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CSRブランディング最前線

第10回:ある牧場主に学ぶ「ブランディング超入門」

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SB-J コラムニスト・細田 悦弘

~ ビジネスと社会課題解決を両立させ、『らしさ』で競争優位を創り出す!待望の戦略メソッド ~


私の公開講座にお越しになる受講生から、よくこんなシンプルな質問を受けます。
「ブランド」って、何ですか?どうやって作るのですか?

今やマーケティング分野だけではなく、企業経営において、『ブランド』が競争力の源泉となる重要な資産の一つであることは、共通の認識になってきています。そこで今回は、「ある牧場主」のひたむきなブランディングを例に解説します。

牧場主Aさんの『ブランド・A』ができるまで

『ブランド(brand)』は、他の牛から自分の牛を区別するために、牛のわき腹にジューと押した独自の「焼き印(burned)」が語源といわれています。牛の所有者は、その焼き印によって「うちの牛ですよ」と主張できますし、周りはその「焼き印」を見て、「どこそこの牛だ」と識別します。

では、ある牧場主・Aさんに登場いただきます。Aさんは、子供の頃から、牧場主になるのが夢でした。広々とした土地に、お気に入りの工夫をこらした牛舎を構え、自分ならではの育て方や製法で、格別の牛肉を提供し、思いを込めて世の中に喜んでもらおうと努力を重ねてきました。

そこで、出荷する際、自分が誇りと責任を持って提供できる牛肉には、イニシャル「A」をモチーフにしたマークをつけ、自分の『想いやこだわり』をメッセージとして包み紙に記載することにしました。もちろん、マークは商標登録をしました。

ある日、スーパーでたまたま「A」というマークの牛肉を購入したお客様が、「なんて美味しいのだろう!」と感動し大満足します。包み紙のメッセージを読んで「なるほど!」と思い、「A」マークを記憶し、次も買ってみます。期待どおりの商品だったので、友人・知人に紹介したり、SNSでつぶやいたりしました。

すると、Aマークの牛肉が多くの人々やマスコミでも評判となり、たくさんのロイヤル・カスタマーが獲得できました。この段階で「A」というマークは、単なる記号ではなく、『信頼と愛着』のシンボルとなっています。お客様は、「ちょっと高くても、全然問題ない」「遠くに行っても欲しい」「待ってでも手に入れたい」と思うようになります。『ブランド・A』の誕生です。

記号としてのマークが、「ブランド」に進化していく過程は、下記のとおり、5段階に整理できます。

第1段階:識別機能…「ふむ、ふむ、これは○○という会社のものだな」
第2段階:保証機能…「○○マークの商品なら安心だよね」
第3段階:パフォーマンス機能…「○○の商品なら機能的にも他よりも優れている」
第4段階:意味・象徴機能…「○○ブランドは、先進的、人気がある、モノが違う、カッコいい」
第5段階:駆動機能…「このブランドを選択することによって、より自己表現が可能になる。自分の価値が上がる。ライフスタイルそのものだ」

『ブランドづくり』の恩恵
こうして、Aさんは、安定した収益を得ることができ、良い人材も雇用でき、従業員は誇りを持ってイキイキと働き、取引先や金融機関からも好条件で支援を受け、近隣からもさまざまな応援をしてもらえるようになりました。そして、さらに再投資をして、もっともっと良い牛肉を、もっともっと沢山つくることができるようになりました。これが、ブランドづくりの恩恵です。

引き続き、Aさんは、真摯な『思い』と『こだわり』を持って牛を育て、市場に提供します。この「思いとこだわり」こそが『らしさ(Brand Identity)』であり、顧客や社会は、「A」というシンボルマークを見て、その『らしさ』に期待をしてきます。その期待に応え続けることが、ブランド戦略の要諦です。ブランドが、『約束』といわれる意味はここにあります。これを、ブランド・プロミスといいます。

「ブランディング」とは
「ブランディング」とは、ブランドをつくり上げ、マネジメントをしながら、さらにいっそう強くしていく一連の活動をいいます。ありたい姿(らしさ:Brand Identity)に期待を寄せるステークホルダーとの『約束』を一貫して守り続け、「企業と顧客や社会との長期的なゆるぎない絆」を構築することを目指します。

「差異性」が決め手となる時代
『ブランド』は、事業戦略において、同じことをしてもパフォーマンスが上がる、同じことをするのにコストがかからなくなる、誠にありがたい経営資源です。高度成長期までを支えてきた「モノ、カネ」などの有形資産に立脚し、規模の経済を追求した産業資本主義といわれた時代から、「モノではなく価値を提供」し、「差異性」が決め手となる時代を迎えました。『ブランド』は、無形資産(見えざる資産:intangibles)として、時代が求める競争優位の源泉です。

本テーマの「CSRブランディング」は、顧客や社会からの信頼と愛着を獲得し、持続的成長・中長期の企業価値向上のための重要戦略です。

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細田 悦弘
細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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