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CSRブランディング最前線

第16回:あるケーキ屋さんに学ぶ「6つの資本」による経営

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

~ ビジネスと社会課題解決を両立させ、「らしさ」で競争優位を創り出す!待望の戦略メソッド ~

事業を営む上で不可欠な資本には、「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つがありますが、信州の山間の町に、「6つの資本」で経営し、地元に愛され発展している素敵なケーキ屋さんがあります。

農業のプロフェッショナルとお菓子のプロフェッショナル

このケーキ屋さんの門をくぐると、緑と花いっぱいの庭園が広がり、ヨーロッパの民家を思わせるデザインの店舗がお客様を迎えます。洋菓子から和菓子まで幅広い品揃えで、老若男女に親しまれています。創業以来長きにわたり、社員全員が「まごころの味」にこだわり、お菓子を通じて「人と人のつながり」を伝えたいと思っています。

お菓子づくりの事業を営むには、まずは、「資金」「建物・設備」「従業員」「スキル・ノウハウ」といった4つの資本が不可欠ですが、このお菓子屋さんは、この4つに加え、もう2つの資本をとても大事にしています。それは、「地元の人々との良き関係」と「地域の自然の恵み」という資本です。

ショートケーキといえば、イチゴ。信州は、フルーツ王国です。オーナーは、できるだけ地元の農家さんがつくった厳選素材を使って、地域に役立ちたいと考えています。一つひとつの食材が、地域の一人ひとりの生産者によって、丹念につくられていることで、このお菓子屋さんは支えられています。これにより、信頼関係が生まれ、それがおいしさと安心につながっていくとオーナーは確信しています。

果物は、品種や産地、その年の出来によって、味も見た目も違います。農作物の味やかたちは、つくる人たちそれぞれの思いのあらわれであり、持ち味です。「つくり手の思いを大切にし、その思いをお菓子に乗せて届けることがお菓子の使命」とオーナーは唱えています。

「農業のプロフェッショナル」と「お菓子のプロフェッショナル」の共振・共創です。お菓子屋さんにとって、地域の農家さんはみんな大切なパートナーですし、自然の恵みあっての生業なわけです。社会課題である農家の事業承継についても、支援したいと考えています。

現代企業は、「6つの資本」で経営する

ここまでは、いま求められる経営の勘所を見事に押さえたお菓子屋さんの「6つの資本」による経営戦略をご紹介しました。では、国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council:IIRC)のフレームワークをイメージしながら、この「6つの資本」について敷衍します。

図の左側の高度成長期の工業化社会は、「経済ありき」で突き進んだ時代といえます。ところが、住民運動や公害訴訟等が起きてしまい、住民対策・公害対策が打たれました。社会や環境については、経済活動の与件として、あくまで「対策」が打たれていました。こうした対応が、日本の「企業の社会的責任」の元祖だといわれています。

ところが、図の右側の「持続可能な社会」を目指す今日の経営では、まったく視座が変わりました。これまでは、4つの資本(ヒト・モノ・カネ・情報)で経営することが常識でしたが、サステナビリティを希求する現代においては、「6つの資本」で経営すべきといわれています。

すなわち、企業活動の源泉として従来から広く認知されてきた「ヒト、モノ、カネ、情報」に対応する「人的資本、製造資本、財務資本、知的資本」の4つの資本に、「社会関係資本」および「自然資本」の2つの資本を加えます。これが「国際統合報告〈IR〉フレームワーク」の価値創造プロセスにおける「6つの資本」の思考原理です。

「経済ありき」ではなく、経済活動をするにあたっては、まずはコーポレートガバナンス(Governance)、すなわち、経営に対してけん制と監督を利かせていく仕組みを担保した上で、社会(Social)や地球(Environment)が健全であり続けることが前提となる、という考え方です。経済活動は、「社会」との良き関係があればこそスムーズに事が運び、「自然」あってのものだということです。

飲料メーカーにとっての「水」、製薬会社にとっての「薬草」に、もしものことがあれば、立ち行かなくなります。だしの素で有名な食品メーカーは、主原料であるカツオ節の恵みをいつまでも味わえるように、「カツオ」を深く研究し見守り、大切にしています。

企業は、社会とともに発展する

「持続可能な社会」とは、今を生きる世代だけが暮らすことができる社会ということではなく、次世代の地球に住む人々も、さらにその次の世代の人々もまた、地球から得られる果実を享受し生きていくことのできる社会のことです。「サステナビリティ(Sustainability)」という言葉は、これまで、企業活動を行うにあたって、「地球」を大事にするという趣旨で使われてきました。それが現在では、企業活動をするにあたって、社会や地球をおもんばかれば、企業もまた持続的に成長させてもらえるという脈絡で語られるようになってきています。

まさに、CSRの立ち位置である「企業は社会とともに発展する」というキー概念は、決して「きれいごと」ではなく、「ESG」を重視する投資家が企業に期待する「持続的成長・中長期の企業価値向上」に資するのです。健全な社会と地球があればこそ、健全な企業活動ができます。よって、企業と社会の相乗発展がもたらされます。現代の企業は、従来の4つの資本に、もう2つを加え、「6つの資本」による「新しい経営のあり方」が命題です。

こうした「新しい経営のあり方」のもと、さらに無形資産の中核であるブランド力に寄与する『らしさ』を発揮し、競争優位を創り出す戦略メソッドが「CSRブランディング」です。

編集部からのお知らせ

8月末に、細田さんの「新しい経営のあり方」研修が開催されます。理論や実践手法のわかりやすい解説や指導法に定評があります。ご関心のある方は以下より詳細をご覧下さい。
https://school.jma.or.jp/products/detail.php?product_id=100558

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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