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G☆Local Eco!

『公私混合!?』北陸温泉街の地域連携に学ぶ

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SB-J コラムニスト・青木 茂樹

和倉温泉からみた七尾湾(2017年3月、筆者撮影)

[G☆Local Eco!第9回]日本一の温泉宿は?と訊かれれば、多くの人は「加賀屋」と答えるであろう。加賀屋は「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で36年間1位を取り続けたという脅威の実績を持つ。加賀屋の接客については、テレビや雑誌などでこれまでも様々に取り上げられてきているので、ここでは加賀屋のある石川県「和倉温泉」の地域戦略に注目してみたい。
 
和倉温泉は、いまから1200年前に沖合の小島に白鷺が止まっていることから、温泉が湧き出ていることが発見されたという。江戸時代になると加賀前田家の御用達となり、小島の周りは埋め立てられ、現在の和倉温泉のエリアが生まれた。和倉温泉は東に富山、南西に金沢、北に輪島がほぼ等距離にあり、能登半島エリアの観光のハブ(中継点)となっている。

合資会社が整備した湯元の広場(2017年3月、筆者撮影)

和倉温泉観光協会のデータによれば、平成3年のバブル時代の入浴客は約167万人であったが、平成21年には約81万5千人と半減した。その後は徐々に盛り返し、一昨年は北陸新幹線の効果で約102万人と大きく伸び、特に関東からの来客比率がそれまでの14%から26.2%へと増え、客単価も上がったという。

現在、開業ブームが一段落し、いかに入浴客数を減らさないか、さらにどの地域のどんなニーズのお客様に重点を置くかが課題となっている。

和倉温泉には加賀屋グループの4館の大型旅館を含め、21館の旅館が七尾湾沿いに連なっている。ここで驚くのは、旅館経営者や地域住民が出資している、合資会社や観光協会などで運営されている大型施設が非常に多いことだ。大ホールを備えた観光会館、弁天崎源泉公園、湯元の広場などを共同所有している。

さらに新しい施設としては「総湯」という大型日帰り入浴施設、「湯っ足りパーク」という足湯付きの公園、人工芝のサッカーグラウンドが3面、テニスコートが24面も最近整備された。これらは市が出資し観光協会などに運営を委託している。さらにメインストリートの電柱の地中化は温泉街の景観を一変させた。

このように七尾市が観光産業への理解を示し、さらに投資を仕掛けており、それを観光協会や合資会社が運営している。まさに良い意味で公私混同ならぬ『公私混合!?』によって地域を活気づけようとしている。

七尾市が整備した電信柱の地中化(2017年3月、筆者撮影)

一般的に温泉街や商店街では組合の一致団結が難しく、さらには行政と民間の連携も難しい場合があるが、なぜか和倉温泉は団結感が強い。不思議に思い、観光協会の平野正樹さんに質問したところ、江戸時代、前田家には和倉温泉の湯守がおり、厳しく温泉税の徴収をしていたという。

明治になって源泉の権利を皆で取り戻し、そのときに地域住民までもが株主となって合資会社を設立したという。だから地域の自治的な団結意識が、和倉温泉には強く残されているのではないかとのことだった。

加賀屋自身も「地域とともに社会にとって価値のある事業を創造する」と謳っている。旅館が保有する加賀友禅や輪島塗などの文化財を巡る館内ツアーが人気であり、文化財の深い理解を物販へとつなげることで伝統産業の維持を図っている。

JR西日本とは観光列車「花嫁のれん」のサービスや調理を加賀屋がサポートしている。また七尾市出身の世界一のパティシエ辻口博啓さんと、「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」を展開している。すでに都内を中心に洋菓子店を展開して成功している辻口さんを、地域活性化にご協力頂きたいと小田與之彦社長が口説いて始まったという。

辻口博啓さんは夢を追い続けている子どもたちを応援したいと、「子ども絵画コンクール」を開催。北陸の素材を活かした「YUKIZURI(雪吊り)」というお菓子の売上の3%を寄付して、グランプリ受賞者はルーブル美術館へ招待しているそうだ。

都心に人口が集中し、地方経済が縮小するなかで、いまこそ連携しての地域の価値づくりの「クロスバリュー」を深化させている公私一体の協力に期待したい。

和倉温泉~わくらづくし~ http://www.wakura.or.jp/

「ル ミュゼ ドゥ アッシュ」の「YUKIZURI(雪吊り)」 http://le-musee-de-h.jp/sweets/yukizuri.html

辻口 博啓 夢プロジェクト http://yume-project.info/

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青木 茂樹
青木 茂樹 (あおき・しげき)

サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー
駒澤大学経営学部 市場戦略学科 教授

1997年 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。山梨学院大学商学部教授、
University of Southern California Marshall School 客員研究員を歴任。
多くの企業の新規事業の立ち上げやブランド構築に携わる。地方創生にも関わり、山梨県産業振興ビジョン策定委員、NPOやまなしサイクルプロジェクト理事長。人財育成として、私立大学情報教育協会FD/ICT活用研究会委員、経産省第1回社会人基礎力大賞を指導。やまなし大使。
2022年4月より、デンマークに渡り現在 Aalborg University Business School 客員研究員を務める。

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