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CSR/CSV 経営ポイント

持続可能性に向けた自己変革を:SBバンクーバー報告㊤

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SB-J コラムニスト・森 摂
SBバンクーバーの展示会場「アクティベーション・ハブ」の様子

今年6月4~7日、カナダのバンクーバーで「サステナブル・ブランド国際会議2018本会議」(Sustainable Brands 2018 Vancouver)が開かれた。3年越しの世界共通テーマ「グッド・ライフ」を掲げて2年目の今年、会場では何が議論されたのか。(オルタナ編集長・森 摂)

会議の概要

同会議はユニリーバ、グーグル、アマゾン、アップル、ディズニー、フォード、P&G、キンバリー・クラーク、ティンバーランド、ラッシュなど300以上のブランド/マーケティング/サステナビリティ(持続可能性)担当者らを含めた2000人以上が参加した。

今年の世界共通のテーマは「Redesigning the Good Life」。まずは「グッド・ライフの再構築」と訳しておこう。昨年は「Redefining the Good Life」(グッド・ライフの再定義)であり、来年は「Delivering the Good Life」(グッド・ライフの展開)を予定している。

グッド・ライフの定義については、すでに何度も本サイトや「オルタナ」誌面で詳報しているが、言うまでもなく、個人の「単なる良い暮らし」ではなく、環境や貧困など、地球規模の課題や途上国の問題を見据えた行動規範を指す。

それはもちろん消費者としての行動規範であり、企業にとっては「ブランドが選別されるための新たな基準」を意味する。つまりSDGs(持続可能な開発目標)や気候変動枠組み条約の「パリ協定」をきっかけとして、国際社会がサステナビリティに向けて大きく舵を切った中で、企業やブランドが存続を許されるための必要条件になったのだ。

2年目のテーマとは

グッド・ライフはサステナビリティと同義であり、裏を返せば、グッド・ライフの実現に向けて努力しない企業は、いずれ淘汰されるということだ。そうした危機感は、特にグローバルでの存在感が大きい大企業や巨大ブランドであるほど大きい。

その上で、2017年は「グッド・ライフ」を「企業やブランドが地球規模の社会的課題に積極的に関与し、すべてのステークホルダーと中長期的に良好な関係を築くこと」と再定義した。

では、2年目の今年は何がテーマになったのか。筆者が会議の全体を通じて感じた最大のメッセージは「初年度(2017年)で定義したグッド・ライフの実現に向けて、企業やブランド自身がどう変革すべきか」だ。

換言すると、グッド・ライフをゴールとし、サプライチェーンや取引先・社員を含めて、自社・自組織を『再構築』していくことと言えるだろう。つまり企業やブランドに「自己変革」を迫っているのだ。

その中で重要になるのは1)サステナビリティを経営に統合し、社内外を動かすための「リーダーシップ」、2)新たな発想や思考法を持つための「デザイン・シンキング」、そして3)企業・組織の「存在意義」に立ち返り、組織を正しく導く「パーパス」の3つだ。この3点は、全体会議や個別のセッションを通じて最もよく聞かれたキーワードだった。

redesignとは、「再デザイン」「デザインし直す」というより、「何かを組み立て直す」という意味合いが強い。「企業が中長期的な利益を考えるなら、サステナビリティはオプションではない。必須事項だ」。会場内で、デビッド・グレイソン・英クランフィールド大学名誉教授はこう断言した。

よく日本のB2B企業の担当者が「当社はB2B企業なので、エンドユーザーや社会との接点が少なく、サステナビリティやCSRの取り組みが難しいのです」と話すのを聞くことがあるが、それは単なる言い訳に過ぎないことを、今回の登壇者が言ってのけた。

それは独化学メーカーBASFカナダ法人のマルセロ・リー社長だ。彼は全体会議の壇上で「B2C+B2B=B2A」(Aとは、ALL)と掲げた上で、「B2Bビジネスも全てのステークホルダーに向き合う経営をしなければならない」と高らかに宣言した。

いま世界的にプラスチックごみの問題が深刻化しているが、「目の前の顧客だけでなく、社会のニーズを知ることが出来れば、十分に対応可能だ。イノベーションも起きる。私はプラスチック問題は必ず解決できると楽観的だ」と逃げない姿勢を見せた。

では、企業やブランドは具体的にどのような行動を求められるのか。それは「ステークホルダーとの対話」に尽きる。温室効果ガスの削減でも、サプライチェーンの人権問題でも、企業やブランドは市民社会やNGO/NPOからアプローチ(質問状や抗議)を受けることが多い。そのような際にも、逃げたり沈黙したりすることなく、積極的に向き合い、課題解決に向けて「協働」することが重要だ。

企業やブランドは社会と対話できる「組織」になっているか。それが決定的に問われている。そのための自己変革であり、同時に、経営者の意識変革も求められている。

日本とは正反対の調査結果

ところで、今回のSB会場内で、興味深い調査結果が発表された。「どの組織がサステナビリティの実現に向けて最も努力しているか」とのテーマで、欧米・アジアなどサステナビリティ専門家729人へのアンケート調査(英サステナビリティ社・カナダのグローブスキャン社の共同調査)だ。

それによると、「どの組織形態が最もサステナビリティに貢献していると思うか」。との問いにはNGO/NPO(59%)、社会起業家(48%)、マルチセクターでの協働(42%)、 研究機関や大学など(41%)、国連(36%)、民間企業(28%)、地方自治体(26%)、各国政府(8%)だった。

この結果は、多くの日本人にとって衝撃的だろう。日本ではNGO/NPOへの信頼度は決して高くなく、逆に企業や政府の信頼性は高いが、グローバル規模では全く反対の結果になった。どちらが良い悪いではなく、日本人と世界の考え方には大きく開きがあることを押さえておいた方が良いだろう。

「どのNGOが最も積極的にサステナビリティに取り組んでいると思うか」との問いには、WWF(29%)、グリーンピース(13%)、ワールド・リソース・インスティテュート(8%)、オックスファム(7%)、セリーズ(5%)ーーと続いた。

「どの企業が最も積極的にサステナビリティに取り組んでいると思うか」との問いには、ユニリーバ(47%)、パタゴニア(23%)、インターフェイス(10%)、イケア(9%)、マークス&スペンサー(7%)、テスラ(6%)、ネスレ(5%)、アップル(4%)だった。

ユニリーバのポール・ポールマンCEOは、グローバルなNGOの最大ネットワークである「ウィ・ミーン・ビジネス(We Mean Business)」の立ち上げに参画し、パーム油問題でもリーダーシップを発揮するなど、地球規模の課題解決に向けて積極的に行動している。

「グッド・ライフ」は決して綺麗ごとではなく、企業やブランドが世界や地域から支持を得られるか、まさにその一点が問われているのである。SBバンクーバーを俯瞰して、その思いを強くさせられた。

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森 摂
森 摂 (もり・せつ)

株式会社オルタナ代表取締役社長・編集長。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。訳書に、パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードの経営論「社員をサーフィンに行かせよう」(東洋経済新報社、2007年)がある。一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事。特定非営利活動法人在外ジャーナリスト協会理事長。

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