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G☆Local Eco!

眠った地域に「息吹」を与えるリノベーションの力

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SB-J コラムニスト・青木 茂樹

県営倉庫をリノベーションしたHOTEL CYCLE(2017年3月、筆者撮影)


大林宣彦監督によって、坂や路地、小さな寺社など懐かしい風景が紹介された広島県尾道。路地裏には造船景気で沸いた飲食店が密集しているが、長い景気低迷期を乗り越え、いまはこの横丁が観光客や外国人が訪れるメッカとなっている。大林監督は狭い路地裏を「他人同士の肩が触れ合うためにある」と評したそうだ。

「いつか見た風景」として懐かしさを売ってきた尾道であるが、最近、新しい動きが出てきている。広島県尾道市から愛媛県今治市にかけての、島々をつなぐ新尾道大橋から来島大橋までの7つの橋と国道は、いまや「しまなみ海道」として名を轟かせ、その歩道をサイクリストが行き交うようになっている。尾道駅前のハーバーにも公営のレンタサイクルが設置されており、約800台の自転車が並んでいる。

リノベーションしていない県営倉庫(2017年3月、筆者撮影)

[G☆Local Eco!第10回]そんな環境の中、通過型の観光地ではなく、滞在型の観光地に変えていこうと、突如現れたのが「せとうちホールディングス」が仕掛ける複合施設「ONOMICHI U2」である。

県営倉庫のリノベーション(再生)活用の提案の募集があり、彼らが提案したものが、サイクリスト・フレンドリーな宿泊施設の「HOTEL CYCLE」と、地産地消を目指した飲食店「The RESTAURANT」「Yard Café」「KOG BAR」「Butti Bakery」だ。さらに、瀬戸内のライフスタイルを提案する物販部門の「U2 SHIMA SHOP」と 、そして自転車販売やレンタルサイクルの「GIANT STORE」を揃えている。

HOTEL CYCLEは部屋に自転車を持ち込み、壁掛けできることでも有名だが、井上善文副社長に伺ったところ、サイクリストは宿泊者の3割でしかなく圧倒的に一般客が多いという。さらに外国人宿泊者が3割を占め、30代が中心となっている。

元倉庫からカフェ・スペースへ生まれ変わった(2017年3月、筆者撮影)

せとうちホールディングスは、単に建物をリノベーションするだけではない。地産地消の食材を探し出し、レストランや物販向けに開発したり、「せとうち湊のやど」などでは、日本文化体験など実施したり、ソフト開発も積極的に行っている。瀬戸内という素材を深堀して、五感で感じる『心地良さ』をプロデュースしているのだ。

実は「瀬戸内」という概念は江戸後期につくられたものであり、それまでは灘や湊といった個々の海域を指し示す言葉しかなかった。日本人は細部をつめる能力は高いが、欧米人のようにグランドデザインをイメージするのが苦手なのかも知れない。ただ、地中海を知る欧米人が「The Inside Sea」と呼んでいたのを「内海」とは訳さず、「瀬戸内」と美しく訳したのは良かった。

シルクロードの命名者、フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンが、『支那旅行日記』で絶賛したことから、瀬戸内は世界に知られることになった。いま瀬戸内では、国際芸術祭とも連動しながらブランド・イメージが可視化され、新たなライフスタイルの提案とビジネス創造が始まっているのだ。

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青木 茂樹
青木 茂樹 (あおき・しげき)

サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー
駒澤大学経営学部 市場戦略学科 教授

1997年 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。山梨学院大学商学部教授、
University of Southern California Marshall School 客員研究員を歴任。
多くの企業の新規事業の立ち上げやブランド構築に携わる。地方創生にも関わり、山梨県産業振興ビジョン策定委員、NPOやまなしサイクルプロジェクト理事長。人財育成として、私立大学情報教育協会FD/ICT活用研究会委員、経産省第1回社会人基礎力大賞を指導。やまなし大使。
2022年4月より、デンマークに渡り現在 Aalborg University Business School 客員研究員を務める。

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