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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

「偶発性」が合理的なミレニアル世代を動かす

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Interviewee:吉水 由美子 伊藤忠ファッションシステム・マーケティングクリエイティブディレクター
Interviewer:池田 真隆 オルタナS編集長

消費者の「感性」を軸に考えるエモーショナルマーケティングを得意とする吉水氏 (写真:小松 遥香)

モルガン・スタンレーの「持続可能な投資研究所」は、ミレニアル世代(1980年代以降生まれ)はサステナブルな投資を発展させていき、その規模は9兆ドル(約980兆円)に及ぶと発表した。企業の持続可能な成長のためにも、同世代のインサイトを理解することは不可欠だ。若者の消費者意識を調査している伊藤忠ファッションシステムの吉水由美子・マーケティングクリエイティブディレクターは、「経済合理性を求める一方、偶然の出会いも求めている」と話す。

―企業がミレニアル世代を理解するためにはまず何から始めれば良いでしょうか。

吉水:ミレニアル世代の考えやライフスタイルを同じ立場に立って観察すること、そして、それをプレバブル的(1970年以前生まれ)な文脈で処理しないことが、理解のための第一歩です。

例えば、自分らしさを「差別化」や「人よりもワンランクアップ」と捉えるのは、プレバブル的です。ポストバブル世代(1971年生まれ以降)が持っている「自分らしさ」は全く異なるので、それを理解できないと対応戦略が取れなくなります。

―ミレニアル世代への有効なマーケティング方法は何がありますか。

吉水:3つあります。1つは、「マッチング」。シェアリングは、例えばAirbnbにしてもUberにしても、ビジネスモデルとしてはマッチングです。

これからますますネット社会が浸透していきますが、ネットはマッチングが得意です。マッチングを生かしたビジネスモデルが浸透していくでしょう。提供可能なモノ・コトとニーズやウォンツを持たれるモノ・コトを自動的にマッチングさせるモデルが有効だと思います。

2つ目は「自分参画感」です。商品をつくるプロセスに参画できるものが有効です。カスタマイズできるシューズや、自分の好きな味を混ぜることができるクラフトビールなどの自分参画感が若者の興味を引きます。

3つ目は「偶発性」です。例えば、アウトドアに興味はなかったが、友人に誘われてキャンプに行ったら意外と楽しかった、という感覚です。ネットで何でも調べられる時代なので、旅行に行っても予定調和になりがちな中、予期せぬ感動や楽しさが求められています。

その際、トライアルの敷居を下げて、「出入り自由な状態」をつくってあげることもポイントです。キャンプ道具を揃えるのは大変ですが、手ぶらでもキャンプに行けるようなサービスがそうです。

裕福になっても「シェア」が軸

―ミレニアル世代の消費傾向をどう見ていますか。

吉水:「所有からシェア」、「モノ消費からコト消費」と言われて久しいですが、本当の意味でこの流れを体現しているのがミレニアル世代だと思います。モノを購入するときは、合理性や分相応かを考えるので、良いと分かっていても、まだ自分にそぐわないと感じたら、買わないことがあります。

しかし、コト消費に関しては積極的です。身近な友人とのつながりを確認すべく、ミレニアル世代でも特に若い層に顕著なのが、「思い出作り」です。

例えば、仲間たちと自転車でツーリングに行き、思い出を作っています。SNSネイティブなので、フォトジェニックな(写真映えする)ものを無意識に探しシェアすることで、思い出の確認をしています。

特にシェアリングエコノミーに関しては、社会の中での循環をどこまで意識しているかは別として、若者が経済合理性を見出していることは確かです。例えば、服をレンタルするサービスでは、コーディネートされたセットが送られてきて、着た後にクリーニングをせずに返却します。

服を買ったわけではなく、その期間に着るという使用価値を買ったことになります。ミレニアル世代は、そこに経済合理性を見出しているのです。

おそらく、シェアに関しては、裕福になっても続けていくと思います。その理由は、モノや情報が溢れ過ぎているので、これ以上欲しいと思う欲望や飢餓感が沸かないからです。モノを持たないミニマリストの暮らしの方が快適だという流れになっています。

―ミレニアル世代の価値観の特徴は。

吉水氏は、若者向けのマーケティングを強化しないと企業は生き残っていけなくなると強調する (写真:小松 遥香)

吉水:プレバブル世代は、高度経済成長期やバブルエコノミーを謳歌したという意味で、経済状況に関しては右肩上がりの刷り込みがありました。そのため、概ね「ポジティブ」な価値観を持っています。

一方、ポストバブル世代は、団塊ジュニアがその典型ですが、順調に消費社会で育ってきたものの、就職のタイミングでバブルが崩壊して急にはしごを外されたこともあり、堅実志向になりました。

その後、不況によって先行き不透明な時代になり、消費は停滞しました。そのため、ローンを組んだりカードの返済に苦しんだりすることを極力避ける傾向にあります。

ポストバブル第2世代であるミレニアル世代は、情報が世の中に溢れている中、幼い頃からインターネットに触れてきたので、ネットで価格を比較し、口コミを探し、他者の評価を参照する機会が多いです。そのため、自分の欲望のままに進むより、他者からの評価を気にするようになっています。

争いは回避、快適な「居場所」求める

―ミレニアル世代の社会性は高いと思いますか。

吉水:欧米は高いと思いますが、日本では、自分にとっての良し悪しや自分にとっての経済合理性が基準になっている傾向が強いように思います。オーガニックや地産地消は好みますが、それだけが消費を選択する要素ではないでしょう。

海外のミレニアル世代は多様化社会が前提で、社会は自分たちが変えるものと考えています。一方、日本のミレニアル世代は同質化社会なので、生きにくさを回避するために努力すると考えています。だから、会社で朝から晩まで働くのではなく、家族や自分の時間を大切にし、ワークライフバランスを重視する人が多いのです。

―確かに、日本では企業の商品のバイコット(不買運動)やデモが起きる機会は少ないです。

吉水:欧米ですと、良いことをしている企業を積極的に支持していますが、日本は悪いことをしている企業を選ばないようにしているという印象が強いです。

良いことをしている企業であれば、ポジティブに評価しますが、欧米ほどアグレッシブではありません。日本のミレニアル世代は、マイナスの空気をつくらないようにしています。

何か悪いことが起こった場合、積極的に争うというよりは、争いを回避して、静かに悪い方を選ばない。日本人は、企業市民としての振る舞いを見ている感覚があると思います。

企業と対峙するのではなく、自分の隣にいる人としてどうかという感覚で企業を見ています。社員を競争させ働かせる会社は支持されなくなり、共創型の企業が支持されていくでしょう。

団塊ジュニアが自分探しをしていたとすると、ミレニアル世代は「自分の居場所」探しをしています。ミレニアル世代は、リアリストなので、自分探しをしても、そんなに素敵な自分がいるわけはないと分かっています。社会の状況も自分の状況も冷静に受け入れた上で、どこにいるのが快適なのかを見つけます。

そのため仕事選びに関しても、やりがいも大事にしますが、それよりも毎日通う場所として快適かどうか、例えば、通勤が便利、福利厚生が充実している、職場の人間関係が良いなども気にします。


吉水 由美子(伊藤忠ファッションシステム・マーケティングクリエイティブディレクター)
立教大学卒業後、(株)アサツーディ・ケイなど広告代理店のマーケティングセクションで、消費者調査、マーケティング戦略・ブランド戦略の開発などを担当。伊藤忠ファッションシステム(株)入社後は、マーケティングディレクターとして、「ファッション=時代の価値観・人々の気分」という視点から、主に「ハナコジュニア」「ニュービッグファミリー」「この先シニア」など、異業種マルチクライアントの共同調査&研究プロジェクトに関わる。消費者のライフスタイル・価値観を探索する調査、トレンド研究、それらから発想したワークショップで商品開発やブランドの価値規定を行っている。農林水産省やJAFCA(一般社団法人 日本流行色協会)などの委員も歴任。著書:『「漂い系」の若者たち~インスピレーション消費をつかまえろ!』(ダイヤモンド社)『シニアビジネスの新しい主役Hanako世代を狙え!』(ダイヤモンド社)

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池田 真隆 (いけだ・まさたか)

株式会社オルタナ オルタナ編集部 オルタナS副編集長