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「脱炭素」の世界的仕掛け人が語る「RE100」と日本

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RE100に加盟する世界の企業

2001年に英国で生まれたCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は、企業に対して気候変動に関する情報開示を求めることで変革を促してきた。2017年の今年は800以上の投資家が署名し、5600社に質問書を送ったという。企業が自然エネルギーへの転換を宣言する「RE100」もこの一環だ。CDPのポール・シンプソンCEOがこのほど来日したのを機に、シンプソンCEOと高瀬香絵シニアマネージャーに話を聞いた。(みんな電力=平井有太)

5600社に質問状を送付

パリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2℃」未満に抑え、最終的には「1.5℃」未満を目指し、21世紀後半までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを目標に掲げている。

CDPは2001年、英国で投資家が企業に対し、炭素排出量の情報開示を求めたことから始まった。

「最初は40程度の投資家要請で、500社に質問書を送りましたが、2017年は800以上の投資家が署名し、5600社に質問書を送っています。回答は、地域差がありますが、サンプル拡大もあり、約半数が回答しています」(高瀬シニアマネージャー)

「将来的に使用電力を100%自然エネルギーで賄う」ことを宣言する「RE100」も、CDPのプロジェクトの一環だ。2014年に「ザ・クライメート・グループ」というロンドンにあるNGOと立ち上げた。

高瀬シニアマネージャーは「最初は設立パートナーとしてIKEAとスイス再保険に出資いただいて始まりました」と経緯を説明する。現在は、米アップル社やネスレ、スターバックス、H&Mなど世界で約120社が「RE100」に加盟し、日本ではリコー、積水ハウス、アスクルの3社が参加を表明した。

「RE100への参加は、企業自らが手を上げるケースと、こちらから働きかけることもあります。エネルギーに対する意識が高い企業もあれば、『少しでもイメージが良くなるから』など、参加する理由はさまざまです」(高瀬シニアマネージャー)

エネルギーの原料に厳しい基準

CDPの高瀬香絵シニアマネージャー

高瀬シニアマネージャーによると、アップル社、LEGO社といった意識の高い企業は、自社で厳しい自然エネルギーについての基準を持ち、バイオマス発電であれば、不法伐採した木材が原料になっていないかどうかまで確認する仕組みが整っているようだ。さらに、自然エネルギー産業を活性化するためになるべく新しい発電所から電力を買い取ることを基準とする企業もある。

「 自然エネルギーの価格は国や地域によって大きく幅があります。この5年ほどで、工場やオフィスの場所によって、自然エネルギーを安く調達できるかという状況に差が出てきています」と説明する。

日本で自然エネルギーの導入が進まない根底にあるものとして 、高瀬シニアマネージャーは「日本の電力会社は、『中央で大きな発電所をつくって分配する』系統でやってきたので、どうしても『上が下をコントロールする』モデルが大きい。一般の普通の人を、『正しい判断ができない』ととらえているところがある気がします」と指摘する。

自然エネルギーの世界では、中国も存在感を高めている。

「中国は太陽光発電所が急増し、2017年から排出量取引を中国全土で始めています。トランプ米大統領が『パリ協定』の離脱を表明した時も、中国とEUは共同声明を出した一方で、日本としては何も表明しませんでした。もっと『中国の刺激』をきちんと受け止めて、外交を含めて国としてしっかり立ち回れないといけません」と警鐘を鳴らす。

シンプソンCEOは「中国政府はエネルギーの変遷と大変真剣に向き合っています。最新の公式報告では、この先5年の計画で、世界の自然エネ増加の大部分を中国が担うと予想されています。今、中国は世界最大規模のソーラーパネル生産者です」と話す。

さらに、「風力発電についても世界一。潤沢な石炭も持っていますが、石炭が自分たちの土地や国民を苦しめることを経験し、それとは異なる道を進むことにとても前向きです」と続けた。

日本は世界に逆行した動き

CDPのポール・シンプソンCEO

では日本をどう見ているのか。

「日本は現時点において自然エネルギーを牽引する立場にありません。それどころか、石炭火力に力を入れています。日本のテクノロジーは世界でも先進的なことで知られているのに、人々は『太陽光は日本では価格が高い』と、言い訳しています」

「世界でソーラーパネルの価格は飛躍的に安くなっており、国としてやる気であれば、助成金などでいくらでも加速させることができます。日本企業の多くはまだ、警戒しているように見受けました。自然エネルギーへの投資がまだまだ足りていません」(シンプソンCEO)

日本では「情報開示」が進んでいるようには見えない。

「持続可能な経済にとって、情報開示は大前提。確かなデータ、数値、それらの透明性がなければ、パリ協定を達成できているのか、持続可能な発展ができているのか、知る術がありません。私たちの過去10年の活動から、企業の情報開示は大きく進みました。CDPは時価総額順に約500の日本企業を選定し、働きかけたところ、283企業から返答を得ました。これは57%、半数を上回る反響で、悪い数字ではありません」

「現時点は『未来のスタンダードを構築する道半ばにいる』と言えます。しかし、改善点もあります。まだ217の企業から回答を得ていないことです。日本政府とも話していますが、まだ開示の準備ができていなかったり、情報開示要求をマネージするノウハウがなかったりするようです。ここで、投資家の力が必要です。情報開示ができていない企業に対して働きかけ、それが当たり前となるようプレッシャーをかけ、促してほしいのです」(シンプソンCEO)

日々の買い物は「投票」

私たちが日々の生活でできることについての提案もあった。

「私たちが何かを買う時、それは『投票』なのです。例えばビールを買う時、私たちは世界に向かって『新たにビールを生産して欲しい』と伝えているわけです。もちろん、政治的な投票は重要ですが、生活における購買活動の影響力はとても大きいのです」

「私は16年間、100%自然エネルギーを供給する会社の電力を使っています。ですから私は自然エネルギーを応援していますし、投票を続けていますし、投資をしているわけです。世界経済において日本は大国です。世界で3番目に大きな経済圏であり、日本人は平均的に裕福であると言えるでしょう。ここで、子どもたちに受け継いでもらいたい社会の未来に何を望み、どのような投票をすべきなのか。今、地球環境に必要とされているのは、自然エネルギーを購入し、投資をすることなのです」(シンプソンCEO)

2016年4月、電気の小売業への参入が全面自由化され、家庭や商店も含む全ての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選択できるようになった。だが、実際に電力を替えた割合は個人、法人を合わせてまだ約1割にとどまる。自分たちのお金を払う先、コンセントを差した向こう側にあるもの。想像力を今より少し働かせ、すでにそこにある自由を認識し、現実に行動に移すことで、未来は変わる。

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