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気候変動リスクで「不適切な開示」、世界初の株主訴訟

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訴えられたCBAの支店の一つ “Commonwealth Bank branch office” by Maksym Kozlenko used under CC BY-SA 4.0

オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)が2016年の年次報告書で、気候変動による事業リスクの適切な開示を怠ったとして、同社の株主が8月8日、提訴した。気候変動がもたらすリスクの情報開示については6月末、FSB(金融安定理事会)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が重要性を指摘していた。この種の訴訟は世界でも初めてで、他のグローバル企業にも影響を与えるだろう。(クローディアー真理)

株主2人がCBAを提訴した理由は、同社の2016年年次報告書において、気候変動に関し、環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からのみの記述に留まり、ビジネスにもたらすリスクが記されていないということだ。特に同報告書で開示されるべきだったと具体的に挙げられているのは、オーストラリア東部に位置するカーマイケル石炭鉱山開発について。資金提供の事実があるかどうかの明確化、そしてそれにはどのようなリスクが伴うのかという情報をCBAは説明すべきだったとしている。

原告側は、年次報告書には、株主が企業の財政状態、事業戦略、将来の見通しについて評価を行うのに、十分かつ公平な情報を公開しなくてはならないと定めているオーストラリアの会社法に違反すると主張。CBAが不備を認めることと、今後発行される年次報告書における同様の報告漏れを禁止する裁判所命令を求めている。

訴えに対し、CBAは「法で定められた報告義務には真摯に取り組んでおり、それを準拠していないという主張は受け入れられない」という声明を発表した。「気候変動に、社会、株主双方が高い関心を持っていることは理解しており、パリ協定の目標実現に向けて努力を重ねている」と付け加えている。

今後の情報開示の指標となる裁判に

8月8日メルボルンにある、オーストラリア連邦裁判所の前で、ABC TVのエマ・ヤンガー記者(左)にインタビューを受けるバーンデン弁護士(中央)と原告のガイ・アブラハムスさん(右)Photo: Cam Suttie

原告の代理として訴状を用意したのは、自然環境の保護を目的に活動する法律チーム、エンバイロメンタル・ジャスティス・オーストラリア所属のデビッド・バーンデン弁護士だ。バーンデン弁護士は、「この訴訟は、年次報告書で気候変動がもたらすリスクを企業がどこまで公表すべきかを示す最初の事例となる。今後、他社がならうべき指標が決まる重要な裁判だ」と述べている。

6月末にTCFDは「これまで企業が行ってきた気候変動に関する情報開示は、株主などが意思決定を行うにあたって参考にするには十分とは言えなかった」とし、具体的な枠組みを提示した。移行リスク、物理的リスクに分け、今後どのような点で情報公開をすべきなのかということのほか、どのような機会が生ずるかも解説されている。

2月、オーストラリア健全性規制庁(APRA)は、気候変動が金融システムの安定を脅かす可能性を否定できない現在、リスクを真剣に考慮しなかった場合は、責任を問われることになるだろうと警告している。

各国の金融監督機関が銀行や保険会社に対し、オーストラリアと同様の情報開示を求めていくことになるだろう。

総額27 兆米ドル(約3000兆円)の資産を有する、世界のトップ500のアセットオーナーの約60%は気候変動が財務リスクをもたらすと認識しており、金融業界では新たな取り組みが始まっている。

仏メガバンクのBNPパリバは、パーム油生産業者に対する融資の前提条件として、責任ある生産方法を課す新しい方針を打ち出した。また総合家電メーカーのフィリップスは、自社のサステナビリティ活動の進捗状況に応じて金利が変動する10億ユーロ(約1300億円)のリボルビングローンを、INGグループ(オランダ・アムステルダム)の協力のもと設定。同グループを含む、世界の16行が同様の融資を提供し始めた。ゴールドマン・サックスは2025年までに1500億米ドル(約17兆円)を自然エネルギーへの融資・投資にあてることを約束している。

クローディアー真理

ニュージーランド在住ジャーナリスト。環境、ソーシャル・ビジネス/イノベーションや起業を含めたビジネス、教育、テクノロジー、ボランティア、先住民マオリ、LGBTなどが得意かつ主な執筆分野。日本では約8年間にわたり、編集者として多くの海外取材をこなす。1998年にニュージーランドに移住。以後、地元日本語誌2誌の編集・制作などの職務を経て、現在に至る。Global Press所属。

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