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世界で加速する人権への関心

世界で加速する人権への関心

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SB-J コラムニスト・下田屋 毅

会場の様子(スイス・国連ジュネーブ事務所)(C)2016, Takeshi Shimotaya

今年で5回目を迎える「国連ビジネスと人権フォーラム」が2016 年11月14日~16日までスイス・ジュネーブで開催され、参加した。全世界から2500人が参加登録し、参加者の数は年々増加している。参加者の割合は、政府14%、市民社会・NGO・労働組合30%、企業24%、大学研究者12%。男女の内訳は、女性55%、男性45%となっている。

日本からは国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンが組んだツアーで参加した人などもおり、約40人が参加していた。日本企業の人権への関心の高さを表している数だ。

今回は主要テーマとして、「国が模範を示し指導力を発揮する」「バリューチェーンのすべてにおいて、企業がリーダーシップを発揮し影響力を行使する(企業が人権の尊重を行う上での金融機関の役割・責任の重要性を含む)」「企業が持続可能な開発目標(SDGs)を達成する上で人権尊重を企業行動の中心に据えるモデルを模索する」「人権侵害の被害者の救済へのアクセスへの取り組みを強化する」の4つが掲げられた。全体会議が1日1回設定された。それ以外の個別セッションは64個設けられ、多くの議論が繰り広げられた。

今回はその中で次の3つをお伝えしたい。

登壇したジョン・ラギー教授 (C)2016, Takeshi Shimotaya

ラギー教授のスピーチ

ビジネスと人権に関する指導原則の策定と推進に尽力しているジョン・ラギー教授が1日目の全体会議でスピーチを行った。
ラギー教授は、「企業が持続可能な開発への貢献を最大化するために、持続可能な開発の『人』の部分を中核において、人権尊重の推進に努力しなければならない」とメッセージを伝えた。

そして「企業は、自らの事業や世界的なバリューチェーンを通して、人権尊重を推進することで、持続可能な開発の恩恵を最も必要としている人々の生活に前例のない大規模で肯定的な影響をもたらす」とした上で、企業がSDGsを進める上での懸念点を挙げた。

そのなかの一つとして、「チェリーピック(良いとこ取りをする)」がある。ラギー教授は、企業はSDGsの17目標すべてに対する可能な貢献についての評価をするつもりがなく、マテリアリティ(重要性)、または単にビジネス上のリスクと機会を置くことを基本として「チェリーピック」をする可能性があると指摘した。

「ビジネスと人権は、企業にとって重要なものとして最初は認識されていないが、実際には顕著なリスクだ。企業行動とそれに関連する行動は人々に負の影響を及ぼすものであり、今まではそれらを見逃してきた」とも警鐘を鳴らした。そして人権と気候変動の根本的な違いとして、人権は二酸化炭素の排出を埋め合わせするカーボンオフセットのようにオフセットすることができないことを強調した。

ホンデュラスの人権活動家の殺害

3日目の全体会議の冒頭で人権活動家の殺害の事例が、遺族から紹介された。遺族のローラ・カセレス氏は、ホンデュラスの水力発電のダム建設プロジェクトで、先住民の人権、土地の権利を擁護する活動に関わった母親のベルタ・カセレス氏と同僚が殺害されたことを訴えた。

ホンデュラスは、国家として母親の人権を保護せず、企業がプロジェクトを推進しやすいように、人権擁護者である母親を犯罪者とし、脅迫し、そして殺害に至らしめた。そして、企業によるプロジェクトはそのまま実行され、オランダ、フィンランド、米国等の銀行からの融資は継続されていると伝えた。

日本の国別行動計画

個別のセッションでは、各国が行動計画の進捗状況を伝えた。日本の志野光子大使は、日本がビジネスと人権に関する指導原則に則って国別行動計画の策定に取り組むことを発表。東京オリンピック・パラリンピックを2020年に控え、ビジネスと人権に関する取り組みを進めるための国別行動計画の導入をこの数年間で実施していくという。

このように世界では国家の人権の保護、そして企業に関する人権の尊重を行う動きが加速している。自社の活動が進んでいるか是非確認し、行動へと移すことを進めていただきたい。

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。

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