SB国際会議2017デトロイト報告(1)
「グッドライフ」で地球規模の課題解決
基調講演をするコーアン・スカジニア氏
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今回の会議のポイント
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① 「グッドライフ」とは地球規模の課題解決への取り組み
② その背景には、グローバル企業に対する社会からの要請
③ 企業は「グッドライフは大きなビジネスチャンス」と認識
④ B2C企業だけではなく、B2B企業からも高い関心
地球規模の課題解決へ
「グッドライフ」は直訳すると「良い生活」「良い暮らし」であるが、その意味が近年、特に先進国で大きく変わったことが今回、SBが年間テーマとして「グッドライフの再定義」を掲げた背景にあるだろう。
20世紀の社会では、大きな家や車を買い、食事や旅行にお金をかけることが「グッドライフ」だった。しかし、SB主催者であるサステナブル・ライフ・メディア社のコ―アン・スカジニアCEOはSBデトロイトにおける冒頭の講演でこう宣言した。
「私たちは(単なる良い暮らしを目指す)「アメリカンドリーム」を越えなければならない。そして生活の復興が必要な人たちに対して、それに見合う手段を取らなければならない」
トランプ米大統領の当選や、英国のEU離脱の背景になった「中間層」の分断や所得格差の拡大が米国や欧州、日本など多くの先進国で進む。一方で、途上国では貧困や飢餓、教育、治安などの社会的課題が解決されないままになっている。
このような時代背景の中で、企業やブランドは、単に売上高や利益を追い求めるだけでは国際社会からの要請に応えられず、ひいては企業の社会的評価や将来の成長においてマイナス要因になりかねない時代になった。ここに「グッドライフの再定義」の意味がある。
SBの創設時からコンセプト作りに関わってきた、米コンサルティング会社のシチズングループ(本社・サンフランシスコ)のロビン・ラジ創業者は、筆者の取材に対して「グッドライフとは、途上国の貧困や気候変動など地球規模での社会的課題に目を向け、企業や市民が真摯に取り組むこと」と説明した。
『ビッグ・ピボット─なぜ巨大グローバル企業が〈大転換〉するのか』の著者、アンドリュー・S・ウィンストン氏はセッションの進行役を務めた。
その中で、ダウ・ケミカルや3M、GEやウォルト・ディズニーなどの企業が連名でトランプ大統領に書簡を送り、温室効果ガスを大幅削減する「パリ協定」への取り組みを求めた事例を取り上げた。
その上で「今後の企業はサステナブル(持続可能な)だけではなく、レスポンシブル(責任ある)な存在でなければならない」と指摘した。単なる法令遵守ではなく、社会の期待に応えるという意味だ。
その言葉通り、今回のSBデトロイトでプレゼンテーションをしたほとんどの企業やブランドは、一様に社会的課題への取り組みを主題に掲げた。
ケロッグのポール・ノーマン北米担当社長は同社のパーパス(存在意義)を「家庭に栄養を供給し、家族が繁栄し、活躍できるようにすること」と紹介した上で、貧困家庭の子どもの食事問題に焦点を当てた「2020成長プラン」を明らかにした。
ロレアルのノール・タヤラ副社長(マーケティング担当)は「C2C」の取り組みを取り上げた。C2Cとは「クレイドル・トゥ・クレイドル(揺りかごから揺りかごまで)」の略称で、ゼロ・エミッションを目的にした認証制度である。同社のシャンプー容器の80%は再生素材由来だという。
スターバックスコーヒーのジョン・ケリー上級副社長(ソーシャルインパクト担当)はコーヒー農園が多く存在する熱帯雨林の保全活動や、難民を今後5年間で1万人雇用する計画を掲げた。
P& G のバージニー・ヘリアス副社長(サステナビリティ担当)は「以前は消費をどう喚起するかに大きな関心があったが、今は違う。『良い消費』を喚起する。社会的課題解決の取り組み抜きではブランドの成功は考えられない」と力を込めた。