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G☆Local Eco!

ブランド毀損とブランド・ガバナンス

SB-J コラムニスト・青木 茂樹

噴出するブランド毀損の問題

[G☆Local Eco!第16回]数年前までは、食品業界における偽装によって、多くの企業ブランドや製品ブランドが毀損され、事業継承が困難になった企業も続出した。そして今日、重厚長大の製造業や建設業界において、生産管理や品質検査問題、コンプライアンス上の問題が連日メディアを賑わすこととなっている。

この問題の原因は、コストカットによる人員削減や業界の収益構造の低下という構造的問題、経営倫理やコンプライアンス意識の希薄さという経営倫理上の問題、メーカーの品質管理の水準と国の検査制度の技術環境への対応の違いなど、いくつかに分類できるようであるが、これは筆者の専門ではないので深く言及できない。ただ日本品質の評価を下げてしまったことは否めない事実であろう。

何よりもマーケティングやサステナブル・ブランドの構築を目指す立場から言えば、莫大な費用をかけてブランド構築を行っているにもかかわらず、なぜ事業生命に関わりかねない重要な問題を引き起こしてしまうのか[1]。そこに内部の論理を慮って外部に対する責任を曖昧にしてしまっている姿勢が見え隠れしているのではなかろうか。最終的には、ブランドはステークホルダーのマインドの中に存在するものである。ブランドは、組織が保持する資産ではなく、組織外累積資産であり、これを誰がどのように管理するかの意識の再考が求められている。

[1] 東洋経済オンラインの「広告宣伝費トップ500社ランキング2015」によれば、これらの企業の売上高の平均は約2500億円、広告宣伝費は同59億円で、売上高に占める比率は同3.5%だった。http://toyokeizai.net/articles/-/82100

企業ブランドと製品ブランドの管理の二重性問題

こうした課題について、コンプライアンスの研究者小山嚴也氏(関東学院大学)、エピソード・ブランディングの江戸克栄氏(県立広島大学)と研究会を重ね、いくつかの問題が提起された。

第1は、ブランドおける企業内管理組織の違いという問題である。製品ブランドの管理は、ブランド・マネジャーやマーケティング部、製品開発部を対象とした攻めのブランド構築にある。一方、企業のトラブルを未然に防ぎ、事後処理といった守りとしてのブランド毀損を管理するのは、総務部門、法務部門、広報部門であり、同じ企業のブランドであっても担当する管理組織が異なっている。ヒトも予算も現場の空気感もかなり異なり、ステークホルダーから見れば同じ企業が引き起こした問題であるのに、自分の所轄でなければなんとなくの他人事の空気が組織内に流れていやしないだろうか。

第2に、同様の問題として、マーケティング研究者が関心を持つのは、主として個別製品のブランド構築にあるということである。一方、企業不祥事によって毀損されるのは製品ブランドだけではなく企業ブランドであり、これはCSRやコンプライアンスの研究者の関心事である。

結局、研究者も企業も各々の専門という名のタコつぼ状況に陥っているのだ。私も異なる分野の研究者とこうした課題について深く議論し、共同研究することは恥ずかしながら初めてである。

第3に、従来のブランド管理の構成要素は、製品ブランドの知覚品質やロイヤルティ(D.Aaker)、または共感(K.L.Keller)という消費者視点の評価であり、企業の倫理的評価や社会的正当性の認識が欠如している。CSRは企業ブランドの倫理的評価や社会的正当性に影響しているが、エシカル(倫理的)消費といった製品ブランド選択にまで影響を及ぼすかはまだ早いとか不確かだという声も聞く。

しかし、青木ゼミの学生の卒論では、226人にアンケート調査したところ、製品選択において、品質、価格、企業ブランド、環境配慮のどれか一つを重視するかという質問で環境配慮を選択した人はわずか1.8%であったが、これらに関する6本の動画を流してそれらの製品の購買意向を調査すると、約24%の消費者がエシカルな動画の製品を選んでいたという。文字で理解した回答と、動画のようなメディアで共感した回答では異なる結果が出てきていたのだ。

ブランド・ガバナンスとはなにか

さてブランド管理を企業としてどのように向き合っていくべきなのか。我々は図のようなBrand Governanceの構図を考えている。従来の製品ブランドは左下のBrand Buildingである。売上にダイレクトにつながる製品のブランド構築として顧客や取引先はもちろん、ESG投資市場では株主というステークホルダーまで含めて訴求していくブランド管理である。

一方、従来の広報やCSR部、法務部が担っていた、問題発生したときにその迅速的なコミュニケーションを的確に行い、その処理をどのように行うかというBrand Defenseの戦術がある。

これに加えてトップマネジメントが企業理念やサステナビリティを社会や社員に訴える泰然自若としたBrand Presenceが最も重要である。Brand BuildingやBrand Defenseにもつながるのだが、こうした事件が起きたときの意思決定が最も重要である。

過日のサステナブル・ブランドの研究会で、H&Mのサステナビリティ戦略について伺った。アパレル業界の責任として衣服のリサイクルを実行しているとの報告であったが、実はその数日前にH&Mが回収した服を燃やしているというニュースが世界に流れたのだ。

サステナビリティ担当の方にこの質問をすると「私たちがサステナビリティに関して真摯な取り組みを長年やってきていることはウェブサイトを見てもらえればわかる。メディアは時に揚げ足をとるような報道をするが、だからこそこうした取り組みを透明性をもって実施していくことが大切なのだ」と力説した。

さらに参加者の外資系広告代理店の方からは「今のSNS時代ではネガティブな批判に対して、逆に支援する方々がこうした正当性のある主張をシェアする時代になっている」とのコメントがあった。

繰り返しになるが、ブランドは企業の内部にある保有資源ではない。企業外累積資源であるからこそ、こうした企業のステークホルダーに対して、ブランド・ガバナンスとして再認識すべき時代が来ているのではなかろうか。

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青木 茂樹
青木 茂樹

駒澤大学経営学部市場戦略学科教授。
慶應義塾大学大学院博士課程単位取得、山梨学院大学商学部教授、University of Southern California Marshall School Visiting Scholar。

企業のマーケティング・コンサルティング、住民参加型の地域活性化および観光の事業構築、マスメディアやSNS、人的ネットワークによるパブリシティの構築を専門とし、山梨県産業振興ビジョン策定委員会委員、山梨県特選農産物認証委員会委員、甲府市商工業振興協議会会長、南アルプス・フルーツ劇場プロジェクト会長、やまなし大使を歴任。2008年経済産業省「第1回社会人基礎力育成グランプリ大賞」受賞を指導。また地域活性化としてNPOやまなしサイクルプロジェクト理事長も務める。
http://yamanashi.hyakusaka.com/

著書には『コンテクストデザイン戦略:―価値発現のための理論と実践―』芙蓉書房出版、2012年、戦略的マーケティングの構図—マーケティング研究のおける現代的諸問題』同文館出版、2014年など多数。

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