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障がい者雇用成功の鍵は、ハードよりもソフトの整備

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トランスコスモスが障がい者雇用について説明

「障がい者の雇用で定着率を上げるには、ハードよりもソフト面の改善が重要」。17日東京で開かれた障がい者と企業が相互理解を深めるための合同企業説明会で、LITALICOワークス事業部(東京・目黒)の伴野佑磨氏は話した。障がい者雇用に積極的に取り組むトランスコスモスやキャリアリンクなど10社の企業が、自社の取り組みを紹介。精神障がいや知的障がいなど102名の参加者が話を聞いた。(辻 陽一郎)

厚生労働省によると2016年の障がい者法定雇用率は48.8%と5年連続で上昇した。だが、社員1000人以上の企業が58.9%と最も高く、大手企業に比べ中小企業での雇用の進みは遅い。エン・ジャパンの「障がい者雇用実態調査」によると、雇用率未達成企業の41%が雇用を増やせない理由に挙げたのは「設備・施設・機器など安全面の配慮」だった。

理由はバリアフリー化などハード面の整備には、資金が必要となるためだ。だが、説明会に参加した企業は、ソフト面を充実させることで障がい者が働きやすい環境を整えていた。

専門家との面談で個別配慮

トランスコスモスは、2007年に障がいのある社員を中心としたWeb制作チームを立ち上げるなど、先進的な取り組みを行っている。ブースには多くの参加者が集まり、業務内容やサポート体制について耳を傾けた。

同社はソフト面のサポート体制充実を図ることで、個別に配慮する。現在は、身体障がい者が最も多く8割ほどだが、近年は精神障がい者の雇用が増えてきた。そこで同社は2013年から精神保健福祉士を採用し、定期的な個別面談の場を設けた。

同社ノーマライゼーション推進部の横井山隆介部長代理は「障がいの特性によっては満員電車に乗れないこともあります。勤怠の安定や体調について気軽に相談できるように、定期的に福祉士との個別面談を行います。週に二回くらいの頻度で行うことで雇用の安定につなげています」と話した。

多くの障がい者が企業説明に耳を傾けた

障がいに対する社内の理解促進が肝心

同社の障がい者の定着率は80%以上。雇用の定着には、障がいに対する社内の理解促進も肝心だ。広告運用やウェブ制作など専門的な業務を、健常者と一緒に行う。会社全体で理解を進めるため、新人研修に障がい者の雇用促進理解を組み込んだ。

「元々は事務系が多かったが、いまでは専門職も増えています。障がい者も会社の戦力として、売上に貢献してもらっています」と横井山部長代理は話す。

北海道から沖縄まで全国に支店があるキャリアリンクは、支店長クラスへの障がい者理解に注力する。それぞれの障がい特性を上司が知ることで働きやすい環境をつくる。障がいの者の離職率も2%ほどと安定した雇用ができている。2年前まで本社勤務は一人だけだったが現在は25名まで増え、全社では51名の障がい者が在籍している。精神障がい者が8割、身体障がい者が2割を占めているが、知的障がい者の雇用を増やす取り組みも始めた。

両者で検討し、企業はできる配慮を仕分けする

合同説明会を主催したLITALICOの伴野さんは障がい者の定着について、「重要なことは配慮が一律ではないと理解することです。一口に精神障がいと言っても特性によって違う。個別に合わせた配慮が必要です」と話した。

だが、必ずしもすべてに配慮することが正解ではない。両者で検討しながら、企業はできる配慮を仕分けしていくことが必要だ。同社は企業に、希望する配慮や、通勤・業務・環境・対人での困りごとをチェックできる「合理的配慮に関する相互検討資料」を提供している。

例えば、精神障がいがあるため、ルーティン業務を希望するという場合。企業側はある程度の配慮はできるが、ルーティン以上の業務を依頼することもある。その場合は「前日までに伝える」といった配慮が可能となる。

課題として伴野さんは、「自分の障がいについて他者に伝えることが苦手な人もいます。障がいは社会の風潮として負い目ととらえがち。当事者が、自分の障がいを見つめ直して受け入れる強さを身につけることが必要です」と話した。

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辻 陽一郎 (つじ・よういちろう)

NPO新聞代表、NPOジャーナリスト。NPO・NGOやボランティア、ソーシャルベンチャー、企業のCSRなどを中心に取材。二足のわらじで、ボランティアコーディネーターとして國學院大學ボランティアステーションで働く。ヤフー株式会社、国際ボランティアNPOのNICE(日本国際ワークキャンプセンター)を経て現在。

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