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世界で加速する人権への関心

世界の水リスク対応は協働からイノベーションへ

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SB-J コラムニスト・下田屋 毅

「2016ワールド・ウォーター・ウィーク」はスウェーデンのストックホルムで2016年8月28日から9月2日まで開催された

いま、水リスクへの注目が高まっている。地球規模での温暖化により、降水量が変化し、干ばつや洪水が起き、水の所有権や水の資源配分、水質汚染など水をめぐる紛争も発生している。

世界経済フォーラムの「グローバルリスクレポート2016」によると、工場生産などの経済活動や人口増加が、世界各地で水資源を減少させているという。激化する経済競争と誤った水資源管理の影響で、世界で水が利用できなくなると予想されている。つまり「水リスク」が、産業界だけでなく全世界に重大な影響を及ぼす可能性が非常に高いと世界的に認識されているのだ。

OECD(経済協力開発機構)が2012年に実施した調査によると、水の需要は2000年から2050年までに、工業用水では400%増加し、汽力発電は140%増加、生活用水は30%増加と全体で約55%の増加が予想されている。2050年には、特に南・北アフリカや南・中央アジアで、世界人口の約40%の人々が深刻な水不足に見舞われる可能性があるという。

「2016ワールド・ウォーター・ウィーク」

「グローバルリスクレポート2016」では潜在的影響が大きいグローバルリスクは、「気候変動の緩和・適応の失敗」だと特定している

こうしたなか、水リスクに対応するための議論が国際的な会議の場で定期的に議論されている。その会議の一つ、毎年8月下旬にストックホルムで開催される「2016ワールド・ウォーター・ウィーク」に筆者は参加した。2014年に引き続き2度目の参加だ。ここでは国家レベルでの水対策とともに、企業レベルでの水リスクの対応の議論が行われた。

今年のテーマは、「持続可能な成長のための水」。世界約120カ国から200以上の団体・組織がイベントに協力し、国連機関や各国大臣、政府関係者、各国の開発機関、そして企業、NGO、大学・研究機関など、約3100人が参加する大規模な会議だ。国や地域、企業レベルの水問題に関する幅広い課題に対応するプラットフォームとして機能している。

私は企業関連のセッションに参加した。再認識したのは、「企業1社で実施するには限界がある。NGOなど関連団体を中心に他企業とも協働を積極的に行う必要がある」ということだ。さらに協働からイノベーションに結び付け、それを他の地域へとスケールアップする方向で動いていることである。

イニシアティブの一つである「トイレット・ボード・コアリション」は、低所得市場に衛生問題の課題解決を提供するためのビジネスのプラットフォームだ。ユニリーバやキンバリークラーク、日本ではリクシルが参加していた。英NGOウォーター・エイドはこのプラットフォームに参加するたけでなく、H&MやHSBCなどとの個別の協働プロジェクトを実施している。

PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)についても盛んに話され、最近立ち上げられた「スウェーデン・テキスタイル・ウォーター・イニシアティブ」には、H&Mやイケアなどが参加した。「水の効率的使用」や「水の汚染予防」、「廃水の処理」などについて検討を始めている。

イニシアティブには、最初から解決策があるわけではない。第一段階として、イノベーションを生むために協働で解決策を模索する機会をつくる。競合他社であっても、サステナビリティに関しては積極的に協働していく。

水対策は自社のサステナビリティのカギ

このように水への対応はリスク対応のみならず、機会として捉えて、競合他社とも協働する動きが世界では加速している。さらに国連が昨年発表した持続可能な開発目標(SDGs)と気候変動対策のパリ協定に絡めた動きもある。

このトレンドに乗り遅れる企業は、水という貴重な資源を将来的に確保できなくなり、自社の持続可能性にも大きな影響を与えることを認識しなければならない。海外の企業はすでにサステナビリティに本気で取り組み始めていることを念頭に置き、認識を改めて活動を進めていただきたい。

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下田屋 毅
下田屋 毅 (しもたや・たけし)

サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。大手重工メーカー工場管理部にて人事・労務・総務・労働安全衛生などを担当。環境ビジネス新規事業立ち上げ後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。

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