サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

ソフトバンク、障がい者の「超短時間雇用」に手応え

  • Twitter
  • Facebook
研究者から、高齢者雇用や、産業医から見た働き方改革などの発表があった

川崎市とソフトバンク、東京大学先端科学技術研究センターは、障がい者雇用や労働時間をテーマに共同研究し実践している。4月21日、それぞれの研究・実践成果を都内で報告、企業や自治体の担当者らが参加し熱心に聞き入った。ソフトバンクは、長時間勤務が困難な障がい者が、週20時間未満で就業できる「ショートタイムワーク制度」を2016年5月23日から導入している。現在19人が就業しており、年度内に30人の雇用を目指すという。(オルタナ編集部=松島 香織)

超短時間雇用に関するシンポジウム『新しい働き方をデザインする』は、一年間研究・実践した成果を企業・自治体の担当者らに共有し、労働に関する新しい考え方を提示した。

全国的に少子高齢化が進んでいる中、川崎市は人口が増えており、高齢化率も低い。だが、平成42年には確実に人口が減る見込みで、2015年に「成長と成熟の調和による持続可能な最幸のまち かわさき」を掲げ、拠点整備や地域ケアシステムの構築、子育て支援などの10年戦略を設定した。

開会の挨拶に立った川崎市の成田哲夫健康福祉局長は、「支える側と支えられる人が『共に生きる』公助の取り組みを進め、障がい者も社会の役割を担い、生きがいを持って仕事ができるようにしたい」と話した。

「30時間労働」の壁

左から、東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫准教授、ソフトバンクの木村幸絵CSR企画1課長

東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野の近藤武夫准教授は、雇用がもたらすものを3つ挙げた。「収入」と、福祉やセーフティネットなどを含んだ「社会保険」、そして社会に所属しているという「社会的アイデンティティ」だ。

だが、それらを得るには長時間働く必要があり、長時間働けない障がい者は雇用対象とならない。また、長期雇用が前提で「なんでも出来る人」が採用の暗黙の了解となっており、職務定義が無く、職務と給与が対応しない現実がある。

「障がい者の間でも雇用機会の格差が起きています。障害者雇用促進法では、週30時間以上働いてもらわないと、障害者を1名雇用したとカウントすることができません。」と近藤准教授は訴えた。

「IDEA(Inclusive and Diverse Employment with Accommodation)」は、超短時間雇用をキーワードに展開する東大先端研の研究プロジェクトで、現在までにソフトバンクや川崎市、神戸市が参画している。

まず、部署内の業務を分析し、急ぎの作業なのか、その人でないとできないことか、業務内容を切り出す。切り分けた業務を、障がい者の仕事として多くの人に割り当て、短時間労働でも続けられるようにするのが、IDEAのモデルだ。業務内容の切り出しについて、近藤准教授は「自分の本質の仕事を見極めることが大事」と、業務の効率化が期待できることを示唆した。

CSRとして取り組むソフトバンクの「障がい者雇用」

発表の内容は、リアルタイムで文字化されスクリーンに映された

ソフトバンクのIDEAの取り組みは、CSR部署で行っている。企業のCSRとして障がい者雇用を推進しているためだ。登壇した、ソフトバンク人事総務統括CSR統括部CSR企画部の木村幸絵CSR企画1課長は「今の仕事が楽しい。この取り組みを社会的に価値のあるものしたい」と笑顔を見せた。

障がい者の採用は、支援機関・団体を通じて行っている。採用基準のひとつに「PCを使ったことがある」ことを挙げているが、タイムシートや交通費がシステム化されているためだ。また、事業内容に関連し、「機密情報保持」できるかどうかも基準のひとつとしている。

業務はひとつずつ依頼するように配慮し、質的・量的な業務成果の向上が見られる場合には、昇給を検討しているという。「組織としても、働き方改革に関わってくる」と木村課長は、企業における効果を3つ挙げた。「生産性の向上」「業務の構造化」「コミュニケーションスキルの向上」だ。自発的にマニュアルやスキル管理表を作成した部署もあるという。

対応が不安な場合は、「受け入れ企業が何から何までしなくてもよい、と分かりました」と木村課長は続けた。専門機関とつながり、分からないことは相談し、理解しながら進めることが重要だとした。

採用時に面接者が緊張し、電話で大声を出してしまったことがあったという。ロビーなどで同じように大声を出してしまっては、他の人の迷惑になる可能性があり、その人の採用は見送った。だが、「そういう人こそが、働けるようにするにはどうしたらよいか、考えなくてはいけないと思っています」と木村課長は力を込めた。

ディスカッションには、厚生労働省障害福祉課の照井直樹課長補佐が参加し、「制度でも救い上げきれない想定外の人が出てきている。制度も見直すタイミングだと痛感しています」と、来年4月に改訂される「障害者雇用促進法」について言及した。

  • Twitter
  • Facebook
松島 香織 (まつしま・かおり)

企業のCSRや広報・IR部署を経て、SDGs、働き方改革(ダイバーシティ)、地方創生などをテーマに取材中。