第6回: ビジネスと社会課題解決の両立(2) ~ポーターとコトラーの『知の交差点』
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~ ビジネスと社会課題解決を両立させ、「らしさ」で競争優位を創り出す!待望の戦略メソッド ~
経営戦略としての「社会課題解決」の捉え方
これまで、『経営戦略』といえば、企業がいかに利益を創出するか、という視点から論じられてきました。とかく、企業の目的を利益の追求のみと捉えると、多少の社会問題や環境問題等の外部不経済を引き起こしてしまうのは仕方がない、という発想になりがちです。しかしながら、地球環境や社会の持続性なしには、ビジネスは成り立たないことも自明です。そこで求められるのが、経済価値と社会価値を高次に融合させる、「事業によって社会課題を解決し、社会とともに発展する」という経営の視座となります。
P.F.ドラッカーは、『企業をはじめとするあらゆる組織は、社会の機関である』とし、あらゆる組織が、人を幸せにし、社会をよりよいものにするために存在すると述べています。今日まで長きに渡って営々と発展してきている企業には、創業者の熱い想いと信念があり、そこには必ずと言っていいほど「社会を豊かにする」「社会を幸せにする」といった本旨が込められています。
ただ、その『社会』が激しく変化するので、これまでの対応が歓迎されなくなったり、更には、かえって害になったりします。その逆に、以前はあまり気に留めていなかったことが、新たなバリューと見なされることが起こり得えます。だからこそ、その目まぐるしく変化する『社会』のニーズを的確に捉え、社会価値の創造や社会の課題を解決していくことが、ステークホルダーからの信頼獲得や自社の持続的成長の好機(opportunity)を生み出します。時代の変化にしなやかに対応して社会の新しいニーズに応えていくことが、これからも中長期に発展していくための経営戦略となります。
フィリップ・コトラーの「マーケティング3.0」
こうした文脈から、前回は、経営学者であるマイケル・ポーター教授の 「CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)」について言及しましたが、現代マーケティングの父と名高い、ノースウェスタン大学ケロッグスクール教授のフィリップ・コトラー氏は、「マーケティング3.0」というコンセプトを提唱しており、「企業と社会の両方に価値を生み出す企業活動」として注目されています。
それは、「製品中心」の考え方であるマーケティング1.0から、「顧客中心」のマーケティング2.0を経て、「人間志向」「価値主導」のマーケティングを3.0としています。これからのマーケティングは、消費者を全人的存在として捉え、その奥深くにある「社会をよりよい場所にしたい」という欲求に対して、企業は、より大きなミッション・ビジョンを持ち、世界に貢献し、『社会の不安や課題に対するソリューション』を提供するというスタンスを構えなければならないと唱えています。
企業は、生活者に製品・サービスだけでなく、精神的価値や社会的価値をも提供する存在へと変貌しています。つまり、「人格(社格)」「人柄(社柄)」を持った存在として見られる時代になったわけです。
さらに新しいところでは、マーケティング4.0として、顧客の自己実現を満たし、最高の自分を引き出してくれる商品・サービスが求められているといった領域にも踏み込んでいます。
『CS』から『HS』へ
マーケティングの世界では、これまで「CS(Customer Satisfaction):顧客満足」が叫ばれてきましたが、企業と社会の価値共創の時代を迎え、顧客満足を超えた新しいビジネス哲学やスタイルが求められるようになりました。製品・サービスの機能的価値・情緒的価値を提供するのはもとより、『地球や社会にも良い』といった精神的価値も志向されるようになってきました。これが、HS(Human Satisfaction)、いわば『人間としての充足感』をもたらします。
顧客満足においても、高品質に加え、安心安全、健康等のCSR要素が重要視されるようになり、さらには消費者としてだけではなく、『人として満ち足りた気分になれる』という視点が、時代が求めるプレミアムな競争力となってきています。
いみじくも、ポーターとコトラーの両氏、経営側・マーケティング側のそれぞれの大家の論陣も、「ビジネスと社会課題解決の両立」の観点から収斂することができ、現代の企業戦略のエッセンスの磁場が『社会』というキーワードでシンクロしてきています。まさに二大巨頭が、21世紀メガトレンドの『知の交差点』で出会っているように思えます。
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そして、この分野に『らしさ』を加味してこそ、真の競争優位となるというのが、「CSRブランディング」の★(レッドスター)※のポジションです。