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持続可能な認証魚、東京五輪を前に3種のみ

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イケアは世界6億人以上の顧客に販売する魚介類をMSC・ASC認証品に限定すると宣言した(2015年10月撮影)

2020年の東京オリンピックは「持続可能性に配慮した調達」を掲げたが、選手たちに提供する持続可能な海の国産食材が足りていない。国内には国際規格に沿った認証制度がなく、国際的に信用度の高いMSC・ASC認証を取得済みの魚介は、わずか3種にとどまる。その背景には、日本の「ガラパゴス化」がある。

ロンドン大会とリオ大会は、選手村などでMSC・ASC認証の魚介類を提供した。MSC(海洋管理協議会)は漁業、ASC(水産養殖管理協議会)は養殖業の認証制度。いずれもWWF(世界自然保護基金)が創設を支援した非営利組織で、MSCはASCより13年早い1997年に、ユニリーバの発案でつくられた。

各種国際規格に準拠したMSCは世界約100カ国に普及し、認証品は年間約950万トンで世界の水産物の約1割を占めている。しかし日本のMSC認証漁業は、京都府機船底曳網漁業連合会のアカガレイと、北海道漁業協同組合連合会のホタテガイの2件のみ。水産庁が設定したTAC(漁獲可能量)が過剰で持続可能性を証明できず、5年おきの更新の際に認証を失った例もあり、件数が伸びない。

MSC日本事務所によると、本審査自体は通常1年で終わるが、透明性を高めた厳密な審査によって時には再検討が必要になり、申請から認証まで数年かかる場合もある。認証品を販売するには流通・小売側のCoC認証取得も必須であり、東京大会まで残された時間は少ない。

なお、MSCの養殖版といえるASCも同様に審査が厳しく、日本では今年取得した宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉出張所のカキ養殖が唯一の認証例である。

イオンは全国の店舗に認証品専用の販売コーナー「フィッシュバトン」を展開しつつある

国内には大日本水産会が2007年に創設した漁業認証「MEL(マリン・エコラベル・ジャパン)」と養殖魚認証「AEL」を推す動きもあるが、関係機関の客観性が乏しく、審査にも非公開プロセスが多く、現状では国際規格に適合していない。

一方のMSC・ASCの認証機関は海外組織ばかりで、審査は英語がベースである。また、複数の審査員を海外から呼び詳細に審査するため費用がかさむ。農林水産省は、「農林水産物・食品輸出促進対策事業」の一環として、輸出を目的とする漁業者なら申請が通る可能性がある助成金を用意しているが、28年度の公募はすでに終了。海外の「リソーシズ・レガシー・ファンド」の対象にもなり得るが、現状では英語で個別に問い合わせるしかない。

そのため、多くの人が、MSC認証が日本に浸透しにくい理由として「英語とコスト」を挙げる。ところが、2012年よりMSC認証の審査員を務めているグローバルマリンコンサルティングの田村陽子代表の意見は異なる。

田村代表は「本当の問題は、そこではないと思う。水産資源の持続可能性に関する国際的な基準と日本のこれまでの水産資源管理、そして業界内での漁業の持続可能性に関する認識との間には大きな隔たりがある。この本質的なズレが 、MSCの浸透にとって壁になっている」と語る。

さらに日本では、多くの水産系研究者が水産庁をトップとする水産研究組織に所属しており、成果主義より年功序列で昇進していく。この独特な研究・教育システムも、利害関係からの独立を必須条件とするMSCの審査員が日本で増えない一因だという。

海外では大手スーパーマーケットやレストラン、ホテルなどが、こぞってMSC・ASC認証を調達基準としている。一時的なオリンピック景気にとどまらず、世界にマーケットを広げるチャンスにもなる国際標準の水産認証。これを東京オリンピックの「レガシー」として日本に根付かせるには、ズレの自覚と多方面の変革が必要と言えそうだ。

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瀬戸内 千代 (せとうち・ちよ)

海洋ジャーナリスト。雑誌「オルタナ」編集委員、ウェブマガジン「greenz」シニアライター。1997年筑波大学生物学類卒、理科実験器具メーカーを経て、2007年に環境ライターとして独立。自治体環境局メールマガジン、行政の自然エネルギーポータルサイトの取材記事など担当。2015年、東京都市大学環境学部編著「BLUE EARTH COLLEGE ようこそ、「地球経済大学」へ。」(東急エージェンシー)の編集に協力。