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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

なぜ建築事務所にサステナビリティが必要か

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Jim Nicolow
Image Credit: International Living Future Institute
Image Credit: International Living Future Institute

今でも、大学生の頃に建築学科で受けた実習をよく覚えている。2つの建築事務所の特徴の違いを調べる授業だった。一つはビジネスのために事業があり、もう一つは事業のためにビジネスがあるというものだ。つまり、前者は建築業を営むというビジネスをし、後者は建築業にまい進することでそれが結果的にビジネスとして成立している。(翻訳:寺町幸枝)

企業の目的や意義に関わらず、利益を上げられなければ、目的を達成する以前にその企業は生き残れないだろう。

私は「事業ありきのビジネス」を行う企業で働きたくて、ロード・エック・サージェント(Lord Aeck Sargent)という建築事務所に今から20年前に入社した。理由は、ロード・エック・サージェントが事業ありきのビジネスで、リスポンシブデザイン(あらゆる環境に最適化したデザイン)を基本理念とし、環境に配慮した建築に力を入れていたからだ。

建築業界とサステナビリティ

ここ20年で、環境デザインは成熟してきた。経済や環境、社会に対する関心が高まってきた結果、サステナビリティを重視する傾向が高まっている。そして今、ただ何かを「持続可能にする」だけでなく、「再生する(Regenerative)」デザインを行うことで、現状よりも良くしていこうとする動きがある。事業ありきのビジネスを実践する企業の使命と理念は、この流れの中でさらに進化を遂げている。

私たちは、いくつもの革新的な環境に配慮したグリーンな建物をデザインするプロジェクトに関わってきた。例えば、アトランタ動物園の環境保護活動情報センターやサウスフェイスエナジーインスティチュートのエコオフィス、米国南東部で最初のLEEDプラチナムの認証を受けたビル郡そして、全国初のサステナビリティ学校であるアリゾナ州立大学のリングリーホールなどだ。

私たちは、常に全体のデザインポートフォリオを改善していくことに力を費やしてきた。顧客が求めるクリエイティブな環境に配慮したデザインに応えると同時に、サステナブルにプロジェクトを実施することで事業理念と行動を一致させ、ビジネスを続けてきた。

建築と温室効果ガス

2003年の建築の専門誌メトロポリスの記事「建築汚染」で、執筆者のエド・マズリア氏は、気候変動の主な原因は車ではなく、工場だと指摘した。米国の温室効果ガスの排出量の約半分は、建物によって使われるエネルギーが原因だからだ。建築家は非難されて当然で、行動を起こす責任があると彼は迫った。

「建築家がこの問題を解決しなければ、この世界はおしまいだ」とマズリア氏は述べている。彼は「2030年への挑戦(2030 Challange)」を2006年の秋に発行し、全ての新築建物、開発、大きな改築を行う事業者は、2030年までに事業活動により排出される二酸化炭素の総量を他の事業で相殺するカーボンニュートラルを目指すべきだと提案している。

私たちの会社は2007年1月、定期的に開催している事務所関係者が全員出席する会議にマズリア氏を主要ゲストスピーカーとして招待した。彼の行動に背中を押され、2007年2月にロード・エック・サージェントは、事務所を率いるトップの満場一致で、2030年までにカーボンニュートラルの達成を目指すと公約した最初の建築事務所となった。

またその年から、事務所の運営もカーボンニュートラルで行うことにした。以来オフィスのエネルギー使用や出張で排出される二酸化炭素をオフセットするようにしている。そして2010年には、米国建築協会が2030コミットメットメントを採択し、報告フレームワークを発行し、全ての建築物のエネルギー消費量について報告するよう、建築事務所に呼びかけた。私たちの事務所を含め56の建築事務所が初年度にレポートを発表し、その後、毎年定期的に発表を行っている。

新たなサステナビリティへの取り組み

最近取り組んでいることに、リビング・ビルディング・チャレンジ(LBC)がある。それはRegenerative(建設前より環境負荷が下がる)建築のパフォーマンスの基本である「もしすべてのデザインや建築工程の一つ一つが、世界をより良くできるとしたら」という問いから生まれた活動だ。

我々は、ミラー・ハル・パートナーシップと共同で、ジョージア工科大学のリビング・ビルディングを設計中だ。このプロジェクトは「米国南東部で最も環境に配慮したリサーチと教育を行う施設」を目指して進んでおり、デザインチームはデザインプロセスをウェブサイトを通じて一般公開している。

LBCの理念構造は花をモデルにしている。花びら一枚一枚が揃うことで一輪の花が存在するのと同様に、「建設地」「水」「エネルギー」「平等」などの8つのエシカルな理念が揃うことによりLBCは完成する。さらに、水とエネルギーをネット・ポジティブ(元のバランス、自然に回復する)にするデザインと建築を行うことも必要条件だ。

建築事務所が果たすべき社会的責任

LBCの理念は、米NGOの国際リビング・フューチャー協会(International Living Future Institute)が行う「JUST(社会正義)」という、企業が透明性のある運営を行い、社内でも従業員に対して社会正義を果たせているかどうか情報開示を行うプログラムも採用している。建築物という外部だけでなく、世界を良くするために会社であるかも自分たちに問うものだ。JUSTプログラムは、ダイバーシティや公平、安全、労働者利益、地元利益、スチュワードシップの項目で組織を格付けし、認証ラベルを発行している。

2017年2月、世界で初めて建築事務所20社がJUSTラベルを取得し、ロード・エック・サージェントもその中の1社に入った。また同ラベルは2年ごとに更新されるものだ。更新制度があることが組織にとって、より良くしようと取り組むための良い意味でのプレッシャーになって欲しいと持っている。私のブログにも、JUSTラベル取得のプロセスに関して詳しい説明を公開しているので、興味のある人は見てもらいたい。

ビジネスありきの事業であれ、事業ありきのビジネスであれ、建築事務所が事業を続けていくために利益を出さなければならないことは変わらない事実だ。サステナブルで公平なデザインと事業の運営は当然のこととして取り組むべきことだ。そうすることで、企業は市場競争力を上げ、さらに従業員の満足度と定着率を上げ、会社の将来のために必要となる有能な人材を確保することができるに違いないと考えている。