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現代奴隷に関わる雇用の仕組み

SB-J コラムニスト・下田屋 毅

ILO(国際労働機関)とウォーク・フリー財団が発表した最新(2017年9月)のレポートによると、2016年時点で全世界には推定4030万人が現代の奴隷制の環境で働かされているとされ、また強制労働の被害者は推定2490万人とされている。さらに1600万人が企業活動から搾取されており、そのうちの約半分が「借金による束縛」に関わっている。

発展途上国だけでなく先進国においてもこれら現代の奴隷制、強制労働は存在しているが、この中で特に問題とされているのが、労働者や求職者の雇用手数料の負担である。

ILOの「公正な雇用のための一般原則および運用ガイドライン」において、「雇用手数料や関連費用は、労働者や求職者に課されるべきではない」としている。しかし、労働者や求職者に多額の雇用手数料や旅費などの関連費用を課し、労働者が借金を背負う形で働くこととなっている現状があり、借金によって束縛された状況に置かれてしまっているのだ。これは強制労働に該当し、労働者は債務が返済されるまで、借金を返済する手段として労働を要求されるのである。

全体の92%が雇用手数料の返済を余儀なくされる

国際人権NGO「Verité(米・マサチューセッツ)」が2014年に発表した報告書によると、マレーシアのエレクトロニクス産業に従事する近隣諸国からの移民労働者の92%が、雇用手数料に関して斡旋業者に支払いを余儀なくされており、求職者が債務労働に該当する状況が組み込まれているとしている。

またマレーシアの近隣諸国である、バングラデシュ、インド、ミャンマー、ネパール、ベトナムからの移民労働者が、マレーシアのエレクトロニクス工場で働いており、家電、コンピュータ周辺機器などの電子製品を生産する工場は、アップル、サムソン等の有名企業向けにマレーシアで生産されたものの輸出の3分の1を占めているとしている。

同報告書では、マレーシアのエレクトロニクスの工場約200社から計501人の労働者に対してインタビューを実施し以下のような結果となっている。

・92%が時間外労働により借金を返済しなければならないと感じている
・85%は借金の返済前に退職するのは不可能だと感じている
・77%は職を得るためにリクルート費用を支払わなければならず、その為に借金をしていた
・94%がパスポートを所持していないと返答
・71%がパスポートを取り戻すことが不可能または難しいと返答


これらは強制労働に該当する部分であり、また雇用手数料を支払った際の借金に関連している。マレーシアにおいては外国人労働者への雇用手数料の請求が常態化しており、その手数料が過剰で、移民労働者の負債と強く結びついていることが報告されている。また移民労働者の雇用時に、彼らに誤解を与えるような高待遇の採用条件を伝え、実際にはその条件とは違った労働環境下で強制的に働かされているのである。

またマレーシアで違法とされている企業によるパスポートの保持も行われており、移民労働者の移動の自由を制限している。移民労働者の多くは、雇用主や第三者が提供する住居で貧しい生活条件で居住し、特に第三者に雇用されている移民労働者は、企業の直接雇用の労働者よりも強制労働下で働かせられる可能性が高いという。

マレーシアへ出稼ぎにきているネパール出身の移民労働者(大卒)は、仕事を得るためにその家族が就職斡旋会社に雇用手数料として1500ドル(ネパールの年間収入の2倍以上、金利36%)を支払っている。これにより労働者は、1日12時間、週7日労働を余儀なくされている。このネパールの労働者がマレーシアに到着した際に、パスポートを空港で取り上げられ、それ以来パスポートは返却されず、移動の自由を制限されている。

倫理的な雇用方法・モデル

このような状況を改善するために国連機関の国際移住機関(IOM)ベトナムでは、企業の業務やサプライチェーンにおける現代奴隷や人身取引を排除することを支援するプログラム「CREST」を開発した。CRESTは以下の3つを柱として、企業側に移民労働者が奴隷と人身取引関わるような状況に置かれないように企業にプログラムを提供している。

●第1の柱:奴隷制度と人身取引に関する商業部門へ向けたトレーニング
●第2の柱:移民労働者に対する出発前/到着後のオリエンテーション訓練
●第3の柱:サプライチェーン・マッピングと倫理的な雇用の支援

この第3の柱において、特に雇用に関する内容をカバーし、雇用のプロセスとサプライチェーンの上流に焦点を当て自社とそのサプライチェーン上で移民労働者の搾取に関するリスクを軽減する手助けを行う。ここでは従業員の雇用方法や関連する人材紹介会社などを理解するためにサプライチェーン・マッピングを行うとともに、倫理的な雇用方法や慣行に関する指導、倫理的雇用モデルを実施するための段階的なアプローチを支援するとしている。

また移民労働者の雇用方法の変化を促進するために「責任ある雇用のためのリーダーシップ・グループ」が2016年5月に発足、人権ビジネス研究所(IHRB)やコカ・コーラ、ユニリーバなどから構成され、参加企業は「雇用主支払い原則」を遵守するとしている。そして今後10年以内に労働者に課される雇用手数料の完全撲滅を目指し活動を行っている。

労働者が仕事を得るために手数料を斡旋業者等に支払った場合、その後の雇用条件にかかわらず、会社で働く前に既に借金による束縛・債務労働の状況に陥っている可能性がある。これらは多国籍企業やそのサプライヤーに発生している出来事で、日本企業も例外ではない。

日本の外国人技能実習生制度に見る問題

また日本国内で雇用に関わる問題として、外国人技能実習生制度がある。日本では、技術移転や国際貢献の名目で中国や東南アジアからの技能実習生が雇用されている。しかし実際には、製造業や農業、漁業などの労働力不足を補うために技能実習生を活用している現状もある。

外国人技能実習生は、母国での訓練センターで日本語などの研修が必須とされその研修費用を負担している。また来日前に「送り出し機関(現地仲介団体)」に対しビザやパスポート、渡航費などの渡航前費用の負担、さらにその団体や仲介者への「手数料」の支払いがなされることもある。

そして、技能実習生自身の失踪を防ぐ名目で「保証金」を預けなければならない場合もあり、これらの費用の多くは、技能実習生本人が銀行や親族からの借り入れで賄い、その返済のために日本では弱い立場で働かなければならない状況に置かれている場合もある。その仕組み自体が借金による束縛・強制労働を引き起こしているといっても過言ではなく、改善が急務な部分である。

これらを踏まえ、国内外で奴隷と人身取引が発生しているその雇用の仕組みを企業が理解し、企業の側からそれらを排除する取り組み行うことが必要となってきている。

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。ロンドン在住CSRコンサルタント。日本と欧州のCSRの懸け橋となるべく同社を英国に設立。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業会社立ち上げ後、渡英。イースト・アングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA修了。2012年より英国IEMA認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習を日本で定期開催。BBT大学講師(担当:CSR)。

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