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アプリで音を文字化、聴覚障がい者向けサービスが拡大

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通話相手の声をテキスト化する「みえる電話」

聴覚障がい者は、日常生活で電話ができなかったり、交通機関の音声アナウンスが聞こえなかったりといった不便がある。NTTドコモやヤマハは、スマートフォン上で音声情報をテキスト表示するアプリを開発し、実用化に乗り出した。昨年施行された障害者差別解消法を機に、各社の取り組みが広がっている。(辻 陽一郎)

障害者差別解消法では、障がいを理由とする差別を禁止し、合理的な配慮を行う努力義務が企業に求められている。NTTドコモは携帯電話会社として、聴覚障がい者や耳の聞こえづらい人にも配慮したサービスを開発。通話相手の声をテキスト表示する「みえる電話」を昨年10月、トライアルサービスとして始めた。2017年度の実用化を目指している。

同社広報部の佐藤まどか広報担当は、開発のきっかけを「たくさんの難聴者の方からご意見をいただき、さまざまな重要シーンで電話を使わざるを得ない用途があり、非常にお困りである方が多いという気づきがありました。難聴者の社員とともに、サービス開発を行ってきました」と説明した。

聴覚障がい者はカードを紛失したときや、ウェブ上で予約ができないレストランの予約変更など、緊急時に電話することが難しかった。「みえる電話」は、アプリをダウンロードして電話をかけると、通話相手の音声がリアルタイムでスマートフォンの画面上にテキストとして表示される。ネットワーク上で音声の認識処理が行われるため、電話の相手先にはアプリは不要だ。

テキスト化された内容を確認しながら、お互いに音声で会話することが可能となる。今年の3月まではトライアル期間として、テキスト化の音声認識精度を高めていく。現在モニターは1000人ほど。モニターからは「文字化が対話スピードに近いので想像以上でした」「本当に久しぶり(13年ぶり)に電話をかけたことに感動しました」「聴覚障がい者には電話は不可能だと思っていたので、いつの間に、ここまで進化したのかと感激でした」など喜びの声が集まっている。

「おもてなしガイド」の概要図

ヤマハが開発した「おもてなしガイド」も音声情報をテキスト化するサービスだ。おもてなしガイドの特徴は、交通機関や空港で流れる音声ガイダンスを、スマートフォンで読み込むとテキストとして表示される。

同社広報部の新川兼司氏は「外国人や、障がいをお持ちの方、高齢者で耳が聞こえない人にも何かできないかという思いで始まりました」と話した。他言語に対応しているため、聴覚障がいのある人や外国人観光客にも役立つサービスとして期待される。

「おもてなしガイド」は2014年にリリースし、現在実用化に向けてさまざまな企業と連携しながら実証実験を行っている。成田空港や京浜急行電鉄、イオンモールなど全国の施設で検証中だ。今年3月末の実用化を目指しているが、実証実験次第で延期の可能性もある。

ヤマハは、旅行会社大手のエイチ・アイ・エスとも連携してプロジェクトを実施している。エイチ・アイ・エスは、手話や筆談で旅行相談ができる「ユニバーサルツーリズムデスク」を2002年から設けるなど障がい者への配慮に注力している。

両社は昨年3月末、障害者差別解消法施行直前に、おもてなしガイドを用いたプラネタリウム体験会を実施した。聴覚障がいがある人も楽しめるように、プラネタリウムの音声アナウンスを、おもてなしガイドのアプリで、リアルタイムにテキスト情報を表示する試みだ。

日常的な会話を、スマートフォンでテキスト化するツールも登場している。シャムロック・レコード(東京・練馬)が2013年にリリースした「UDトーク」は、聴覚障がい者とのコミュニケーションを手助けするツールとして開発された。

普段の会話でもUDトークを使えば、会話の内容がリアルタイムでテキスト表示されていく。音声認識の正確性も徐々に向上していて、現在は聴覚障がい者への情報保障としてイベントなどでも利用されている。他言語同時翻訳機能も搭載している。

みえる電話やおもてなしガイド、UDトークなど音声情報をテキスト化するサービスは、障害者差別解消法や東京オリンピック・パラリンピックを追い風として、広がりをみせている。今後もさらなるサービスが生まれ、障がい者が抱えるバリアが少しずつ小さくなっていくことを期待したい。

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辻 陽一郎 (つじ・よういちろう)

NPO新聞代表、NPOジャーナリスト。NPO・NGOやボランティア、ソーシャルベンチャー、企業のCSRなどを中心に取材。二足のわらじで、ボランティアコーディネーターとして國學院大學ボランティアステーションで働く。ヤフー株式会社、国際ボランティアNPOのNICE(日本国際ワークキャンプセンター)を経て現在。

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