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サステナビリティ 新潮流に学ぶ

第24回:誰も取り残さない! 小農民の権利宣言が国連で採択~SDGs時代の持続可能な農と食~

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SB-J コラムニスト・古沢 広祐

気候変動と生物多様性の危機を前に、持続可能な食料や地域をどう守るか、シナジー効果をめざすSDGs(持続可能な開発目標)の流れが加速化しています。SDGsゴールの1(貧困)、2(飢餓)、3(健康・福祉)の問題に直結するのが、農業・農村の持続性を促進することです。しかし、そこにはサステナビリティをめぐる対立、せめぎ合いが隠れています。国連が今なぜ、小農民の権利を宣言するに至ったのでしょうか?

農業の大規模・近代化? 小農民の権利の確立?

世界の農村地域には全世界人口の約半分が暮らしていますが、その貧困率は都市地域より3倍以上も高く、全貧困層の8割が住んでいる状況となっています。その底上げについて、旧来の考え方では農業の近代化(規模拡大)と都市化の促進になるのですが、現実には農村の衰退・疲弊化が進み、都市に流入した貧者のスラム(貧民街)拡大という格差問題が深刻化しています。

前回コラム(第23回連載)の「3カ国民衆会議」の争点となった大規模農業開発、とりわけ企業的なモノカルチャーの拡大では、貧困化や環境破壊が促進されるばかりだとの批判が高まっています。

世界の農家の9割は家族農業の農家で、世界の食料の約8割が生産されています(世界食料農業白書2014年)。多くの農家が小規模で零細な経営であり、2割は土地なし農民という状況です。

こうした現実をふまえて、国連は2014年を「国際家族農業年」とし、2019年からの10年間を「家族農業の10年」と取り決め、2018年12月18日の国連総会で「小農と農村で働く人々の権利に関する宣言」(小農の権利宣言)を可決したのでした。

宣言は27条からなり、小農民、漁民、遊牧民、先住民、牧畜民、農業労働者の権利確立が示され、その権利には食料、土地、水などの自然資源が含まれ、文化的アイデンティティや伝統的知識の尊重、種子や生物多様性に関わる権利保護まで幅広い分野にわたっています。

その背景には、従来型の経済至上主義による大規模開発がもたらす小農民や弱者への脅威と危機意識があります。その具体例が、前回ふれた巨大開発事業です。経済のグローバル化の下、国際市場で競争力をもつ輸出型農産品に特化する農業開発モデルの代表例がブラジルのセラード開発事業であり、成功物語として語られてきました。

実際、世界の農業は貿易自由化が進む中で国際分業が進展し、価格低下の競争にさらされてきました。安い食料が入手できるメリットや、開発に伴う光と影といった見方も成り立ちますが、その弊害への批判がクローズアップされているのです。結果的に、少数の巨大資本による勝者と多数の弱小農民が敗者となってしまい、排除された人々に深刻な社会矛盾をもたらすという問題認識です。

とくに人権や民主主義の社会制度が十分に機能していない途上国では、土地収奪や貧困化が加速化して社会不安が激化しかねない事態が心配されています。国連が「小農民の権利宣言」を決議した理由もそこにあったのです。

開発をめぐるパラダイム対立

世界の食料システムを俯瞰した指摘として、「小農民の食料供給では、多種多様な品種を細やかに活用して土地・水・化石燃料の2~3割の利用で食料供給の7割を担っているのに対して、大規模企業型の食料供給では少数の品種栽培(モノカルチャー)で化石燃料資源を大量利用(7~8割)し環境に負荷をかけながら食料供給の3割を担うに過ぎない」(ETCグループ『誰が私たちを養うか?』2017年)があります。

経済効率だけの農業開発では、環境的適性や社会的公正を犠牲にしてしまう状況について明解に示した指摘にもなっています。こうした内容については、私の最近著『食べるってどんなこと?―あなたと考えたい命のつながりあい』(平凡社、2017年)や翻訳書『フード・ウォーズ―食と健康の危機を乗り越える道』(T・ラング、M・ヒースマン著、コモンズ、2009年)でも紹介してきました。

とくに食と農をめぐる対立(フード・ウォーズ)は、産業化と科学技術によって問題解決していく方向性(ライフサイエンス主義)と、自然と人間の密接なつながりを再認識して調和的あり方を重視する方向性(エコロジー主義)との間で、重大な岐路に立つという指摘なのですが、時代状況に関する興味深い見方だと思います。

「フード・ウォーズ」とは、食と農の未来について、消費者、市場(マーケット)、産業社会などめぐって繰り広げられる闘いであり、食と農の未来をどう展望するかによって世界の将来的あり方が決まっていく重要な鍵になるとの考え方です。

SDGs時代の持続可能な農と食

国連で小農民の権利宣言が可決された少し前になりますが、「みんなで考えよう!SDGs時代の持続可能な農と食」という集まりを國學院大学にて開催しました(12月2日、主催:日本版アグロエコロジー勉強会)。この集会の内容が、まさに食と農の現状と課題を端的に示した内容ですので簡単に紹介しましょう。

イベント当日の写真記録、映像がネットで公開されている

前半の3人の基調報告では、「顕在化する気候変動の脅威 ~ 人新世(アントロポセン)の行方」(江守正多・国立環境研究所)、「工業型農業が招くグローバルな環境破壊」(関根彩子・グリーンピース・ジャパン)、「生物多様性は食の源~高尾山の現場からローカルの可能性をさぐる」(坂田昌子・国連生物多様性の10年市民ネットワーク)というテーマで、深刻な事態への問題提起がなされました。

後半はパネルディスカッションとして、有機農業の農家の取り組み、支援団体、種子の多様性を守る活動など、実践的な活動が報告され、全体討論が繰り広げられました。詳細は、当日の映像記録がネット公開されていますので、ざっとでもお目通しいただけると、会場の熱い熱気を感じてもらえるかと思います。

グローバルな地球環境問題を前にして、ローカルな食と農の現場から問題解決を探る興味深い集会であり、小農民の果たす重要な役割について再認識する貴重な場となっています。

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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