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サステナビリティ 新潮流に学ぶ

第14回:環境と向き合うインドの2つの横顔

SB-J コラムニスト・古沢 広祐

ーー大気汚染pm2.5と東ヒマラヤ自然保全

東ヒマラヤ自然共生学フォーラム、地域活動報告の様子(筆者撮影)

将来的に人口数や経済力で中国をこえる存在になるだろうと注目されているのがアジアの大国インド(人口13億人)です。その明暗まだら模様の国情について、環境に関連する最新のトピックをレポートしましょう。

中国を上回る大気汚染、スモッグ警報

この11月上旬に2つの国際会議でインドを訪問しました。一つは北東部のアッサム州で開催された東ヒマラヤ自然共生学(Naturenomics)国際フォーラムです。他方は、国際有機農業運動連盟(IFOAM)世界大会でニューデリーにて開催されました。後者の有機農業の世界会議には一部しか参加できませんでしたが、開催場所ニューデリーの大気汚染はすさまじいものでした。

経済発展と所得向上とともに有機農産物への需要が高まり、インドでも有機市場が大きく成長しています。それは国内需要のみならず有機紅茶やオーガニック・コットンなど国際需要の高まりによっても促進されています。

インド中央政府が有機生産を促進するための国家計画を発表したり、州政府のなかでも例えばシッキム州では全農地を有機に転換する方針を打ち出す政策を発表しています。世界大会の開催もこうした有機農業への関心の高まりが背景にあったのでしょう。

近年、有機農業が盛んになっているインドですが、国際会議の開催場所での深刻な大気汚染は目にあまるものがあります。有機という食への安全志向とは裏腹に、日々の呼吸で取り込む空気がこんな状態では本末転倒と言わざるをえません。大気汚染は、主に石炭火力発電所と自動車が原因ですが、地形的な事情で風が吹かずに汚染が滞留してしまうことも大きな要因になっています。

日本でも1960年代には大気汚染で光化学スモッグ警報が発令されたことがありましたが、インドの現状はきわめて深刻です。微小粒子状物質(pm2.5)の濃度は北京の1.4倍、外の空気を1日吸うことは、タバコ50本分に相当する影響力とのことです。経済発展と環境汚染の矛盾に悩む大都会のインドの一側面ですが、その一方で辺境の地ともいえる地方では自然環境の保全への取り組みが盛んになっています。

東ヒマラヤから発するの自然共生の試み

東ヒマラヤ山系につながる平原部(インド、アッサム州ほか)には、希少な生物種が多数生息し、野生のアジア象やトラなどが絶滅に瀕しています。気候変動による氷河の縮小、洪水など自然災害の多発、平原部ですすむ開発、失われゆく野生生物の保全取り組みが活発化しています。

東ヒマラヤ自然共生学フォーラム開催の記者会見 各国からの報告(バリパラ財団提供)

アッサム州最大都市グワハティで開催された東ヒマラヤ自然共生学(Naturenomics)フォーラム(11月2-3日)は、当地域を拠点とするバリパラ財団主催で、インドの自然保護団体や近隣諸国の代表者とともに、多分野の学者・専門家、地域の実践活動家が集まり、開発と保全の総合的な手立てや自然と共生する地域活動について話し合われました。

興味深いトピックがいろいろあるのですが2点ほど紹介しましょう。とくに注目されたのはチベット亡命政府のロブサン・センゲ主席大臣(首相、ダライ・ラマ14世の後継者)の参加で、興味深いスピーチをしたことでした。チベット高原こそ地球環境とくに気候変動の影響を強く受ける中心地の一つとして、世界がもっと注目して欲しいと言うのです。いわば故郷チベットからの難民とも言うべき国なき自治政府が、政治を離れて環境をメインテーマとする姿勢を表明したと受けとめられました。

チベット高原には4万6千以上の氷河があり、南極や北極に次ぐ第3の極とも言われるほど氷の水瓶(みずがめ)を蓄えています。近年の温暖化の影響で氷河が急速に消失しており、下流域への影響のみならず、モンスーン気候全体への影響(日本への影響も含む)も心配されています。南に続くヒマラヤ山系とともに、地球環境に大きな影響を与えるホットスポットの一つです。

そこからは10の巨大河川が流れ出て、インド、中国、パキスタン、バングラデシュほか、隣接アジアの人々を潤しています。そして洪水の脅威(防災対策)や水源利用での水争いなど、紛争の火種が心配され出している地域でもあります。その意味でセンゲ首席大臣の問題提起は、将来見通しとして傾聴に値するものです。国境の壁をこえた国際協力、国際連携のネットワーク拠点としてチベット高原の役割への注目とともに国際協調を促したのでした。

自然共生のシンボルになるか、野生のアジア象

アジア象の保全に貢献した人の受賞式(左が吉川プリアンカさん、筆者撮影)

もう一つのトピックは、開発と自然保護のホットスポットとして東ヒマラヤ地域の動向です。インド東北端に位置するアッサム州は紅茶の栽培地などで知られていますが、野生動植物の宝庫でもあります。地勢的にはヒマラヤ山系の東部、北にブータン国が隣接しさらにチベット高原が広がっています。そして、東南部の隣州(マニプル州、州都は日本軍の悲惨な戦地として有名なインパール)とミャンマーにつながり、西南部は巨大河川(ブラマプトラ川)の下流にバングラデシュが位置しています。

象やトラなど大型野生動物は、自然生態系の頂点に位置していることから、彼らの生息が地域の自然状態の診断指針として参考になります。世界で4万頭ほどしか残っていない絶滅危惧種のアジア象ですが、その約半数がインドで生息しています。1日に150キロもの食物(草食)を食べる大型動物ですから、広域の生息環境を必要としますが、かなり遠距離を動き回ることで自然植生の分布拡大(糞による種子の拡散)を支えてきました。

インドの神話では象は世界を支える聖なる存在として描かれ、一部役畜化された象は祭事などに登場したり労役を担う役割もはたしつつ、人間とはそれなりの共存状態が保たれてきました。しかし、開発が進んで生息地が縮小し、象牙を目的とする密漁などもあって絶滅に瀕する存在になったのです。現在、インドでは国立公園を整備したり野生生物保護区をつないで広域移動できる回廊を設置するなど保護に努めています。さらに環境教育に力を注いでエコツーリズムの振興などにも取り組んでいます。今回のフォーラムでは地域での取り組みが多数報告されました。

発展著しいインドでは、企業の社会貢献(CSR)も活発化しており、フォーラム開催にはタタ財閥の関連組織の協力もありました。日本との関係でいえば、ミス・ワールド日本代表2016の吉川プリアンカさん(日印ハーフ、東久留米生まれ)も参加して、インドと日本をつなぐエレファント・プリンセス(象使いの資格を持つ)として保全活動に尽力しており、国際交流と社会貢献活動として注目されています。

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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