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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

存在意義の追求がビジネスをサステナブルにする

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SB2019Tokyo

セッション「All In: The Future of Business Leadership」

サステナブルな企業経営が注目されるイケア、ネスレ、パタゴニアはどのような企業理念を持ち、どのようなアプローチで事業経営を行っているのか。これらの企業価値を実証する具体的な事例とは――。企業の持続可能性に関するコンサルティングなどを手掛けるサステナビリティ社のマーク・リー氏が「サステナブル・ブランド国際会議2019東京」のセッションで、持続可能な企業経営のリーダーとなっている3社の担当者に聞いた。(箕輪弥生)

企業の存在意義を追求することが持続可能な企業経営につながる

イケアは世界各地に377店舗を運営し、年間約10億人が来店するグローバルな企業である。「イケアのバリューチェーン全体で人々の毎日の生活にインパクトを与えていることに大きな責任を感じる」とイケア・ジャパンのヘレン フォン ライス社長は語る。

同社は2020年までのサステナビリティ戦略として「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」(人と地球に良い影響を与えること)を2012年に発表し、進めている。

この戦略の根本にあるものは、創業者が育ったイケア発祥の地、スウェーデン南部のスモーランドにあるという。岩だらけのこの地域では、乏しい資源を無駄なく有効に活⽤する習慣があり、その考えが今なお、イケアの製品開発や輸送・販売⽅法に影響を与えている。

2020年までのサステナビリティ戦略の中では、「サーキュラーエコノミーと気候変動対応」をひとつの柱とした。具体的には、自然エネでの店舗運営、再生可能な素材の使用、廃棄物の資源化、持続可能な原材料の⻑期的な調達などである。

一方、世界最大の食品企業であるネスレは、企業の存在意義(パーパス)を2016年に「生活の質を高め、健康な未来づくりに貢献する」ことだと定めた。これは乳幼児のための栄養補給食品を製造した創業時から150年間同社が目指してきたことを明文化したものだ。

同社はこの企業の存在意義を追求するために企業の共通価値を創造するCSVと呼ばれるアプローチが必要だとする。企業が持続的に成長するためには社会課題を解決し、社会的価値を持たなければならないというものだ。ネスレ日本の嘉納未來執行役員は「CSVを実現することがビジネスチャンスになり、競争力になる」と強調した。 

パタゴニアの企業理念は明快だ。「私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と存在意義を明確化している。自然と遊ぶためのウエアやギアを販売している同社にとって、自然や生態系の保護はパーパスそのものだからだ。

パタゴニア日本支社の佐藤潤一環境・社会部門シニアディレクターは「特に私たちという部分が重要となってきている」と指摘し、「気候変動の問題は1社だけではもちろんできない。同じ危機感を共有するパートナーと連携してイノベーションを生んでいきたい」と話した。

環境や社会にポジティブに作用する事業経営とは

これらの企業の価値観を実証する具体例はどのようなものがあるのだろうか。会場からの質問にネスレ日本の嘉納執行役員が答えた。

同社では2011年から毎年、社員からのソリューションを募集する「イノベーションアワード」を実施している。その中で東北の契約社員だった女性が地方のスーパーの自販機の近くで休む高齢者を目にし、スーパーに同社のコーヒーマシンを置いて集いの場づくりを提案し受賞した。この取り組みは全国に広がり、提案した女性は正社員となったという。

嘉納執行役員はこのケースを「日々の小さな発見が地方の課題、高齢化社会の課題につながった好事例」と説明し、「企業の存在意義をトップだけでなく社員全員が自分事化した結果」と分析した。

イケア・ジャパンでも社員の「なぜ家具のレンタルがないのか」という声からレンタルサービスが日本から始まったとヘレン社長は話す。

パタゴニアは、米国がパリ協定から離脱した後のブラックフライデーの直営店の売上すべてを環境団体に寄付した。また、同社は世界での売上高の1%を利用して自然保護に取り組むNGOやNPOの支援を行うほか、インターンシップ制度による従業員の活動参加など助成金以外でも支援する。

3社共、ブランドを作るためにサステナビリティを掲げるわけではなく、企業の存在意義を深く追求した結果、環境にも社会にも貢献するビジネスの形を作っている。

今後10年後のサステナビリティ経営に何が重要かというマーク・リー氏の問いかけに対し、パタゴニア日本支社の佐藤シニアディレクターは「今後はビジネスをすればするほど環境や社会が良くなる再生型(Regenerative)の事業経営に皆が本気で移行しなければならない」と指摘した。