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G☆Local Eco!

ソーシャル・ウェーブをいかに既存事業へ引き込むか?

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SB-J コラムニスト・青木 茂樹

新年の風物詩となった箱根駅伝 Image credit:luckyno3

[G☆Local Eco!第7回]今年も年末年始のテレビの話題となったのは、紅白歌合戦であろう。毎年、その出場者が誰、審査員が誰かというのが話題となるが、昨年末の評価は視聴率約40%(過去最高は昭和38年の81.4%)でここ数年の水準を維持したものの、各誌やネットでの評価を見ると「司会の進行がグダグダであった、タモリとマツコの夫婦芝居が意味不明、シン・ゴジラの演出が理解しにくい」と酷評が多いようだ。

唐突すぎたのが最後の勝敗で「視聴者審査は紅257万、白420万、会場審査は紅870票、白1274票・・」と続いたところで「これにゲスト審査員を加えると、紅9票、白6票で今年は紅の優勝です!」となったことだ。視聴者2票、会場2票、ゲスト審査員が各1票ずつということでルール上は問題なかったのであるが、消えた視聴者審査の160万票は、当然SNS上、火に油を注ぐこととなった。

そもそも紅白は、年の瀬の家族団らんの機会に、一年を振り替えるきっかけとなるのが本来の姿であった。1953年にテレビ放送が開始され、皇太子御成婚、キックボクシングやプロレスブーム、そして東京オリンピックと、まさに世の中の話題はテレビであり、テレビが今日的な「家族」や「国民」をつくったと言っても過言ではない。

しかし今日、テレビからネット動画や携帯へのオンデマンド視聴へと分散したため、「家族」や「国民」を体感する装置としてのテレビは難しい時代になった。紅白担当者がそのキャスティングに苦労するのは当然であろう。

ではもはや正月に家族で楽しむ国民的行事はないのか・・・。「箱根駅伝」はどうか。主催は関東学生陸上競技連盟であるが、これを国民的な番組へと仕掛けたのは「箱根駅伝」の商標を持つ日テレである。1987年の全国ネット中継が始まるまでは、関東ローカルの大学イベントであり、図表1)に示すように当初は視聴率が14.1%しかない番組であった。


図表1:箱根駅伝の視聴率推移と複数回優勝校

現在、テレビ視聴率は約3割と倍増、沿道応援は100万から120万とも言われ、国民の100人に一人が沿道に立つというまさにソーシャル・ウェーブになっている。駅伝を現場で観ても実は一瞬の出来事であり、またマラソン中継をテレビで観ても本来、長時間の割には変化の単調なスポーツである。これを次から次へとドラマが展開されるイベントとして成立させたのは、日テレの仕掛けである。

日テレ系列局総出で中継車をつなぎ、優勝争い、区間賞、シード権争い、そして突然の故障と次々をヤマ場を見せていく。これに監督や家族、ファンからからのコメントを挟み込み、青春の汗と涙に称賛を呼び込む仕掛けは成功し、当然、箱根駅伝のSNSや口コミサイトの盛況を呼び込むこととなった(図表2参照)。

当初、話題となったのは、花の2区に外国人を登用することで当時、議論を惹き起こし、視聴率が伸びる中で優勝をもぎ取った地方大学の山梨学院である。駅伝の国際化の先駆けだったと言っても良い。その後、連勝する大学が出てきてその知名度を挙げ、東洋の優勝は4000人の受験生増をもたらした。

実は多くの視聴者は、ほとんどの選手の名前を知らない。紅白がその年の流行したタレントに依存するのに対し、名もなきアマチュアを仕掛けによって演出する仕組みを成功させ、ソーシャル・ウェーブを引き起こした。
 
これはテレビだけの問題ではない。過去のヒット商品のブランドに依存し、新製品のヒットが出せない企業が多く存在する。また、お菓子やカップラーメンも定番ブランドの焼き直しのブランド拡張で凌ぐ企業も多い。マスメディアによる刷り込みプロモーションだけでブランドがつくられる時代は終わった。

社会的大義(Cause)に向き合って、ソーシャル・ウェーブとして称賛を引き起こす戦略こそが、サステナブル・ブランドへとつながる。そのために社会に対する企業の立ち位置(Purpose)を見つめ直し、企業の社会的責任や社会貢献というテーマを、企業の主軸に据えた図太いブランディングへの挑戦を期待したい。


図表2:サステナブル・ブランディングにおける箱根駅伝の4P

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青木 茂樹
青木 茂樹 (あおき・しげき)

サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー
駒澤大学経営学部 市場戦略学科 教授

1997年 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。山梨学院大学商学部教授、
University of Southern California Marshall School 客員研究員を歴任。
多くの企業の新規事業の立ち上げやブランド構築に携わる。地方創生にも関わり、山梨県産業振興ビジョン策定委員、NPOやまなしサイクルプロジェクト理事長。人財育成として、私立大学情報教育協会FD/ICT活用研究会委員、経産省第1回社会人基礎力大賞を指導。やまなし大使。
2022年4月より、デンマークに渡り現在 Aalborg University Business School 客員研究員を務める。

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