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サステナビリティ 新潮流に学ぶ

第25回:SDGsは道標になりうるか?~アントロポセン(人新生)の時代(その1)~

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SB-J コラムニスト・古沢 広祐

AI(人工知能)やゲノム編集(遺伝子改変)が話題になる中、人類の歩みが宇宙史のスケールで問い直され始めています。今回は、地質年代の新しい表記で話題の人新世(アントロポセン)をめぐる議論、世界的ベストセラーとなったユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史(上・下)』と続編『ホモ・デウス(上・下)』を引き合いにして、人間存在への問いについて考えてみましょう。

人類の新時代

地球史的な地質年代のスケールで、人類という存在が大きな影響力を与えている現実を示す新用語がアントロポセン(人新世、人類世)で、人類の時代という意味です。

地質年代区分として正式名称に認められるかどうか、複数の国際的学術団体による承認の議論が進んでいます。一方、すでに用語の普及は先行しており、ネット上では、動画も公開されています(ようこそ人類世へ)。

最近の人新生をめぐる議論と展開は多岐にわたっており、地質学や環境科学など自然科学分野にとどまらず、哲学、歴史学、文化理論からフェミニズム、人文学、ポップカルチャー、環境アートに至るまで広範な影響力を及ぼし始めています。

その中でも注目したいのは社会科学や人文科学における展開で、人間による環境改変について、生物種レベルでの議論の枠を超えて歴史、文化、政治的な文脈において議論が広がっています。

そこでは人新生の開始を新石器時代からと考えたり、産業革命を重視する見方、そして資本主義的なグローバル経済発展こそ画期とみる「資本新世」という造語まで提起されたりしている状況があります。

ホモ・サピエンスからホモ・デウスへ

こうした見方は、従来の世界観を超えようとする試みであり、さまざまな動きがあります。例えば、宇宙史的な視点で人間を位置づけ直す「ビッグ・ヒストリー」や、世界史を国中心で見ずに広範な相互関係から総合的に見る「グローバル・ヒストリー」の試みも盛んになっています。

(写真は筆者撮影)

そうした潮流の一つとして、世界的ベストセラーとなった書籍、ハラリ著の『サピエンス全史』と続編『ホモ・デウス』があります。著者はイスラエルのヘブライ大学で歴史学を教えている気鋭の学者ですが、広範な知識を駆使し、随所に知的好奇心をくすぐるエピソード(小話)を挿入しながら、独自の視点から人類の歩みを整理して、人類の行く末を大胆に展望しました。ホモ・サピエンスという存在を巨視的視点で読み解き、未来展望を大胆に描き出したのです。

人新生をめぐる議論とも通じますが、ホモ・サピエンスが地球上で特異的繁栄をとげてきた経緯について、人間中心主義の成果である点を強調しています。しかしながら、その成果自体が人間という存在を変えてしまう可能性を明快に示しました。その行く先を、ポスト・ヒューマン的な存在になると見通して、全能の神を表わすラテン語のデウスをあてた用語として「ホモ・デウス」という造語で提示したのでした。

人間中心主義が生み出した多くの成果の最終的帰結として、全ての情報を掌握して操作していく能力の肥大化の極点において、ホモ・デウスが想定されています。それは、従来の自然界の遺伝的な進化という変化ではなく、人間自身が自らを造り変えていく新段階が生じているというのです。

人間社会の営みや自然界について、次第に全てを掌握していく高度知識社会、その土台を成すデータ中心主義が飛躍的に発展することで、人間自身をも変えていくと予想します。より精緻な知識とデータの集積が高度に進み、とくに人工知能(AI)の飛躍的進歩が相乗的発展をとげていく過程で、新たなステージに入っていくのです。

ハラリによれば、そのような新段階に適応しつつ依存を深めていくなかで、いわば超能力を獲得していく人間の出現を予想します。それは楽観的未来につながるかどうか、人間自身の存在理由を根本的に揺るがす悪夢になる可能性もあるといいます。

人間社会の未来をどう展望するか

その具体的な姿は描かれていませんが、近未来的には、人間・機械系のようなサイボーグ的存在になっていくか、ゲノム編集による遺伝子改変が適用されていくか、もしくは両方の動きなのかもれません。いずれにしても、従来のホモ・サピエンスからは大きく逸脱した人間存在が想定されるというのです。

すでに現代のデジタル社会でも、若者を中心にスマホ中毒やネット依存症など深刻な症例が顕在化していることを思えば、未来の人間のあり方としては、あながち荒唐無稽な想定とはいいきれません。

こうした考え方は、AI革命でのシンギュラリティ(特異点:AIが人間の知的能力を凌駕する近未来予測)やロボット技術、ゲノム編集などの技術革新を是とする時代風潮においては、親和性がある問題提起です。

著書への反響をみるかぎり、とくに経済界の著名人からは高い評価が寄せられています。こうした受けとめ方は、どうもホモ・デウスという存在自体について、実はそのまま現代世界の実相を映し出していると見ると分かりやすいかもしれません。

すなわち、現代の超人的存在としては、急速な経済のグローバル化を背景に登場しているスーパーリッチと呼ばれる人々の姿こそが、ホモ・デウスそのものに見えてくるのです。

こうしたスーパーリッチ族は、巨額の資産を土台に超一流エリートを多数雇い入れて、世界中の情報データを集積・管理しながら、資産運用(投資)、企業経営、税金対策(タックスヘイブンの活用)を行い、プライベートジェットで世界を飛び回っている、まさにホモ・デウス的な存在と考えられるのです。

ここで疑問になるのが、2015年に国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)が提起する人類社会の将来展望との関係です。日本政府は2018年12月、『SDGsアクションプラン2019』を公表しました。そこで目立つのが、新時代「Society5.0」に向けてSDGsと連動する科学技術イノベーションの促進です。

未来社会をどう展望するのか、人類の立ち位置については、もう少し掘り下げて考えてみる必要がありそうです(次回に続く)。

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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