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ESGの「S」を評価する、新たなガイドライン誕生

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Michael Laermann
Image Credit: Corporate Human Rights Benchmark

国際ワーカーズキャピタル委員会はこのほど、新たな責任投資のガイドライン「労働者の人権と労働基準の評価ガイドライン」を発表した。(翻訳・編集:オルタナ編集部=小松遥香)

注目が高まる「ESG(環境・社会・ガバナンス)」だが、とりわけ従業員の人権に関する企業の取り組みに注目する投資家が増えてきた。長期投資した株が社会的批判によって下落するのを防ぐのは、資産運用者の責任(フィデューシャリー・デューティー:受託者責任)である。しかし、グローバルサプライチェーンの複雑さを考えると、多くの機関投資家にとっては、労働などの「S」にあたる社会的課題への取り組みを日々調査し評価することは簡単なことではない。

国際労働組合総連合(ITUC)のシャラン・バロウ書記長によると、ESGの「S」にあたる社会的課題への取り組みは、今のところ、投資分析の際にまだ十分に重要視されているとは言えない。投資家にとっても、企業の取り組みを評価する共通の枠組みがないのが現状だ。

投資の意思決定の際、労働基準法などの企業の社会的課題に対する取り組みを考慮することは、年金機構にとっては特に切り離せないことだ。労働者の年金を管理する組織である以上、社会的課題に配慮しない製品への投資は本来行われないことが望ましい。

「年金はプレゼントではない。一生懸命働いた末に手に入る苦労の賜物であり、退職後の尊厳ある生活のために据え置きされた労働者の賃金なのだ」と国際運輸労連(ITF)のパディ・クラムリン会長は強調している。

「そうした重要性を念頭に置き、年金を運用する必要がある。年金というのは紛れもなく、退職後に、個人が持続可能な生活を送り、さらに社会の一員として暮らしていくための『権利』であり、倫理的に取り扱われるべきものだ」(パディ・クラムリン氏)

ESGの「S」を評価する10の項目

国際ワーカーズキャピタル委員会(the Global Unions Committee on Workers’ Capital: CWC)は、企業が労働基準法を遵守し、労働者と責任ある関係を築けているかどうかを投資家が適切に評価するための指標となるガイドラインの作成を行ってきた。同委員会は、国際労働組合総連合(ITUC)とグローバル労連(GUF)、労働組合諮問委員会(TUAC)の共同イニシアティブで、年金の責任投資に関する協議や活動を行う国際的な労働組合ネットワークだ。現在、25カ国の200以上の団体が加盟している。

CWCの新たなガイドライン「労働者の人権と労働基準の評価ガイドライン」は、ビジネスと人権に関する指導原則やOECD多国籍企業行動指針、ILO国際労働基準などの国際基準や枠組みの内容を反映している。

UNGP報告データベースや人権コンプライアンス・アセスメント・ツール、企業の人権ベンチマーク(CHRB)といった人権に関する既存の情報開示プラットフォームは構成がしっかりしており、投資家が企業の人権への取り組みを評価する上で役立ってきた。

CWCのガイドラインには10個の項目があり、それぞれテーマからインベストメントチェーン(投資の連鎖)を評価することが可能だ。アセットオーナーは、アセットマネージャー(資産運用会社)に各企業を10の項目に基づき評価して貰うことができる。

[10の項目]
1.組織構成(Workforce composition)
2.社会対話(Social Dialogue)
3.労働力(Workforce participation)
4.サプライチェーン(Supply chain)
5.労働安全衛生(Occupational Health and Safety)
6.給与水準(Pay Levels)
7.苦情処理メカニズム(Grievance Mechanisms)
8.人材開発(Training and Development
9.ダイバーシティ(Workplace diversity)
10.年金掛金(Pension fund contributions for employees)

ESG格付け機関も、この新たなガイドラインにより、企業の人権に関する長期戦略や実績を評価しやすくなり、元々行っていた評価方法や指針の向上にもつながってくる。さらに、従業員の人権や労働基準法のマネジメントに対する格付けを行うなど第三者視点で評価することで、企業に変化をもたらすこともできる。

世界に浸透

投資家の人権への関心を高めるために、CWCはアドボカシーやキャパシティビルディング(能力開発)セミナーを積極的に行っていく方針だ。そして、アセットオーナーの意識を醸成し、投資方針にこの新たなガイドラインを取り入れて貰い、アセットマネジャーにも同ガイドラインに基づく投資を行って貰う狙いだ。

一方で、CWCは、社会的課題に対する取り組みを評価するESG評価機関の指標のレベルと質を上げていくことにも注力する方針だ。ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する課題を投資方針に組み込むことで、年金基金の受託者としての能力を向上させることを目指している。CWCに加盟するメンバーは今後、新たなガイドラインを基準にし、各国の状況に合わせた投資方針を立てていく。

CWCは、アセットオーナーの能力開発のためのセミナーや受託者団体の集まり、ワークショップなどを世界中で開催している。新たなガイドラインは、これから国内外の規制機関のコンサルテーションでも使用されていくだろう。

またCWCは、国連責任投資原則(PRI)などの重要なインベストメント・チェーン・イニシアティブとも連携し、社会的課題を投資プロセスに組み込んでいく。実際、今年の9月25-27日にドイツ・ベルリンで、世界中の年金基金と労働組合の代表が集結し、「PRI in Person」という年に1度の総会が開催される。