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G☆Local Eco!

Cure、Care、Coreのサステナブル経営 —医療・哲学・経済—

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SB-J コラムニスト・青木 茂樹

脳に語る臓器、身体と活動する細菌

【G☆Local Eco!第17回】NHKでiPS細胞の山中伸弥教授とタモリさんがMCの「人体」のシリーズがとても面白く、人気のようだ。最先端の医療によって、様々な人体の新しいメカニズムがわかってきたという。脳や心臓が人体をコントロールしていたと思われていたが、実は内臓同士が「メッセージ物質」によって情報交換を行っていたり、ときには臓器や筋肉から脳へと命令を送っているという研究成果が出てきている。シリーズを通してのテーマとして、そこから病気の治療法や私達の生活習慣がどうあるべきかが語られている。

例えば、腸は単なる栄養摂取と排泄の器官ではなく、「体の免疫を司る臓器」だそうだ。そこには腸内細菌100兆個と、全身に2兆個ある免疫細胞の7割があるという。腸は食べものを消化・吸収するだけではなく、病原菌やウィルスの攻撃を防ぐ役割を担うのだ。

アトピーなどのアレルギーは、近年の食生活の変化により免疫細胞の暴走が起きているからだとも考えられている。そこで総持寺の雲水(修行僧)たちの排泄物を調べると腸内フローラなどの善玉の腸内細菌が多いことがわかった。若い修行僧たちのコメントでは「アレルギーやアトピーが治った」という症例が数多く報告されている。精進料理の食物繊維の摂取により、善玉の腸内細菌が雲水 たちには多く潜んでおり、これはひと昔前の日本人の傾向でもあった。

連動するネットワークが身体を動かす

また、今日の社会や経済において重要なことは、新しい発想を生み出す創造力だと言われる。脳科学分野の最新研究では、新しい発想が生まれるときの脳の活動状態は、実はぼーっとしているとき(デフォルト・モード・ネットワークが休まっている状態)と類似した状態であることがわかってきた(参考:ストレス・情報過多社会を乗り越える「働き方改革」リンク)。アイデアが出ないからと調べまくるのではなく、坐禅やマインドフルネスによって過活動な脳を休めることこそが創造力にはとても重要なのだ。

人体は脳や心臓の中心的器官によってコントロールされているというのは単なる仮説で、臓器や筋肉、さらには外部の細菌まで含めた繊細なネットワークの連動によって動いているのである。

西洋医学の発達は17世紀のデカルトの心身二元論から始まった。彼は精神と身体を分け、動物には精神がないから人間が優れていると単純化した上で、身体を機械論的に捉えた。この発想から医学は壊れた部品を交換するように、科学的に身体を分析することを可能にした。更に言えば彼は動物を機械のように組み立てられると考えてもいた(動物機械論)。心身を分離することにより大きく医学は発達し、様々な外科的処置や特効薬が生まれ、20世紀を迎えることとなった。

更に21世紀の医学は、その精神ですら物質的・科学的に捉えることで様々な知見をもたらした。分離していた心身は統合的に研究されてきて、「病は気から」も科学的に説明できるし、脳を介さずに臓器同士の情報交換も行われていることがわかってきた。

さらに特効薬の副作用や外科手術の負担という問題も浮上した。機械論的に部品交換をするのではなく、心身不二(心も身も一つ)、身土不二(地のもの旬のものを頂く)と言われるようにホロニック(全体と個の調和)な生活改善を進めるという、サステナブルな健康管理が求められるようになったのだ。

CureからCareの健康企業へ

経済史における「サステナブル経営」の登場もこれと同様の認識論的パラダイム転換にある。これまで、資本・労働力という経営資源と消費者の市場ニーズとの間で、企業は財やサービスを効率良く生産していくことが求められていた。20世紀まで脳と心臓を中心に医療が考察されていたように、経済は資本家・労働者と消費者の単純なモデルで認識されていた。

その目的のためには、公害であれ、環境破壊であれ、外部不経済には目をつむってきたし、ときには労働者をすり減らすまで使い切ってきた。しかし今日の情報社会では、地球の裏側での児童労働や劣悪な労働条件、地球全体の温暖化、人口、エネルギー問題が手に取るように見える化されている。

また企業内の倫理的問題や労働問題、生産管理上の問題も隠すことができなくなった。情報社会は事業の効率性を変えることにもなったが、企業の存立基盤にTransparency(透明性)が必要条件となり、そのオープン・ネットワークにより様々なCollaboration(協働)による社会課題解決の取り組みが登場したのだ。

これにより、資本家や消費者との連携のみならず、事業の中の様々なステークホルダー(利害関係者)との連携が始まった。労働者、地域住民、取引先といった多様な事業パートナーとの関係を重視し、そのために企業が何をビジョンとして掲げ、事業活動や社会問題解決を図ろうとしているのかを語る姿が求められている。

医療が器官や細菌との相互関係から考察されてきたように、企業も様々なプレイヤーとの相互連携で生み出される土壌が整ってきた。また、健康な心身の管理のためには、病気になってからCure(治療)するのではなく、継続的な栄養摂取と適切な運動によって心身をCare(いたわり)することが重要である。企業も同様で問題が起きてからのCureではなく、事業目標を進める一方で拠り所となる健康な企業体となるようにCareし、諸関係の維持をしていかねばならない。

CareからCoreの発見を!

これまでの事業は市場獲得のために顕在化したニーズに対して、付加価値の高い差別化を行うことが戦略定石であった。しかし、こうした市場はレッドオーシャン(赤き血の海の戦い)であり、低価格競争を免れることができない。

とはいえ、社会課題の解決も何でもかんでも無作為に手を出せばいいものではない。これからの成熟市場において社会課題のCore of the problem(問題の核心)をいかに早く発見して、いかに事業としてCore Valueを提供できるかが肝要である。オムロンはSENSING(センサー)とCONTROL(制御)で事業のCore Valueを築いている。これを深めるために時計のような携帯型センサーで24時間のヘルスケア管理から、高齢者や過労による自動車事故を防ぐセンサーとそのコントロールの研究を、オープンイノベーションで始めた。ブルーオーシャン(青き静かな海)な市場の形成は、こうした社会課題解決の研究を様々なパートナーと展開する中で、企業の独自のCore Valueを産み出していくのである。

3/1,2にはオムロンの立石文雄会長も登壇する「サステナブル・ブランド国際会議」がお台場ヒルトンで開催される。そのテーマは「Redefining the Good Life(グッドライフの再定義)」。グッドライフを構築するためのHUBとして、皆さんに新しい出会いや発見があることを期待したい。

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青木 茂樹
青木 茂樹 (あおき・しげき)

サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー
駒澤大学経営学部 市場戦略学科 教授

1997年 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。山梨学院大学商学部教授、
University of Southern California Marshall School 客員研究員を歴任。
多くの企業の新規事業の立ち上げやブランド構築に携わる。地方創生にも関わり、山梨県産業振興ビジョン策定委員、NPOやまなしサイクルプロジェクト理事長。人財育成として、私立大学情報教育協会FD/ICT活用研究会委員、経産省第1回社会人基礎力大賞を指導。やまなし大使。
2022年4月より、デンマークに渡り現在 Aalborg University Business School 客員研究員を務める。

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