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パーム油のリスク(1/3)発電申請急増で業界混乱

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パーム油の原料となるアブラヤシの実。果房一つが20キロ以上 写真提供:地球・人間環境フォーラム

2017年になってパーム油を燃料とする発電設備の設置申請が急増している。その全てが稼働した場合、年間約918万㌧のパーム油が消費される計算になる。国内のパーム油消費量(2014年64万㌧)の15倍近くという膨大な量だ。これを受け、政府はFIT(自然エネルギーの固定価格買い取り制度)のパーム油発電の認定審査基準にRSPOなど持続可能な調達に対する第三者認証を求める大幅な規制の方針を固めた。(オルタナ編集部=沖本啓一)

世界で消費されるパーム油の85%は、インドネシアとマレーシアで生産される。パームの果肉からはパーム油、種子からはパーム核油がつくられる。価格が安く、酸化しにくいため扱いやすいことから、食品、洗濯洗剤、医薬品、化粧品などに幅広く利用される。日本人一人当たりの消費量は年間5kgにも上る。

だがパーム油発電が日本で急増することでパーム油の需要が一気に高まり、産地での環境的・社会的リスクが高まるとの危機感がNGOや専門家の間で広がった。資源エネルギー庁の担当者は「今回の規制は安定的な燃料の調達と持続可能性への配慮だ」と話す。

FITによる買い取り価格は、区分ごとに分かれ、年度によって変動する。パーム油発電が含まれる「一般木質発電」の区分は、2017年10月に大規模な買取価格の引き下げがあったため、駆け込み申請が相次いだ。

ただ今後は、パーム油が不足し、申請はしたものの実際は発電できないケースが増えることは想像に難くない。エネ庁も「認定案件の2割程度しか実際に発電できないのでは」とみている。それでも2014年の国内パーム油消費量の3倍近い量だ。

NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(千葉県柏市)の泊みゆき理事長は「そもそも農産物であるパーム油を、発電燃料としFITの対象としていることに無理がある。認証だけで持続可能性を担保できるのかにも懸念が残る」と指摘する。

エイチ・アイ・エスの子会社「H.I.S. SUPER電力」は2019年7月に宮城県角田市にパーム油を燃料とするバイオマス発電所の建設を計画している。2万160平方メートルの用地も確保済みだ。

さらに、東芝プラントシステム(神奈川県横浜市)やアジアン電力機構(東京・中央)、旭パワーマネジメント(兵庫県姫路市)などパーム油発電を営業している会社は全国にある。

NPO法人バイオマス産業社会ネットワークの泊みゆき理事長は、「環境に良いとして使っていると、レピュテーションが悪くなるリスクがある」と話す。

一方、ソフトバンク子会社のSBエナジーは和歌山県御坊市でバイオマス発電事業を計画しているが、事業化はまだ決めておらず、実現可能性の調査段階だ。

燃料については検討中だが、安定供給に加えて、調達リスクを考慮して決めていくという。

同社の広報担当である湯浅謙一氏は、「労働環境や児童労働に加担していない燃料を選ぶことは事業の持続可能性に必須」と話す。

ウータン・森と生活を考える会は11月28日、経済産業相と資源エネルギー庁長官へ、自然エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の適用からバイオマス発電燃料としての「パーム油」を外すことの申し入れを行った。

泊氏は、「海外ではパーム油のリスクは知れ渡っているので、リスクを知らないまま発電に利用し続けると批判を受けることになるだろう」と警告する。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

オルタナ編集部
好きな食べ物は鯖の味噌煮。