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第8回 :より良い社会形成のために ―ベトナム・ハノイ報告―

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SB-J コラムニスト・古沢 広祐

ベトナム独立70周年を記念する飾り(ハノイ市内・ホアンキエム湖畔、2015年筆者撮影)


今回は、最近私が関わり公表されたレポート(報告書)、書籍、特集雑誌の紹介と、先日訪ねたベトナム・ハノイでの「社会的事業」支援団体(CSIP)について報告しましょう。

レポートは、国際貿易投資研究所(ITI)のフェアトレードビジネスモデル研究会の報告書『フェアトレードビジネスモデルの新しい展開』で、私は第4章「持続可能な発展・開発動向とフェアトレード ―社会・経済システム変革の可能性―」を執筆しました。従来の市場経済・自由貿易に対抗し、途上国の貧困・社会問題の解決をめざしたフェアトレード運動、その新展開を見通す野心的な内容です。

書籍は、私が責任編集で刊行した『共存学4:多文化世界の可能性』(弘文堂)で、本連載記事とも深くかかわる内容ですので、ご興味ありましたらぜひご一読ください。

雑誌は、『農業と経済・臨時増刊号:ここまで来たバイオ経済・生命操作技術――私たちはどう向き合うか』、巻頭の総論を執筆しており、本連載の第5回に関連する内容です。

ベトナム、ハノイにはフィールドワーク授業の予備調査で訪れました(3/9~12)。協定校のハノイ大学(日本語学部)、JICA(国際協力機構)ハノイ事務所ほか、児童強制労働・人身売買(誘拐)・家庭崩壊などの子供達を救援する団体(Blue Dragon Children’s Foundation)や社会的事業支援団体(CSIP:Center for Social Initiatives Promotion)を訪ねました。

急速に経済発展をとげる社会主義市場経済のベトナムですが、光と影が織りなすまだら模様が散見される国です。最近は欧米、韓国、日本企業も多数進出しており、治安も比較的よいことや教育水準も高く勤勉な国民性も手伝って将来を期待される国のひとつです。

経済指標では、国内総生産(GDP)が約2千億ドル規模(2016年、越統計総局)の中所得国に属していますが、1日2ドル未満で暮らす貧困層は国民のおよそ4割(3333万人)を占めていると推定されています(アジア開発銀行、2011年レポート)。いわゆる多民族国家で、多数派のキン族の他に53の少数民族(約15%)が主に山間部で生活を営み、さまざまな格差問題を内在しています。

また近年の外資導入による経済の目覚ましい発展の裏で、公的債務が急拡大しており、GDPの6割を超えてその債務残高の伸びはGDP平均伸び率の3倍に達しています(2015年末)。国営企業、産業構造、インフラ整備の遅れなどの諸問題を抱えており、順調な発展が今後も進むかどうか、いわゆる「中所得国の罠」の克服(経済構造の変革)が課題となっています。

しかし、たんに先進国に追いつけという経済政策だけでは、今日の先進諸国が直面する社会問題や諸ジレンマ(格差、新たな貧困、環境問題ほか)を抱え込むことが懸念されます。そこで連載3回目でも紹介した、社会的企業やNGO/NPO、協同組合は、営利中心に傾きがちな市場経済のマイナス面を克服する試みとして近年注目されています。

いわゆるCSRの拡張や、欧米で先行していた社会的経済を促進する動きが、アジア地域にも拡がりだしているのです。

冒頭で紹介したレポートとも関連しますが、新たなビジネスモデル形成がめざされており、そうした一連の動きがベトナムでも模索されています。急速な経済発展をとげる社会主義国ベトナムにおいて、上からではなく下から草の根の社会的企業、NGO/NPO、協同組合を育成する取り組みとして注目されます。

とくにハノイで活動するSCIPの取り組みは興味深く、設立者のファム・キュウ・オアン(Pham Kieu Oanh)女史はベトナムForbes誌により、ベトナムに社会貢献する女性20名の1人として選ばれました。

オアンさんはオーストラリアの大学院で学んだあと、女性と子どもの権利に関する国際機関やNGOでの社会活動を経験し、アイルランドの社会起業家やいくつかの財団の協力を得て2008年にCSIPを設立しました。最初の5年間で52の社会的事業体の立ち上げ協力、支援をおこなってきました。

団体支援や援助とともに、啓発普及としてオンライン団体紹介(209組織)などをおこなう一方で、社会貢献に関与する企業や国際機関、財団に働きかけて、包括的インパクト投資(IIP)の組織化、啓発、中小企業への社会サービス事業開発の手伝いなどもおこなっています。

連載第3回では、韓国での社会的企業の法制化にふれましたが、ベトナムでもオアンさん達の貢献もあって2014年の企業法改正において、社会的企業の項目が加わりました。日本でも類似の取り組みが展開しており、今後紹介していく予定ですが、いまだ社会的認知は低いのが現状です。

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古沢 広祐
古沢 広祐 (ふるさわ・こうゆう)

國學院大學経済学部(経済ネットワーキング学科)教授。
大阪大学理学部(生物学科)卒業。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済)研究指導認定、農学博士。
<研究分野・活動>:持続可能社会論、環境社会経済学、総合人間学。
地球環境問題に関連して永続可能な発展と社会経済的な転換について、生活様式(ライフスタイル)、持続可能な生産消費、世界の農業食料問題とグローバリゼーション、環境保全型有機農業、エコロジー運動、社会的経済・協同組合論、NGO・NPO論などについて研究。
著書に、『みんな幸せってどんな世界』ほんの木、『食べるってどんなこと?』平凡社、『地球文明ビジョン』日本放送出版協会、『共生時代の食と農』家の光協会など。
共著に『共存学1, 2, 3, 4』弘文堂、『共生社会Ⅰ、Ⅱ』農林統計協会、『ギガトン・ギャップ:気候変動と国際交渉』オルタナ、『持続可能な生活をデザインする』明石書店など。
(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。
http://www.econorium.jp/fur/kaleido.html

https://www.facebook.com/koyu.furusawa

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