持つ意味がよりはっきりと理解できるのではないでしょうか。

私自身はこの映像によるコミュニケーションには三つの大きな意味があると思います。

一つはいま説明したように、これはネスプレッソのビジネスをサステナブルにするために必要だということです。サステナブルなサプライチェーンがあってこそサステナブルなビジネスができる。だからネスプレッソは本気で取り組んでいるのですね。

そしてそのことからも分かるように、ビジネスをサステナブルにするためには、自社の工場やオフィスなどだけを考えていたのは不十分で、サプライチェーンを最上流、この場合なら海外の農園まで遡る必要があるということ、これが二点目です。

実際、今や多くの食品メーカー、消費財メーカーが、グローバルでサプライチェーンの管理を行なっており、最近では家族経営などの小規模な農園の支援に力を入れています。そこはこれまで手つかずだったので、ウィークポイントであると同時に、改善できればその度合いが大きいのです。

そして三つ目は、こうした活動が、消費者への訴求ポイントになり得るということです。だからこそ、ネスプレッソはわざわざこのような映像を作ったわけです。ネスプレッソのウエブサイトを訪問すると、そこには「私たちの選択」というページがあります。そこからさらに「持続可能品質」というページに進むと、ネスプレッソが行っている様々な活動が実に分かりやすく、そして魅力的に説明されています。

特に私が日本の企業の方々に考えていただきたいのはこの三つ目の部分です。「環境にいいこと、社会にいいことをしています」とサステナビリティレポートで報告して終わりではないのです。こうした取り組みを事業の価値と一体化させ、そのことで消費者からの共感を得られるよう丁寧なコミュニケーションを徹底的に行っているのです。これこそまさにサステナブル・ブランディングです。

実は私もこの映像を最初に見たときには、ちょっとびっくりしました。ネスプレッソがこのような取り組みをしていることにではありません。それなら以前から知っていました。

そうではなく、それが一般消費者向けの広告の素材になる時代になったのだという点に驚いたのです。なんて言っても、これを山手線の中で流したのです。残念ながら日本ではまだサプライチェーンの管理すら行っていない企業も多いのですが、ネスプレッソなどの海外勢はどんどん先を行っているようです。

さて、それではちょっとコーヒーでも飲んで一息入れましょうか。そしてコーヒーを味わいながら、このコーヒーはどこで誰がどのように作っているのか、ちょっと想像してみてはどうでしょうか?そして、私たちはどうすれば、その美味しいコーヒーを楽しみ続けることができるのか、ちょっと考えてみてはいかがでしょう。ジョージ・クルーニーがウィンクしたように感じたのは私だけでしょうか。

written by

足立 直樹(あだち・なおき)

サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー / 株式会社レスポンスアビリティ代表取締役

一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ 理事・事務局長。東京大学・同大学院で生態学を学び、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア国立森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、独立。2006年にレスポンスアビリティを設立し現在に至る。2008年からは企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長も兼務。

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