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サステナブル・ブランドの作り方

第14回:日本の中にある発展途上国(下)

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SB-J コラムニスト・足立 直樹

日本は発展途上国!?

Daryan Shamkhali


「この国には、幻の女性が住んでいる」という言葉で、日本ではまだまだジェンダーで期待される役割が異なることをあえてリクルーティングの広告で取り上げた化粧品会社のポーラ。その問題意識はいま急に始まったものではなさそうです。

ポーラが昨年、同じくリクルート用に作った映像を見てみましょう。

リクルートPOLA (2016年ver.)

こちらはさらにストレートな「この国は、女性にとって発展途上国だ」という言葉で始まり、ドキリとさせられます。

「日本が発展途上国!?」と違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、この映像に共感する女性の方が多いことからも、そして実際に日々見かける光景からも、こういうことが確かにまだよくあることだと誰しも認めることでしょう。そして、日本が女性にとって発展途上国だという言葉を、私は残念ながら肯定せざるを得ません。

話題のSDGs(持続可能な開発目標)には17のグローバルな目標がありますが、女性と女児に対するあらゆる形態の差別に終止符を打ち、ジェンダーの平等を実現することは目標5に掲げられています。

SDGsの取り組み状況については、ドイツのベルテルスマン財団が毎年、各国の状況をまとめた報告書を発行しています。それによると日本は総合点数でこそ11位ですが、目標5には赤信号が灯っています。その原因としては、政治への進出の少なさ、賃金格差が大きいこと、そして職場への参加が限定的であることが挙げられています。

出典:"SDG INDEX & DASHBOARDS - A GLOBAL REPORT" (Bertelsmann Stiftung, 2017)

さらには、世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」2016年版によれば、日本は調査対象144ヶ国中111位と、下から数えた方が早いという不名誉な結果になっています。ここでも順位を下げている原因は、政治と経済における女性のプレゼンスの低さです。

こうした調査結果を見れば、ポーラがいう「この国は、女性にとって発展途上国だ」という言葉は決して誤りや誇張ではなく、正しい認識といって良いでしょう。

さて、サステナブル・ブランドの視点から今回の映像についてあらため考えてみると、重要なことが2つあると思います。

一つは、ジェンダーの平等は日本ではたしかにまだまだな面があるのですが、そのことをあえて企業が広告で取り上げたということです。日本では企業は社会的課題を正面から語ることを避ける傾向があるように思います。おそらくそれが賛否両論を呼び、もしかすると炎上してしまうかもしれないことを担当者や経営者が恐れるのでしょう。

実際、ポーラの広告でもいろいろな反応があったようです。しかし私から言わせてもらえば、それこそが多様性(ダイバーシティ)なのです。まずはさまざまな意見があることを認め、お互いの話を聞くこと。すべてはそこからです。

もう一つは、社会の課題、サステナビリティのテーマの解決が、企業経営にも実質的に大きく影響するということです。ジェンダーの平等の達成に向けて企業が取り組むべきなのは、それが「正しいこと」や、ましてSDGsの課題だからというだけではなく、実際にそこにメリットもあるからです。こうした課題に取り組み、そのことを話題にすることが優秀なスタッフを採用したり、スタッフのモチベーションや成果アップにつながる、そう判断したからこそポーラはこのような広告を作ったのでしょう。

もしこれが、CSR活動紹介の映像であれば、「あぁ、いいことやっている宣伝ね」と思われて終わっていたかもしれません。しかし、採用という企業活動において非常に重要なプロセスのために作った映像においてこのテーマを取り上げたところに、ポーラの本気度と、それがいかに役に立っているかということがわかるのではないでしょうか。

サステナビリティに対する姿勢が企業の価値を決める。そのことを改めて実感します。

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足立 直樹
足立 直樹 (あだち・なおき)

サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役。一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ理事・事務局長。東京大学・同大学院で生態学を学び、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア国立森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、独立。2006年にレスポンスアビリティを設立し現在に至る。2008年からは企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長も兼務。

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