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サステナビリティ評価機関の現状とこれから

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Juliette Barre

世界中の企業のサステナビリティパフォーマンスを評価するCDPやRobecoSAM、EcoVadisは、それぞれ独自の指針を掲げ、企業のポートフォリオを審査する手法を持っている。(翻訳:梅原 洋陽)

世界の約6割の企業が、サステナビリティに関する情報を開示するために、こうした評価機関を利用する。世界中のサステナビリティに関わるマネージャークラスの人たちは、2016年のサステナビリティに関する情報を管理する業務の中で、審査のためのアンケートに回答をすることが一番苦痛だったと感じているようだ。

私たちは今回、サステナビリティ調査のスコアやランキングから何を学ぶことができるのか、審査のプロセスがどのようなものかを理解するために調査を実施し、専門家へのインタビューを行った。

サステナビリティ報告を行っている企業の多くは、CDPかRobecoSAM、EcoVadisの審査を利用している。その他の評価機関にはSustainalyticsや MCSI、Viego-Eiri、 Oekom Research、そしてGaia Index、FTSE4Good、Bloombergもサステナビリティに関する審査を行っているが地域によってより多く利用されていたり、少なかったりするのが現状だ。

審査機関には、大きく分けて2種類ある。投資家を対象にしている機関と、大企業を対象にサプライチェーン上のリスクやチャンスを審査する機関だ。CDPは両方を行い、EcoVadisはサプライチェーンを、そしてRobecoSAMは投資家を主に相手にしている。

評価機関を利用するのは誰か

CDPは2016年、投資家の後押しを受け、世界中の株式会社に情報公開を求めたところ、1089社から回答があった。EcoVadisは、2万400社(そのうちの80%は中小企業と呼ばれるものだろう)の企業を調査した。そして2017年、世界の最大手企業である3400社のうち942社がRobecoSAMの調査を受けている。

誰のための評価やランキングか

評価やランキングなどの調査結果は、主に投資家や調達部門が投資戦略を立て、それぞれのビジネスにおけるリスクを減らすために使われる。

「EcoVadisは財政的な持続可能性の調査とは異なる。SaaS型のソリューションにより、クライアントがサプライヤーのポートフォリオを管理することが可能だ。サプライチェーンに関する優先事項や戦略に応じて、サプライヤーに潜むリスクを評価や得点で認識することもできる。クライアントのパフォーマンスと透明性を高めることをともに目指している」とEcoVadisのマーケティング・ディレクターのデビッド・マクリントック氏は言う。

最近の研究で、EcoVadisと仏HEC経営大学院はアメリカとヨーロッパでサステナブルな調達が推し進められている動機を調査した。リスクの軽減、ブランドの評判、そしてコンプライアンスが主要な3つの動機のようだ。近年制定されたカリフォルニア州サプライチェーン透明法、英国の現代奴隷法、ドッド・フランク法の紛争鉱物に関する規則、そしてフランスの注意義務などの規制に伴い、この傾向は強くなる一方だろう。

持続可能な調達を行う理由を欧州と米国で比較

ブルームバーグ・プロフェッショナル・サービスによると、「投資家の要望に応じるため、より多くの資産運用者がESGの視点を投資戦略において重要視する傾向がある。そして、そのアプローチは経済的なリターンを伴うと示す研究報告が増えている」という。

ESGデータの開示は、国連の持続可能な証券取引所イニシアティブ(国連SSE)からも促進されている。国連SSEに参加している15の証券取引所はESG報告に関する明文化された手引きを提供し、そして12の証券取引所はESG開示を企業に義務付けている(アメリカでは0である)。

サステナビリティ(ESG)スコアは投資家や調達チームにだけでなく、企業自身も自社の業績を評価したり他社と比較をするために用いている。

ランキングは、時に重要なトピックを社内で共有するのにも役に立つ。基本的に企業は競争を好むため、業界内で最下位というのは喜ばしいことではない。サステナビリティ・マネージャーはこのランキングをうまく活用できるだろう。

調査機関のアンケートは複数の部門を対象に行なわれることが多い。特にRobecoSAMは気候変動や、税務戦略、人権、リスク軽減やガバナンス含む情報に関して60のそれぞれの業界に合わせたアンケートを用いて20個の項目を調べる。こうした調査はサステナビリティ部門が社内のステークホルダーと対話をする際にも有効である。

「RobecoSAM CSA調査に回答すると、自社の真のビジネス価値に気づけるという話を聞く。どの企業も望んでいるDJSIに選定される可能性だけでなく、企業内のネットワーク形成を促進し、企業のDNAにサステナビリティを組み込む機会となっているようだ」とRobecoSAMのサステナビリティ・ディレクターのロバート・ドルナウ氏は語った。

CDPやRobecoSAMのようなランキングは、企業が好評価を得た時に、企業自体が勝手に宣伝する。メディアやNGOはこの情報を引き継ぎ、一般的な認知度を高める。CDPは企業調査への参加を拒んだ企業名を公表しているという戦略まで取っている。

フォーマットは統一されるのか

企業は調査機関からの多くの要求を受け、しかもそれぞれのフォーマットが異なることから、調査疲れに陥っている。その一方で投資家はアクセスできるESGデータは増えているものの、統一の基準がないためにデータの比較をする難しさも感じている。

投資家向けとサプライチェーンのリスクとチャンスを測る企業向けの2種類の調査があるのは変わらないが、調査機関は回答する企業の負担を軽減しようとしていると感じる。

「EcoVadisはCDPとパートナシップを結んでいることで、クライアントがCDPに提出しているデータを確認できる。結果として、私達のクライアントは気候変動に関する回答時間を短縮できる。何よりも、私達は業界のイニシアティブを促進している。化学業界のTfSやICT業界のGeSI-ETASC、そして食品・消費財業界のRailsponsibleとAIM-ProgressはEcoVadisの評価を用いてサプライヤーのCSR評価を行なっている。これによって、サプライヤーが複数のクライアントの結果を共有する際に役に立っている」とEcoVadisのマクリントック氏はいう。

RobecoSAMとそのCSAのように、他の機関のアンケートも他団体と連携している。

「RobecoSAMはCDP、GRESBやLGB(the London Benchmarking Group)とも提携しているし、気候対策に関する調査はGRESBと行う。企業がGRIへの回答を使いまわせ、GRIのレポートを参照できるように私達のアンケートは作成されている。私達は企業の調査に必要な労力を深刻に受けとめている。私達のアンケートが他団体のアンケートと関連できるようにしている」とRobecoSAMサステナビリティ・ディレクターのドルナウ氏はいう。

合併の動きも見られている。例えば、フランスのサステナビリティ調査機関のViegoはEirisと2016に合併し、より必要な情報と研究成果をヨーロッパの投資家に報告している。

調査機関は連携を強め、回答する企業の負担を軽減し、より統一された意味のあるデータを届ける努力をしている。しかし、この領域の歴史はまだ浅く、新たなトピックが次々に生まれ、ステークホルダーも情報をKPI(重要業績評価指標)に沿って要求している。このような状況下では統一されたアプローチを確立するのはまだ難しいだろう。

「RobecoSAMの10―15%の質問は毎年更新されている。アンケートは、上位10%の企業が差別化できるぐらい難しく作られている必要がある。私達は企業が新たなトピックや増加する情報公開の要求に常に応えられるようにしている。RobecoSAMが多くの企業に好まれる理由はここだ。新たな質問を導入したとき、満足いく回答をすることができたのは約2割、8割の企業はきちんと回答できる状態ではなかった。しかし私達のアンケートが社内での議論を呼び起こすきっかけとなった。例え、十分な回答ができなかった企業でも数年後には改善されると考える」(RobecoSAMサステナビリティ・ディレクターのドルナウ氏)

調査機関から学ぶ情報公開の現状

専門家達は企業の情報開示は改善されていると感じている。RobecoSAMの調査に参加している企業の数は2016年から2017年で867社から942社に増加している。フランスで、Tennaxiaのデミエ氏は「クリック効果」があると伝えている。企業が一度情報を開示すると、引き返すことはない。サプライヤーの透明性を重要視する傾向が高まり、より多くの開示が求めるようになる。企業同士が競合他社よりサステナブルで透明性を保持しようとする努力も見られる。

ドルナウ氏によると、RobecoSAMは「政策影響、影響評価、評価」に関する質も項目を改定した。近年新たに加わったトピックには税務戦略、マテリアリティ、人的資本の開発がある。従来の項目が発展したケースもある。例えばサプライチェーンは、求められる透明性が基本的な情報だけに留まらなくなった。人権の項目もより難しくなり、デュー・デリジェンス、評価、そして情報開示にも重きが置かれるようになってきている。

Source: HEC/EcoVadis 2017 - 7th Sustainable Procurement Barometer

EcoVadisの最新の指標によると、サプライチェーンを特定のサステナビリティに関する指標で評価する傾向が強まっているようだ。75%の企業が新たなサプライヤーを選択する際にサステナビリティに関するデータを利用する。63%の企業は、提案依頼書やRFx、そして入札の際、満たすべきサステナビリティ基準を設けている。58%の組織はサステナビリティデータを年次のサプライヤー評価で活用している。しかし、同調査は主に一流のサプライヤーのみが評価を利用しているとも報告している。

サステナビリティレポートと調査機関のこれから

Tennaxiaのデミエ氏は、企業はもう逃れることはできないと考えている。「企業に対するクリティカルな問いかけは増え続けている」という。ステークホルダーにとって、サステナビリティ調査機関は企業の情報公開やパフォーマンスを評価する方法である。一般消費者もこのトピックに関心を持ち始めている。デミエ氏は「企業が透明性を欠くと言う理由で訴えられる新しい現象が起きている」と続けた。

これが意味することは、透明性だけではなく、データの質も重要だということだ。投資家と同様に、市民社会は企業に提供されたデータを鵜呑みにはせず、検証されることを求めている。

これは痛いところを突いている。GRIによると、32.5%のGRIは部分的もしくは全体が第三者機関によって保証されている。このような企業の多くは厳しい規制があるヨーロッパを拠点としていることが多い。企業の取り組みと、クライアントや投資家、そして市民社会が期待していることの隔たりはまだ大きい。

調査期間は企業を奨励するために、第三者機関に評価されたデータを提出する企業によい評価を与えている。EcoVadisは評価の質の向上や評価プロセスの効率化に力を入れている。

サステナビリティレポートが扱う範囲が拡大している傾向も見られる。人々は企業が行う活動や、地域コミュニティ、そしてサプライチェーンに与える影響に対して透明性の確保を望んでいる。「EcoVadisはより広域な地域で調査を行いたいと考えています。世界のどこであろうとも、全てのサプライヤーを評価できることを目標としています」とマクリントック氏は言う。情報開示はヨーロッパや北米だけでなく、世界中の課題だということを示している。

新たなサービスは企業がアンケートを答えやすく、そしてより良いパフォーマンスを発揮できる手助けをしている。例えば、Tennaxiaはコンサルティングや技術提供、サステナビリティ戦略、レポートする内容の吟味、質の高いデータの収集、そしてサステナビリティ調査会社を含むさまざまなステークホルダーに向けてのPRを行なっている。EcoVadisはクライアントやサプライヤーにサプライヤー・キャパシティー向上ツールを提供している。RobecoSAMは定期的にウェビナーやワークショップを開催し、アンケート用紙の目的や内容を説明したり、回答のサポートをしたりしている。

サステナビリティ調査機関を取り巻く大きな変化はすぐにはないだろう。むしろ、企業への透明性の確保に対するプレッシャーは増す一方だ。企業のサステナビリティ報告のあり方を統一化しようとする動きや、投資家がどのようにサステナビリティやESGデータを活用すべきかの議論は始まったばかりだ。企業や投資家が報告すべき内容の確立やデータ報告の質を上げるにはまだまだ残された課題は多い。