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G☆Local Eco!

Market InからSocial In, Social Outへ(1)

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SB-J コラムニスト・青木 茂樹

甲州市勝沼の風景 (2014年12月 筆者撮影)


写真は1300年の日本の歴史を持つと言われるぶどう品種「甲州」の産地、甲州市勝沼の風景だ。今が「甲州」の収穫期、同時にワイン醸造が始まっている。昔ながらの食用でもあるが、いまや日本固有種のワイン原料としてOIV (国際ぶどう・ワイン機構)に認定され、EUやアジアに輸出されている品種で、大きさにも依るが約2房(1kg)でワイン1本になる。

白百合醸造の内田多加夫さんは「この景観を守りたいなら国産ワインを飲んで欲しい」と言う。「TPPは農産物の輸出チャンスだ」という声が聞かれる一方で、国内の農地は高齢化とともに耕作放棄地がどんどん増えているのが実態だ。とくに傾斜地の農地は放棄地となりやすい。稲穂垂れる黄金色の田んぼに代表される日本の農業はGDP内の比率では約1.2%にしかならないが、この国の原風景として各地の景観をつくってきた。これを守るには農業で食べていける仕組みをつくらねばならない。

勝沼醸造の有賀雄二さんは「農業を守るためには、農家からワインぶどうを高値で買いとる仕組みをつくらねばならない」と言う。海外のワイナリーやネゴシアン(卸売商)からは「君はワインの値付けが間違っている(安すぎる)」と指摘されるそうだ。だから、勝沼醸造のヴィンテージワインが手に入る特約店は、日本酒やワインの専門店やレストランに限られ、価格競争の激しいチェーン店には置いてはいない。

そこにあるのは、ワイナリーが農家も流通も利益が出る仕組みをつくり、これを持続させていくことこそがブランディングだという考え方だ。ブランドが単なるネーミングやパッケージだけではない本質論がある。こうした社会的課題を飲み込んで、これを乗り越える社会的仕組みと、これを消費者に理解して頂くマーケティングこそがサステナブル・ブランディングなのだ。

図表1)Market In からSocial In, Social Outへ 筆者作成  (※)

[G☆Local Eco!第4回(1)]マーケティングのテキストでは、企業の技術(Seeds)をベースに造ったものを、市場で売り抜くことをProduct Outという。飽和化した市場では消費者のNeedsを聴き、商品化することへの転換が必要だと言われ、Market Inの重要性が語られる。さらに機械部品の製造・卸売のミスミは「顧客の声を聞くことからビジネスを始めよ」といい、あらゆるニーズに対応した品揃えの通信販売システムを確立した。市場の声を聞くという矢印の方向は一緒であるが「ビジネス起点は市場にあり。Market Outこそ重要だ」とこれを徹底し、顧客が主、企業は従とそれらの比重を逆転させたのだ。

しかし、今日の市場は競争激化している。図表に示したようにRed Ocean(赤き血の海)と言われ、そこでの市場獲得や利益維持の困難さが課題となっている。

そこで今日、注目されているのが社会的大義(Cause)に耳を傾け、そこから製品やサービスを開発しようという考えだ。これを「Social In」と呼ぼう。そこは、市場では解決できない、経済合理性を見出しにくい問題が山積だから、決して平易な道ではない。しかも社会的課題は、他企業、行政、消費者やNPO・NGOを巻き込んだ複合的な連携で解決せざるを得ないことも多い。

しかし一度、確立されると揺るぎない強さを示す。G Local Ecoの第2回で挙げたアメリカの地ビールのブルワリーやバーは、地域再生の象徴の場としてそれぞれの地域で支持され、高いブランド・ロイヤリティーを確立している。その市場は狭いが深く、彼らはまさにBlue Ocean(青く静かな海)に浴している。

※図表1について、Product InやMarket Inが名詞+前置詞であるのに対し、Social Inは形容詞+前置詞となっている。Socialは、Social ResponsibilityやSocial Innovation ,Social Mediaのように「社会的◯◯」と様々な名詞と結合して多様な文脈での意味を為しており、これらを企業活動に引き込んでいくという意味で、現時点では敢えてSocial Inとしている。

オリンパスは、企業理念に「生活者として社会との融合、価値観の共有・・」を目指して「Social IN」を提唱しており、Social INtegrity、Social INnovation、Social INvolvementを挙げている。オリンパスのINは接頭辞であり、筆者とは意味は異なる。だが、底流にある思想は同様であろう。

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青木 茂樹
青木 茂樹 (あおき・しげき)

サステナブル・ブランド国際会議 アカデミック・プロデューサー
駒澤大学経営学部 市場戦略学科 教授

1997年 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得。山梨学院大学商学部教授、
University of Southern California Marshall School 客員研究員を歴任。
多くの企業の新規事業の立ち上げやブランド構築に携わる。地方創生にも関わり、山梨県産業振興ビジョン策定委員、NPOやまなしサイクルプロジェクト理事長。人財育成として、私立大学情報教育協会FD/ICT活用研究会委員、経産省第1回社会人基礎力大賞を指導。やまなし大使。
2022年4月より、デンマークに渡り現在 Aalborg University Business School 客員研究員を務める。

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