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ピュリッツァー賞受賞者が語る、地球の危機

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Allison Torres Burtka
Image Credit: Ciriesco

この地球を殺しているのは、私たち人間だ。もちろん、一言で言い切れるほど単純な話ではない。ピュリッツアー賞を受賞した「The Sixth Extinction(邦題『6度目の大絶滅』)」の著者エリザベス・コルバートは、「人間こそが、この地球上に暮らす多くの種に差し迫る絶滅危機を招いている張本人だ」と話す。(翻訳:寺町 幸枝)

地球は、これまでに5回の絶滅を経験してきた。その一つは、恐竜を痕跡残らず絶滅に追いやった小惑星である。しかし今回は小惑星が原因ではなく、私たち人間なのだ。

コルバートは、世界中でさまざまな種や生態の変化に関する証拠をまとめてきた。彼女に先日、ミシガン大学のアーブ研究所で、気候変動やその解決手段を探るに当たっての問題点、そして彼女が考える希望について話を聞いた。

――先日「ニューヨーカー」に、気候現象は遅れてやってくると書かれていましたよね。私たちが今目にしているものは、何十年も前に起きたことの結果であると。今、私たちに迫りくる変化とはどういうものでしょうか。

エリザベス・コルバート(以下EK):気候を以前のように再度均衡にさせるには、かなり長い時間がかかります。ご承知の通り、パイプラインには、かなりの熱が溜まっています。このままでは、これまで以上の熱波や、異常気象が起こるだろうと考えています。これまでよりひどい洪水が起きるでしょうし、干ばつが起きれば、それはさらにひどいものなる可能性があります。

――あなたは、気候変化の速度が早くなっていて、生き物が高い所あるいは、安定した気候の場所へ移動しつつあるとも言っています。これにより、米国ではどんな変化が起きると考えますか。

EK: この時代、人間も植物も色々なものが移動し、植物の成長の時期が変わったり、病原体が生き延びたり、病原媒介者が移動したりします。ほとんどの人は、昨年と今年でどんな変化が地球に起こったか気づいていません。でも例えば、鳥に発信器をつけると、色々なことが変わっていることが分かります。

――著書「6度目の大絶滅」が、この状態に何か変化をもたらすきっかけになったのではないでしょうか。

EK: 残念ながら、選挙前(昨年の大統領選挙)とは状況が変わってしました。オバマ前大統領は私の本を読み、コメントをくれたし、励ましてもくれました。彼は多くの海洋領域を保護し、生物の多様性を守ることの必要性についても言及しました。

それに対して、現在のトランプ政権は可能な限りの原油や石炭を掘り出そうと考えています。このままでは環境に関する規制の多くが逆戻りしてしまいます。ですから、今のところは良いきっかけになったとは言い難いですね。

――気候変動の対策として、近年もっとも行われているのはどんなことでしょうか。

EK: 世界中でさまざまな努力が行われています。ドイツやスカンジナビアのいくつかの国々では、エネルギーシステムを大幅に変わってきています。

オバマ政権下で、米国は基本的な枠組みにおいて、重要な進歩を遂げました。しかし、それがこれから逆戻りするでしょう。パリ協定は意義のあるものです。世界の人々が問題の存在を認識し、問題解決に取り組みことに同意をしたのですから。

今何が起きているかということについて、きっと誰もわからないと思います。良い点もあれば悪い点もあります。

現在、地球の二酸化炭素の排出量は横ばいです。ですが十分とは言えません。どこであれ十分ではないです。実際、その横ばいのレベルが非常に高いからです。しかし、何も取り組んでいないわけではなく、これですら努力の結果なのです。

――では、これから起きるであろう気候変動の問題を少しでも予防するにはどうすれば良いでしょうか。

EK: 色々な方法があると思います。ですが、私が現政権の政策にとても困惑していることは、こうした可能性や機会を断絶しようとしていることです。

「メタン排出規制」を例にとります。石油やガスの生産過程で排出されるメタンガスは地球温暖化の原因になっています。現政権は、これを撤廃しようとしたりしているのです。

さらには、「エネルギースタースタープログラム」を廃止したいと考えているようです。これも馬鹿げています。なぜ私たちが、今更エネルギー効率の悪い製品を買いたいと思うのでしょうか。

社会の流れとして、電気自動車を利用する方向に向かっています。他にも解決策となり得る可能性があり、テクノロジーはどんどん進化していくことでしょう。でも現在、それを一気に減退させる事態が起きているのです。本当に困惑を隠しきれません。

――こうした状況で、どんな人なら変化を起こせるでしょうか。

EK: 現実としては、色々な手段が必要です。ビジネスやテクノロジーや政策だけでなく、すべての分野の人々が協力し合わなければいけません。問題はそれほど大きいのです。

我々がここ数年経験してきたことが、もし国家レベルで政策を変えれば、多くのビジネスがそれに追随します。そうすれば、すべての人が同じ方向を向いて前に進むことができます。それによって、大きな進歩が見込めるのです。しかし、もしみんなが違う方向を向いていたら、目標を達成することは難しくなります。


――企業にはどんな役割があり、そしてこれからどんなことをやっていけると思いますか。

EK:企業は多くの重要な役割を担ってきました。そして彼らがもっと前に進みることを願っています。

多くの大企業には、とても有能で、また科学に精通している人が大勢います。化石燃料を扱う企業に勤める人も、何が起きているかわかっているのです。まずは、どういう業界にいたとしても、そういった有能な人が正直にならなくてはいけません。

これまで、長きにわたり事業の中心になっていたものが企業を支えてきたことは事実ですが、二酸化炭素の排出量を削減する努力をしてこなかったのも事実です。

これから企業は、事業を通して、二酸化炭素の排出量を削減する必要があります。そうすることで、非常に大きなインパクトが生まれます。

近年、「サステナビリティー」が注目を浴びています。これからあるいはすでに先頭に立っているサステナビリティー・リーダーたちに望むものはありますか。

EK: 意義のある結果を出すことが必要です。「サステナビリティー」という言葉だけが先走っているように思います。多くの企業が「いい印象を得るために」と表面的に使っているだけで、組織全体は何も変わっていないのではないでしょうか。

私たちは消費者として、地球市民として、そしてサステナビリティー社会の監督者として、ものすごく厳格である必要があります。これまでと同じ行動を続けていてはダメだと知るべきです。

――色々な国に行き、地球が変わってきている現状を目の当たりにしてきたと思います。また科学者たちもその変化を研究し続けていますよね。あなたがこの問題を解決するためにやろうと考えていることは、これまでの経験から見ると、どういう段階だと思いますか。

EK:地球規模でその問題を見れば見るほど、ひるんでしまうことでしょう。本当にさまざまな力関係が働き、それが全てこの問題に集約されているという感じなのです。地球規模の視点で考えると、この問題がさらに難しいものだと実感することでしょう。

――すでに手遅れの段階でしょうか。つまり地質学的な観点で、今から私たちが何かすることは意味があることでしょうか。

EK:確かに、これまでにさまざまなダメージを与えてきました。そしてその多くのダメージは、今まさに起きていて、さらにこれから起きるものもあります。しかしダメージには段階があります。

あいにく、今の時点で私たちは「これ以上悪くなることはない」とは決して言えません。というのもそこまでいくと、どんな人も生きていられませんから。

でもいつでも、そう遠くはない未来のために、やれることはあるのです。

エリザベス・コルバート:雑誌「ザ・ニューヨーカー」の記者で、地球温暖化に関する連載「The Climate of Man(人による気候)」が、アメリカ科学振興協会が主催する賞を受賞。またナショナルアカデミーコミュニケーションアワード(全国教育コミュニケーション賞)にも輝く。また「Field Notes from a Catastrophe(大惨事のフィールドノート)」は、全国雑誌大賞に2度も輝いている。またハインツ賞やグッゲンハイムフェローシップも受賞している。