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リサイクルは企業の「存在意義」―米国テラサイクル

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米国でリサイクルが困難とされる廃棄物を2001年から回収し、あらゆる方法で再利用を行っているTerraCycle(テラサイクル)は、P&Gなどの大企業をパートナーにリサイクルを進めている。今後は日本を拠点にオーストラリア、ニュージーランド、韓国、中国とアジアとオセアニア地域へ事業を拡大するという。来日した創業者のトム・ザッキーCEOと、テラサイクルジャパン合同会社のエリック・カワバタ アジア・リージョナル・マネージャーに話を聞いた。(寺町 幸枝)

―テラサイクルのビジネスモデルについて教えてください。

ザッキー:当社は、リサイクル処理方法を開発していますが、実際の処理は外注しています。もしゴミ処理場を作ってしまったら、その運営に事業が集中してしまう。投資費用もかさみますし、そのためにイノベーションを起こすことができなくなるでしょう。当社は多くの企業パートナーを得て、プロジェクトを進行しています。気持ちはNGOですが、民間企業として利益を上げています。

近々アムステルダムで、使用済みオムツの回収を始めます。オランダのゴミ処理会社が、このプロジェクトのために、10ミリオンユーロ(約12億円)かけて設備を整えてくれました。日本はゴミの70%を燃やしてしまいます。効率的なゴミ処理方法ではありますが、それと同時に、その製品の材料にかけてきた費用を全て無駄にしてしまうことになります。むしろその材料を何度もリサイクルすることを考えるべきなのです。

グレーのボトルが、P&Gという企業の「存在意義」を伝える

トム・ザッキーCEO左)と右腕として日本を率いるエリック・カワバタ アジア・リージョナル・マネージャー(右)

―今年1月の世界経済フォーラムで、P&G、SUEZ(スエズ)とともに、ビーチの漂流ゴミ(プラスチック)から、ヘアケア製品「h&s」のリサイクルボトルを製造販売するプロジェクトを発表されました。その背景や進行状況について教えてください。

ザッキー:P&Gがこのリサイクルボトルのコンセプトを立ち上げた際に、パートナーとして選ばれ、まず、4つの水辺に浮遊するプラスチックの回収手段をシステム化しました。海岸と川は地域やNPOを中心としたボランティア、池や海からは漁師が収集しています。当社は、こうした地元組織とネットワークを結び、ゴミ袋やゴム手袋などを提供し、収集した場所から倉庫までの送料を全て負担するというシステムを作り上げました。この「送料を負担する」ことが、一番協力先から喜ばれます。

フランスで始めたこのプロジェクトは、3月現在、回収量20トンで海洋浮遊ゴミ25%の回収率、リサイクルで生まれたh&sのボトルの数は17万5,000本になり、歴史に残る数字になりました。このプラットフォームは、ヨーロッパ全土や米国、アジア、南米に広げます。6月にはP&Gで、h&s以外の別の製品のリサイクルについても開始する予定です。2017年中には世界規模に拡大し、プロジェクトはこれまでの20-30倍になる見込みです。

―h&sのプロジェクトは、どのようなプロセスを経ていますか。

ザッキー:まず、協力団体が集めた海洋浮遊ゴミを、当社の各地域の倉庫に集めます。そこで全てのゴミを手作業で、プラスチックとそうでない物に分別します。その後スエズが粉砕し、プラスチックのポリマーごとに分別し、バイオ洗浄した後、原料ごとに分別します。そしてP&Gに引き渡します。

「h&s」は、これまで白いボトルが象徴的な商品でした。ですが、リサイクルボトルはグレーです。再生プラスチックという特性上、グレーや濃い色にすることしかできないからです。しかし、この製品は「サステナビリティ」であるとともに、P&Gという企業の「存在意義」を伝える最高の製品となりました。テレビCMを流す以上に、グレーのボトルがブランディングに役立ったのです。

店頭ではボトルが大々的に並べられ、売り切れが続出しています。もともと製品として信頼があり、人気のあるh&sですが、このグレーのボトルは、製品を購入するという行為を社会貢献に結びつけ「ムーブメント」にしたのです。

消費者は、ゴミ対策でアクションを起こすなら、地元のNPOを探して支援したり、ボランティアをしなくてはなりませんでした。しかしこれからは、グレーのh&sボトルを購入するだけで、貢献することができるのです。

「マルチステークホルダー・パートナーシップ」が、こうしたムーブメントを成功させるために必要不可欠でした。一人が声高に進めるのではなく、多くの組織が認めたソリューションとして提供することも、非常に重要なことです。この成功が、多くの企業にとって「存在意義を製品に込めるだけで成果が得られる」という教訓になってほしいと思います。

JT、ライオン、花王とコラボレーション

テラサイクル米国本社のオフィスでは、あらゆる場所でリサイクル品が活用されている

―現在日本国内では、ロレアルグループのリライクルプラットフォームを運営されています。他にどのような活動をされていますか。

カワバタ:JT傘下のトゥルースピリットタバコカンパニーと協働で、タバコの吸殻回収を行っています。すでに現在約1000カ所から約1億本の吸殻を収集しました。政府関係のビルからも回収されています。このプロジェクトは日本初の試みで、プログラムは一般公開していますので、どなたでも参加できます。

―特別な灰皿などが必要なのですか。

ザッキー:水分を除いた吸殻を袋に入れて、当社のサイトから無料で配送できるラベルをプリントアウトし、それを貼って倉庫に送っていただくだけです。また、ライオンと協働で、学校や歯科医院などから、使用済み歯ブラシの回収を行っています。

ほかにも、近々8つほどのプロジェクトをローンチする予定です。ペットフードのパッケージ、家庭用クリーナーやヘアケア製品の容器、おもちゃやビニール傘などです。花王とは、使用済み食品パッケージのリサイクルを協働で行う予定です。JTやライオン、花王といった日本の大企業とコラボレーションできることは非常に光栄です。

カワバタ:日本企業は、導入に時間がかかっても「一度始めるとやめない」という良い特徴があります。非常に勤勉に継続させるので、素晴らしいと思います。

「付加価値」が社会にマッチした時、影響力は絶大に

―日本でリサイクル活動を行う時に、何が障害になりますか。

ザッキー:日本というより、世界的に当社のプラットフォームを運営する上で障害となるものは、「既存のリサイクルの仕組み」です。例えば、アルミ缶は非常に価値が高く、ゴミ収集会社は、利益が上がるアルミ缶を積極的に収集・リサイクルします。素材の価値が高いものはリサイクルされ、そうでないものはされないという実態があります。

現在では、本やペンなど、あらゆるものがリサイクル可能な技術があるにも関わらず、それらを収集してリサイクルするには費用がかかります。ですから私たちのプラットフォームには、必ずパートナー企業の存在が欠かせないのです。

パートナー企業には、「なぜ、費用がかかってもリサイクルをやるべきなのか」を訴え、理解を得なければいけません。リサイクル全体についてよく考え、そこに大きな「価値」を付けるのです。そしてその付加価値が社会にマッチした時に、影響力は絶大になります。

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寺町 幸枝(てらまち・ゆきえ)

Funtrapの名で、2005年よりロサンゼルスにて取材執筆やコーディネート活動をした後2013年に帰国。現在国内はもとより、米国、台湾についての情報を発信中。昨年より蔦屋書店のT-SITE LIFESTYLE MAGAZINEをはじめ、カルチャー媒体で定期出稿している。またオルタナ本誌では、創刊号以来主に「世界のソーシャルビジネス」の米国編の執筆を担当。得意分野は主にソーシャルビジネス、ファッション、食文化、カルチャー全般。慶應義塾大学卒。Global Press理事。