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グローバル戦略に統合され始めたBOPビジネス(上)

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SB-J コラムニスト・平本 督太郎

ウガンダ、中央アフリカへのバイヤーが集まるターミナル(筆者撮影2014年)


一時期、メディアで度々目にしていたBOPビジネス。最近、あまり目にすることがなくなったが、どのような現状にあるのだろうか?実は、BOPビジネスは既に企業の経営戦略に融合され、通常のグローバル戦略の一環として推進されている。

他方で、BOPビジネスの収益化に成功し、企業の成長を支える主要事業へと成長させている企業ほど、「BOPビジネス」という言葉に関心がない。彼らにとっては、ただ純粋に自社のミッションに従って事業を推進しているだけなのである。本コラムでは、こうした企業の代表事例として、自動車メーカーのスズキを紹介したい。

スズキが、インドにおいて日本を代表する企業として活躍していることは、皆様もご存知だろう。インドの現地法人のマルチ・スズキは、スズキにとって新興国市場における稼ぎ柱である。

2015-16期には、マルチ・スズキの売上は前年度比14.6%増の5820億ルピーに達している。そして、マルチ・スズキのバルガバ会長は以前ウォールストリートジャーナルで、「マルチが成長を続けることができた唯一の理由は、農村地域での売上増加だ」と語っている。

出典:経済産業省「平成27年度アジア産業基盤強化等事業(収益指向型BOPビジネス推進事業)最終報告書」
  • マルチスズキの地方・農村対応の店舗数と国内売上における農村比率

すなわち、農村地域での販売促進はマルチ・スズキの近年における成長を支える柱の一つとなっているのだ。マルチ・スズキによる地方・農村対応の店舗は、2010年の319店舗から2015年の1,045店舗と3倍以上に増加している。また、インド国内市場の売上における農村比率は2010年の16%から2015年の34.5%へ成長するまでに至った。2015-16期には、144,215村をカバーし、インドの農村社会への影響力も非常に大きくなった。

さらに、マルチ・スズキは、自社製品を販売するだけではなく、インド国内での自動車産業の発展に技術支援という手段で貢献している。自社製品のメンテナンス網の拡大に寄与する技術者育成について、現地政府と連携し、積極的に行っているのだ。

2015年までに27州で141の職業訓練校と連携し、延べ14,500人にトレーニングを提供している。こうした取り組みによって、多くのBOP層が、修理工として働くアフタサービス産業が活性化・高度化することは、BOP層の就業・起業機会の増加に直接結びつく。

マルチ・スズキが、地域と共存し、持続可能な成長を実現するために取った手段は、彼らが意図していなくても、世界から優れたBOPビジネスだと称賛されるにふさわしいものなのである。

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平本 督太郎(ひらもと・とくたろう)

一般社団法人BoP Global Network Japan代表理事 兼 SDGsビジネス・エグゼクティブ・プロデューサー。金沢工業大学経営情報学科専任講師。2016年3月まで野村総合研究所(NRI)で、日本企業数十社とBOPビジネス、アフリカビジネスのフロンティア市場における事業創造・拡大などのコンサルティング業務に従事。2010年に経済産業省BOPビジネス支援センターの立ち上げ・支援を行い、2012年から同センターの運営協議会委員を務める。著書に『BoPビジネス3.0』(英治出版、2016年)。

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