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環境経営学会、気候変動への「適応」に関する提言発表

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Ales Krivec

認定NPO法人「環境経営学会」(東京・千代田)は7月12日、「気候変動への『適応』に関する提言」を発表した。今回の提言を発表した理由について、同学会は、米国のパリ協定離脱や欧米企業の気候変動への「適応」の取り組みが進む中、日本企業の取り組みが遅れているためとしている。

同学会は、「適応」は企業リスクを低減・回避するだけでなく、イノベーションによる競争力向上などの事業機会創出につながると指摘し、提言を通して、日本企業の主体的な「適応」への取り組みを求めている。

気候変動への「適応」に関する提言(全文)
-持続可能な社会と経営を目指して-

 人類共通の地球規模の課題である気候変動による影響を克服し、これを企業価値向上につなげることにより社会と企業の持続可能な発展を実現するために、日本企業が「適応」に早急に取り組むことを提言する。

1.「適応」の潮流への情報感度を高める

 英国の EU 離脱や反グローバリズムの台頭による米国の新政権誕生など、第二の「不確実性の時代」とも言える混迷が続いている。しかし、気候変動が人類の持続可能性を脅かす最大の脅威であるとの世界的な認識は変わらず、「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」に示された目標群(SDGs)の中でも、重要課題の一つとされている。
 それゆえ、世界規模で脱炭素経済へ向けた社会経済構造の変革とともに、避けることのできない気候変動の影響に対する「適応」が急務となっている。
 このような中で、世界の産業界では気候変動をリスクのみならず、新たな事業機会の創出など企業競争力拡大のチャンスととらえ、積極的に対応する動きが活発化している。
 日本企業はこのような世界の産業界の動きに後れをとらぬよう、国内情報に限らず世界の幅広い情報に耳を傾けることにより、世界の「適応」に関する潮流への情報感度を高めるべきである。

2.多様な視点で気候変動による自社経営への影響を認識する

 日本国内においては、現状では気候変動による直接的な被害は限定的という見方もある。このため、温室効果ガスの排出抑制(緩和)と気候変動の影響への対応(適応)のいずれに対しても、日本企業の切実感は乏しく、受け身の対応になりがちである。
 しかし、近年、地球温暖化による異常気象とそれに伴う被害は、世界各地で既に顕在化している。日本企業の多くは何らかの形で、気候変動の影響に脆弱な地域を含むグローバルな経済に依存している実態がある。つまり、グローバルなサプライチェーンの視点からは、気候変動による日本企業の経営への影響は既に顕在化していると理解するべきであり、気候変動の進行とともに今後さらに影響が拡大することが予想される。
 日本国内でも気候変動に伴う自然災害の激甚化、自然資本への影響などが予測されており、中長期的には国内外を問わず気候変動による物理的影響の顕在化が進むと予想される。
 さらに、気候変動への対応を投資判断やリスク評価などに反映させる金融セクターの動きも急速に高まっており、物理的な影響の有無に関わらず、企業経営に影響が生じることが予想される。
 他方、これらの気候変動に伴う影響への適切な対応は、企業競争力を高める機会であり、技術革新や新たなサービスを生み出すビジネスチャンスでもある。ただし、これらの影響や機会の形態や程度は個別企業によって異なる。
 したがって、個々の企業は自らの事業活動に関わるバリューチェーン全体に対する短期及び中・長期的な気候変動の影響について認識を高め、リスクと機会の両面から主体的な分析・評価を行うべきである。

3.「適応」を経営戦略・計画の中枢に統合する

 現代の企業には、中長期的に経済的価値と社会的価値を同時に創造しつつ、世界共通の課題である持続可能な社会の実現に貢献することが強く求められている。
 それゆえ、企業経営の意思決定においては、自社の使命とビジョン、外部環境の変化から生じるリスクと機会、様々なステークホルダーや諸資本(財務、製造、人、知的、社会関係、自然)との関係を統合した思考(統合思考)が求められる。
 気候変動は脱炭素経済への移行などマクロな社会経済構造の変化をもたらし、その結果、各企業の事業構造や業績にも大きな影響を与える。このことから、気候変動を企業の意思決定に影響を与える重要な外部環境の変化と認識し、「適応」を経営戦略や経営計画の中枢に統合すべきである。

4.先を見越した主体的・積極的な「適応」に取り組む

 現実の問題として、現状では気候変動による個別の企業活動への影響を高い精度で予測することは困難である。また、多くの日本企業にとって喫緊の課題は大震災への備えとも言われている。それゆえ、気候変動の影響への「適応」の優先度は、短期的な視点からは相対的に小さいのかもしれない。
 しかし、これらを理由に「適応」への取組を先延ばしすべきではない。気候変動は一過性の災害ではなく、サプライチェーンの再構築や事業領域の変更など、企業経営そのものに深く関わる不可逆的な変化をもたらす。変化する社会や市場環境に適切に対応し、この中で企業競争力を高めることは経営者の役目であり、まさに経営者の先見性や主体性が問われる課題である。
 現在、わが国は少子高齢化・人口減少が急激に進み、これらの対応も不可避である。こうした中、地震や気候変動に伴う大規模激甚災害への備えと言う社会的に大きな投資が必要な課題に、国を挙げて十分な議論や検討を経た計画的で有効な投資が出来る時間は長くはないことが危惧される。
 気候変動の影響の顕在化が進み、誰にでも分かるようになってからの対処療法では、時期を逸することになる。それは、「適応」としての有効な資産とはならず、その場凌ぎの単なる費用と化する恐れがある。
日本企業の「適応」の遅れは、個別企業の競争力を損ねるだけでなく、企業が活動する地域、さらには日本社会全体の競争力とともに持続可能性を損ねることにもつながりかねない。
 したがって、気候変動という地球規模の大きな構造的な変化に対して、企業は自社の持続可能性のみならず、社会の持続可能性をも高めるために、先を見越して優先的かつ主体的・積極的に「適応」に取り組むべきである。
                                                  以上