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2025年までに世界の児童労働をなくす ACEのグローバル戦略 ――白木朋子・ACE事務局長

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サステナブル・ブランド ジャパン編集局

1997年、5人の大学生が立ち上げた国際協力NGO「ACE」。ガーナやインド、日本を中心に児童労働の撤廃と予防に取り組んでいる。ACEは2009年、日本企業のカカオ調達の約8割を占めるガーナで、児童労働から子どもを保護し、学校に通えるよう支援する活動「スマイル・ガーナ プロジェクト」を始めた。

それから10年、ACEが活動する児童労働のない地域でつくられたカカオを使った日本企業の商品は20ブランド、70品目に上る。これまでの活動が評価され、ACEは現在、ガーナ政府と共同で世界初の「チャイルド・レイバー・フリー・ゾーン(児童労働のない地域)認定制度」をガーナ全土に広げる国家計画の策定に着手している。そして、この制度を世界に拡大していきたい考えだ。

「一人ひとりが尊重され、持っている力を発揮できる日本、そして世界を実現するために何ができるのか――。児童労働よりも大きな枠で考えていきたい」と語る、白木朋子事務局長に話を聞いた。 (サステナブル・ブランド ジャパン=橘 亜咲)

児童労働はゼロにならないという前提に立つ

――2009年に始めた「スマイル・ガーナ プロジェクト」の現状について聞かせてください。

白木朋子氏 (以下白木):プロジェクトは、ガーナで2番目にカカオの収穫量が多いアシャンティ州アチュマンプニュア郡の奥地にある村から始めました。

村では、児童労働から子どもを保護し、義務教育を受けられるようにするために、村人に対して子どもの権利について教え、
カカオ農家の貧困対策や労働問題対策を行ってきました。

プロジェクトには、ACEの日本人スタッフが1人、 ガーナのパートナーNGOのスタッフが7人の、 8人のチームを組んで取り組んでいます。

一つの村で約3年間、プロジェクトを行います。2018年1月までに、8つの村で「スマイル・ガーナ プロジェクト」が終了しました。現在は、となりの州に活動範囲を広げ、2つの村で同じ仕組みを用いてプロジェクトを行っています。

これまでに527人の子どもたちを児童労働から解放し、学校に通えるようにしました。約70%だった就学率は、今では約98%に到達しています。3つの村では日本のODAなどを使い、中学校も新設しました。カカオ農家の収量も20-30%増加しました。

ただ、プロジェクトが一旦終了したとしても、「チャイルド・レイバー・フリー」だとは宣言しません。プロジェクトが終わった状態が1-2年間維持できたら宣言すると決めています。

――子どもの就学率が98%ということですが、100%に達さないのはなぜでしょうか。

白木:児童労働が100%ないという状態にすることが難しい現実があります。例えば、ガーナでカカオを栽培しているのはある程度の湿度と気温がある南部です。乾燥地帯の北部はカカオがつくれず、より貧しいです。ですから、北部から南部に移住や出稼ぎに来る人が後を絶ちません。

児童労働に直面している家族の多くがそうした移住者です。そうした人たちは、小作人として年貢を納めるという形でカカオの栽培を始めます。しかし、カカオの育て方も教わっていないので成功しません。カカオの栽培は元々手間がかかるものなので、労働力が必要になり、児童労働が発生します。

私たちはプロジェクトを通して、技術を持たない農家に基礎的な技術を教え、収穫量と収入を増やす支援をし、増えた収入を教育に投資するということも行っています。

しかし、人の移動は止められません。100%児童労働がないという日はおそらく来ないと思います。児童労働がゼロになるわけではない――。その前提に立たなければ、おかしなことが起きてしまいます。

そのために、プロジェクトの中で問題を自分たちで見つけ、見つけた時に自分たちで対処する仕組み「子ども保護委員会」を村に導入するということをしています。そして、子どもの権利を守るための村の条例を各村につくって、郡のレベルで承認してもらっています。そうすることで、ACEがいなくても、しかるべき人たちが動いて、子どもたちが教育を受けられ、安全に育つ環境づくりを進めています。

世界初の「チャイルド・レイバー・フリー・ゾーン認定制度」

――ガーナ政府と「チャイルド・レイバー・フリー・ゾーン認定制度」に取り組むきっかけは何だったのでしょうか。

白木:きっかけは、昨年の夏にコートジボアールで開催された「カカオ産業の児童労働撤廃に向けたコーディネーティンググループ(CLCCG)」です。ガーナ政府を含めた各国政府の代表団やグローバル企業の前で、ACEの取り組みを話しました。そこにはガーナの労働大臣もいて、「ガーナでそんなことをしてくれていたんだ。ありがとう」と言ってもらいました。

実は、その会議に出席して知ったのですが、ガーナ政府は2017年に国内の児童労働の撤廃に向けた2017年―2021年までの国家計画を発表していました。その活動の一つに「チャイルド・レイバー・フリー・ゾーン認定制度」をつくって全国に広げていくという計画があったのです。

制度づくりについて話し合うため、ガーナに戻ったら労働大臣と会う約束をしました。実際にガーナで面会し、年内にステークホルダー・ダイアローグを行うことが決まりました。

――ステークホルダー・ダイアローグではどのような話をされましたか。

白木:何よりも、子どもや、一番大変な思いをしているカカオ農家の人たちの声を届けたいと考えていました。

当日は、80人が参加してくれました。プロジェクトを行っているコミュニティから村長や校長先生、農家の人、「子ども保護委員会」の人、中学生など17人と、中央政府の関係者や教育省、社会福祉省、カカオの管轄をしている政府機関「ガーナ・ココ・ボード」の人、アシャンティ州の副知事など参加してくれました。前日は、プロジェクトを実施した村に現地視察にも行ってもらいました。

丸1日かけて行われたステークホルダー・ダイアローグでは、「チャイルド・レイバー・フリー・ゾーン認定制度」の素案の発表や、ガーナでの取り組み事例の発表、グループディスカッションを行いました。

この会議はデロイトに協賛してもらい開催しました。デロイトとは2016年、NPO/NGOを対象に無償でコンサルティングを提供する「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラムにACEが選ばれたことがきっかけで付き合いが始まりました。今回の制度づくりでも知恵を借り、専門家として貢献していただいています。

――初めてのダイアローグをどう評価しますか。

白木:自分たちがイメージしたものができました。当事者の声を届けることにも成功したと思います。労働大臣は予定が入り参加ができなかったのですが、事務次官が一日中会議に参加し、カカオ農家や子ども保護委員会の人たちの話を熱心に聞いてくれ、村の人たちにも印象に残ったようです。

しかし、現在の素案にはさらなる精度が必要です。まだまだ議論しなければならないこと、詰めないといけないことがあります。ACEが積み重ねてきた経験やノウハウを入れ込んで、実際にコミュニティで通用する本当に意味のある制度にしていきたいです。

現実味を帯びてきたガーナの児童労働ゼロ

――「スマイル・ガーナ プロジェクト」を通して、ACEが達成していきたい目標をお聞かせください。

白木:ガーナの国家計画として目標にしているのは、2021年までに最悪の児童労働の形態を10%未満に下げることです。

SDGsの目標8には「2025年までにあらゆる形態の児童労働を終わらせる」と掲げられています。これはACEの長期目標でもあります。そのためには、2025年よりも手前に、カカオ産業で児童労働をゼロにするとか、ガーナ、コートジボアールで児童労働がゼロになるということがないといけません。中期目標として「2022年までに世界の児童労働を半減する」ことを目指しています。

ACEが支援するチャイルド・レイバー・フリーのカカオでつくられたチョコレート

以前は、ガーナ全体の児童労働をゼロにできるという風には考えられませんでした。プロジェクトを行う村を広げることで少しずつ児童労働を撲滅していこうと考えていました。しかし今は、ガーナ政府と一緒に制度をつくることになり、制度によってACE以外の人たちも「チャイルド・レイバー・フリー・ゾーン」をつくっていき、目標達成への取り組みが加速すると期待しています。

それから、デロイトと構想していることがあります。「チャイルド・レイバー・フリー・ゾーン認定制度」をつくることで、ガーナで生産される製品には「チャイルド・レイバー・フリー」という付加価値が付きます。ガーナで制度ができたら、他の国にも制度自体を輸出していきたいと考えています。

そういう国が増えてきたら、国際ルール化し、「チャイルド・レイバー・フリー・ゾーン」で生産された製品は無税になるという国際ルールをつくりたいと考えています。児童労働がない地域でつくられたものの方が経済合理性があるということになれば、児童労働をなくす取り組みが加速していきます。そうすることで世界を変えるインパクトをもたらしたいです。

チョコレートから始まったものですが、チョコレートの枠を超えたグローバル戦略になってきたと実感しています。これからは、日本の政府や日本のチョコレート業界を巻き込み、ガーナの児童労働がゼロになる取り組みを支援してもらいたいと思っています。ガーナの児童労働がゼロになれば、日本が輸入するカカオの8割はガーナ産ですから、サプライチェーンをどうするかといった議論をしなくても良くなります。

日本の子どもや若者が、自らの意思で人生と社会を築けるように

――ACEはこれからどんなことに取り組もうと考えていますか。

白木:SDGsの「2025年までに児童労働をなくす」という目標には日本も含まれています。日本でも、15-17歳の子どもたちが危険有害労働を行っている事例があります。例えばブラックバイトや性産業に巻き込まれる子ども、工事現場や原発で働く中卒の子どもたちがいます。日本の団体として、日本のなかでどう児童労働をなくしていくのか――。

今、日本でも子どもの貧困率が高い地域などを調査して、 今後なんらかの活動ができないか検討中です。ガーナやインドでやっているように、現地の人とつながって、子どもを直接守るプロジェクトです。

ACEは20周年の2017年、新しいパーパス(究極的な存在意義)を制定しました。

ここに児童労働という言葉は出てきません。

一人ひとりが尊重されて、その人が持っている力が発揮できるような日本であり、世界であるということが究極的に目指したいと思っていることです。

昨年、『チェンジの扉』という本を発売しました。この本には、パーパスで示している世界観が凝縮されています。

この本を使って全国ツアーに出て、国内の、特に子どもや若者をもっとエンパワーしたいです。自分の意思で人生と社会を築くということがどういうことかを一緒に考えてみたいです。そういう思いを持って動き始める人たちが増えたら、日本もまた変わっていくのではないかと思います。

学生だった私たちが20年前、何気ない一歩を踏み出したことが今こんな風につながっていることを考えると、子どもや若い人たちが持っている力は計り知れないものがあると思います。

大人になると、できない理由を並び立て、できないことが増えてきます。若い人たちの発想で自分たちが願う新しい世界をつくっていくということが世界中で起きたらいいと思います。自分たちの足元の日本がそういう風になってほしいと思います。

――今でこそNPO/NGOに就職する若者が増えてきていますが、白木さんがACEを法人化し、生業にした2005年はまだそうではなかったと思います。大変なこともあったと思いますが、これまで続けてこられた原動力は何でしょうか。

自分たちは小さな存在だけれども、多少なりとも起こせる変化がある――。その実感を得ることができたからだと思います。

例えば、現地の子どもが学校に行けるようになり、子どもが変わったことによって、家族が変わり、その変化がコミュニティまで広がっていくところを見てきました。日本でも、私たちが最初に出した本を読み、進路を変えて、夢に向かって頑張っているという人がいます。自分が願う方向に向かって動き出す人たちが増えていると実感するとき、そのことが逆に自分を励ましてくれるエネルギーになっています。

「現地と日本とでは表情が違いますよね」と言われることがあります。実際にそうで、向こうにいる方が元気になるんですよね。

NGOというと、ガーナやインドに困っている人を助けに行っているという風によく思われるのですが、そうは思いません。きっかけを与えることはしていますが、私の方が教えられています。どういう世界のあり方がいいのか。人間にとって一番しっくりくるのか。その美しさとか。そういうことに魅せられて、エネルギーをもらっています。

2010年、最初にプロジェクトを行った村で撮影。白木さんにとって思い出深い一枚

ACEとデロイトが協働するグローバル戦略の詳細は、サステナブル・ブランド国際会議2019東京の初日、3月6日12:25 - 13:10に行われるランチセッション「企業とNGOの連携最前線!児童労働撤廃から世界を変える挑戦」で聞くことができます。白木さんは同日15:15 - 16:30のセッション「地域を持続可能にする。企業が国際支援で取り組むこと」にも登壇します。

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